従業員と被相続人の株式の売買事実を認定、原処分を取消し
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:02/03/2009  提供元:21C・TFフォーラム



 相続開始前の従業員との間で交わした株式の売買契約が仮装と認定され、重加算税が賦課されたことの可否が争われた事案で、東京地裁(杉原則彦裁判長)は、相続開始前の株式売買予約契約の締結の事実を認定、原処分を全面的に取り消す判決を下した。

 この事案は、パチンコ店等の遊技場や飲食店を経営する同族法人の創業者の妻(会長で被相続人)が、信託中の同社株式に係る売買契約を総務部長と締結後、総務部長が同株式を持株会に譲受価額と同額で譲渡したことが発端。その後、相続に伴い、この持株会の株式を相続財産から除外して申告したところ、原処分庁が更正の上、重加算税の賦課決定処分をしてきたため、相続人らがその取消しを求めて提訴していた事案だ。

 つまり、原処分庁側は持株会の設立が相続開始後だったため、相続税の回避という確定的な目的のもとに内容虚偽の申告書を提出してきたと認定したわけで、持株会に譲渡した株式が相続財産に含まれるか否か、また重加算税の賦課決定処分は適法か否かが争点になっていた。

 これに対して判決は、売買契約書の内容から被相続人と総務部長間の売買契約締結の事実を認定。信託契約が相続開始前に解約されており、株式の所有権は売買契約の効果として相続開始前つまり信託契約の解約時点で完全に移行していたという判断からだ。その上で、円滑な事業承継の実現化という目的の重要性を考慮すれば、総務部長に負担がかからないように配慮したことが、株式の所有権の取得を否定する根拠とまではならないとも指摘した。結局、相続人から持株会に所有権が移っている株式は相続財産に含まれず、仮装行為も存在しなかったと指摘して相続税の申告は適法と判示、原処分を全面的に取り消している。事件は国側が控訴を断念、納税者勝訴のまま一審で確定した。

(2008.10.24 東京地裁判決、平成18年(行ウ)第739号)