相続税の申告漏れに絡む告発事件で、不正の存在を否定
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:08/05/2014  提供元:21C・TFフォーラム



 被相続人(夫)の相続税の申告の際に預貯金、株式等を除外して殊更過少な相続税額を記載した内容虚偽の申告書を提出したと判断され、相続人である妻が告発された事件で、神戸地裁(丸田顕裁判長)は、妻が「偽りその他不正の行為」を行ったとは認め難く、検察側からの犯罪の証明もないから、相続人である妻の無罪を言い渡した。

 この事件は、夫の死亡に伴う遺産分割協議の結果、相続財産を単独取得した被相続人の妻が告発されたもの。検察側は、妻が相続税を免れようと預貯金、株式等を相続財産から除外した上で、相続税額が2億円余あったにもかかわらず、8000万円余の殊更過少な金額を記載した内容虚偽の申告書を提出し、法定納期限の徒過、不正の行為によって1億円余の相続税を免れたと認定した上で、懲役1年6ヵ月、罰金3500万円の求刑をした。

 つまり、弁護人が指摘する財産が相続財産に含まれるか否か、妻が偽りその他不正の行ったか否かが争点になった事案で、弁護人は預貯金及び有価証券を客観的に過少申告したことは間違いないものの、それは妻の誤解、失念等によるものであり、相続税を不正に免れようとする意思はなかったのであるから、偽りその他不正の行為があったとはいえないと反論した。

 判決は事実関係を整理した上で、偽りその他不正行為とは、真実の課税物件を隠蔽し、課税対象になることを回避するため、課税物件を殊更に過少に記載した内容虚偽の申告書を提出することをいうと解釈。つまり、単に過少申告があったというだけでなく、逋脱の意図に基づき、手段として申告書記載の課税物件が法令上のそれを満たさないものであると認識しながら、敢えて過少な申告を行うことを要し、反対に行為者がそのような意図に基づかず、不注意や事実の誤認、法令に関する不知や誤解等の理由によって過少申告を行ったような場合は、偽りその他不正の行為には当たらないという解釈だ。

 結局、逋脱の意図に基づき、敢えて虚偽の過少申告を行ったと認める証拠はなく、逋脱の意図等がなかったとする妻側の供述のほうにこそ信用性も認められると指摘、無罪を言い渡したが、脱税の告白事件で無罪判決は希であり、不正の判定には慎重な対応が必要なことを示唆した判決といえよう。

(2014.01.17神戸地裁判決、平成25年(わ)第56号)