相続税法上の受益者には当たらないと判断、課税処分を否定
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:07/25/2011  提供元:21C・TFフォーラム



 祖父が米国の州法に準じて米国籍のみを有する孫を受益者として設定した信託が祖父から孫への贈与に当たるか否かの判断が争われた事件で名古屋地裁(増田稔裁判長)は、孫は旧相続税法4条1項の受益者には当たらないから課税処分は違法と判断、納税者側の課税処分の取消請求を全て認容する判決を言い渡した。

 この事件は、祖父が米国の州法に準拠した、米国籍のみを有する孫を受益者とする信託設定行為に対して、原処分庁が贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をしてきたため、孫がその取消しを求めていたもの。

原処分庁は、祖父が信託財産の所有権を孫に移転させ、受託者名義の財産としていること、孫は信託財産を保管し、必要に応じて信託財産を受益者に分配、処分することが許容されており、その管理・処分権限が排他的であること、かつ子孫らの教育、扶助、保健、慰安及び福利を図る目的で行使することが定められており、受益者のために一定の目的に従って行使されることが予定されていることなどを理由に、旧相続税法4条1項に定める信託行為に該当すると主張していた。

 これに対して判決はまず、孫は信託設定により直ちに信託から利益を得ることはできず、祖父が死亡するか生命保険の満期が到来して初めて信託から利益を得ることが可能になると指摘。また、孫は第一次的に受益者とされているものの、信託が受領した保険契約に基づく保険金を直ちに全額受領できるわけではなく、裁量によって分配を受けるのみであり、しかも限定的指名権者の指名によって孫以外の者が信託の利益の分配を受けることが可能であるとも指摘。そうした点を考慮すれば、孫は旧相続税法4条1項の受益者には当たらないことから、課税処分は違法であると判断して、孫側の主張を認容する判決を言い渡している。判決内容を不服とした国側が控訴したため、その判断は控訴審に委ねられた。

(2011.03.24 名古屋地裁判決、平成20年(行ウ)第114号)