農作業の全部委託と認定、農地の納税猶予特例の適用を否認
カテゴリ:05.相続・贈与税 裁決・判例
作成日:06/30/2008  提供元:21C・TFフォーラム



 農地等に係る相続税の納税猶予特例の適用をめぐり、被相続人が生前、農地等の耕作を第三者に全面委託していたのか、一部委託だったのかの判定が争われた事件で、名古屋地裁(松並重雄裁判長)は被相続人が「死亡の日まで農業を営んでいた個人」に当たると解することはできないと判示、同特例の適用を求めた原告(相続人等)の主張を斥けた。

 この事件は、農業を営む被相続人が生前、高齢化を理由に、農協に耕作の全面委託を申し込んだことが発端になったもの。これに対して原処分庁が第三者への耕作の全面委託を理由に農地等に係る納税猶予特例の適用を否認、更正処分をしてきたため、相続人等がその取消しを求めた事案だ。

 相続人等は、委託した農作業は農業機械で行う耕耘、田植え、肥料散布、稲刈りであって、機械による作業よりも時間を要する除草・水管理は自らの作業として家族で行っていたのであるから全面委託ではないと主張するとともに、死亡の日まで農業を営んでいたのであるから、同特例の適格性が認められると主張していた。

 判決は、原告等は委託した農作業の内容を見ていないのであるからその作業時間を的確に把握していたかに疑問がある上、第三者が作業全般を行っていたのであるから一部委託とはいえないと指摘。また、農業委員会発行の適格証明書があるからといって農業経営の実態がなくても、同特例を適用できるとまで解することはできないとも指摘。さらに、生前に何ら親族関係のない第三者に農業経営を委託していた被相続人が「死亡の日まで農業を営んでいた個人」に該当すると解することもできないと判示している。

 農業経営者も高齢化が進み第三者への耕作委託が増えてくるだけに、実務的に留意しておきたい判決だ。

(2008.02.28 名古屋地裁判決、平成18年(行ウ)第78号)