更正時に絵画の価額の変更なくても信義則違反はないと判示
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:05/10/2005  提供元:21C・TFフォーラム



 生前に被相続人から相続人に交付された金員が生前贈与か立替金かの判定が争われた静岡地裁判決(宮岡章裁判長)では、その17号事件としてゴッホ作の「医師ガシェの肖像」の相続税評価額が信義則違反の有無の判定と絡んで争われたが、絵画の評価については原処分庁の主張をほぼ認める判決内容となった。

 絵画等の相続税評価額の判定はよくトラブルになるところだが、納税者は5000万米国ドル、原処分庁は7500万米国ドルを主張していた。両者の主張には2500万米国ドルの開きがあったわけだが、納税者側は5000万米国ドルとして申告したものの、相続税の更正時にその価額が変更されなかったのであるから、原処分庁が訴訟の段階になって7500万米国ドルであることを主張するのは信義則違反に該当すると主張していた。

 これに対して判決は、相続開始1年余後に取得価額よりも高額で相続財産の絵画が売却されている事実に注目して、絵画の価格下落傾向は認められないと指摘。一方で、原処分庁主張の精通者意見については世界的名画の歴史的・社会的価値に専門的知見を有する美術館学芸員であるが、絵画の時価を判定する際の精通者意見として採用することはできないと指摘しつつも、原処分庁主張の7500万米国ドルを相続開始時の為替レートに引き直して79億円余と認定した。

 また、信義則違反の有無については、税務調査時に税務職員が絵画の評価が過少であると指摘している事実に触れ、納税者主張の評価額を容認する旨の公的見解を表示したとは認められないと示唆。さらに、訴訟へ手続きが進む過程で原処分庁が総額主義の観点から新たな価額を主張することは原告が予見し得たとも指摘、信義則上特に保護すべきものがあるとは言えないと判示して、納税者の主張を斥けている。

(2005.03.30 静岡地裁判決、平成12年(行ウ)第16号)