書面による債権放棄の証拠がなく寄附金に該当と判断、棄却
カテゴリ:01.法人税 裁決・判例
作成日:12/20/2016  提供元:21C・TFフォーラム



 個人事業を営む代表者に有していた売掛金を放棄することで生じた雑損失の金額の損金算入の可否が争われた事件で国税不服審判所は、代表者からの売掛金の回収状況を考慮すると債権の全額が回収不能とは認められず、債権放棄が書面により行われたことを示す証拠、事実がないことを理由に寄附金に該当すると判断、審査請求を棄却した。

 この事件は、病院開設に関する業務等を目的とする審査請求人の代表者が、第三者から賃借していた建物内に設置し、貸付けの用に供していた内装設備等に関して、建物の賃貸借契約の解約に伴い内装設備等の所有権を放棄したとして計上した固定資産除却損及び貸付けにより生じた債権を放棄したことを理由に雑損失として計上したことが発端。これに対して原処分庁が、放棄の事実は認められないことを理由に否認、更正処分等を行ってきたため、原処分の一部取消しを求めて審査請求したもの。

 法人側は、代表者に対する売掛金の放棄の時点において債権の回収可能性がなく、債権放棄された金額は法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)の取扱いにより、損金に算入することができる旨主張して、原処分の取消しを求めた。

 しかし裁決は、債権の放棄が行われた事業年度末の前後における代表者の収入の状況及び事業年度中の代表者からの売掛金の回収状況を考慮すると、債権の全額が回収不能とは認められないと指摘。また、債権を放棄した事実は認められるものの、債権の放棄が書面により行われたことを示す証拠がなく、書面により明らかにされた債務免除額はないのであるから、同通達の(4)に掲げる事実にも該当しないと指摘。さらに、同通達の(1)ないし(3)に掲げる事実に関する証拠がなく、その事実も認められないため、同通達が定める法律上の貸倒れには該当せず、貸倒損失として損金には算入されないと判断した。

 結局、回収不能とはいえない債権を放棄したものであるから、対価なくして経済的価値を有する債権を債権者が任意に処分したものであり、かつ、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的な理由が存在するとは認められないから、債権放棄を理由に計上した雑損失の金額は寄附金に該当すると判断、棄却した。

(2016.02.28国税不服審判所裁決)