米国籍の孫を受益者とする信託設定行為は孫への贈与と逆転判決
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:05/27/2013  提供元:21C・TFフォーラム



 米国籍のみを有する孫を受益者とする信託を米国で設定したことが、祖父から孫への贈与に当たるか否かの判断が争われた事件で、名古屋高裁(林道春裁判長)は贈与には当たらないと判断した一審判決を全面的に否定、国側勝訴の逆転判決を言い渡した。

 この事件は、米国籍のみを有する孫を受益者とする信託を米国の州法に準拠して孫の祖父が設定したのが発端。ところが、この信託設定行為を原処分庁が祖父から孫への贈与と認定して贈与税の決定処分、無申告加算税の賦課決定処分をしてきたため、孫がその取消しを求めて提訴したのが発端。その結果、一審の名古屋地裁が受益者として直ちに保険金を全額受領できるわけでもなく、信託の裁量によって分配を受け得るのみであるなどの事実認定から課税処分を違法として納税者勝訴の判決を言い渡したため、判決結果を不服とした国側がその取消しを求めて控訴したという事案である。

 控訴審でも孫側は、受託者に委ねられている分配の裁量権は一定の目的等に従うべき制限を受けており、その制限が満たされない限り必ず分配を受けるとは限らないことなどを挙げた上で、信託設定によって孫に信託受益権が限定的に帰属したともいえないため、旧相続税法4条1項の受益者には該当しないという主張を展開した。

 しかし判決は、相続税等の租税回避を防止するため、受託者が他人に信託受益権を与えたときは、現実に信託の利益の配分を受けなくても、その時に信託受益権を贈与したものとみなして課税するものであると旧相続税法4条1項の趣旨を解釈。また、受託者の裁量権も、受託者側は信託目的の範囲内で受益者の利益を図るために行使する義務があり、孫に金員を必要とする具体的事情が生じた場合に受託者が何らの決定をしないのは信託契約違反となるため、孫は金員の分配を請求できると判示して孫側の主張を斥けている。結局、孫は旧相続税法4条1項にいう受益者に該当すると認定して国側に軍配を上げたわけだが、孫側は控訴審の判決内容を不服として上告している。

(2013.04.03 名古屋高裁判決、平成23年(行コ)第36号)