横領の前提要件を欠くと判断、雑損控除の適用を否定
カテゴリ:02.所得税 裁決・判例
作成日:11/30/2010  提供元:21C・TFフォーラム



 審査請求人の従業員が貸金庫に預けていた現金を持ち逃げしたことが雑損控除の対象になる損失に該当するか否かの判断が争われた事案で、国税不服審判所は請求人と従業員との間に横領の前提となる委託信任関係が認められないため横領には当たらないと判断、雑損控除の適用を否定して、審査請求を棄却した。

 この事案は、代表取締役である審査請求人が貸金庫に保管していた現金を従業員に持ち出されたため損害が生じたとして雑損控除を適用して申告したのが発端。しかし原処分庁は、回収できる損害賠償額が確定しておらず雑損失の額も確定していないと判断、申告年分に雑損控除の対象になる盗難による損失は生じていないと認定して更正処分等をしてきた。

 そこで請求人は、銀行に対する預金支払請求訴訟の敗訴によって損失が確定していることを理由に更正の請求をした。これに対して原処分庁が、更正すべき理由がない旨の通知処分をしてきたため、その取消しを求めて審査請求していたとう事案だ。

 裁決はまず、雑損控除の対象になる損失についての請求人、原処分庁の主張をいずれも斥けた。その上で、損害賠償金等の有無の確定にかかわらず損失が生じた年分に雑損控除するのが相当であると解釈。また、雑損控除の対象となる横領の概念は所得税法上に規定はないため、刑法上の横領罪にいう横領と同一のものになるとも解釈した。

 しかし、請求人が従業員に定期預金の管理を任せていたとは認められず、持ち去られた定期預金について請求人と従業員との間に横領の前提となる委託信任関係も認められないことから、従業員が定期預金の一部を払い戻し、費消した行為は横領には当たらないと判断、棄却した。

(国税不服審判所、2009.09.19裁決)