ジャーナリストのつぶやき
第5回
   
著 者:伊藤歩
掲載月:2003年04月
  


第五回 歪んだ銀行行政を正論でバッサリ切る“混沌”は元エリート銀行員?

 小説『非常銀行』の著者・江上剛こと小畠晴喜氏が、今年3月勤務先のみずほ銀行(旧第一勧業銀行)を退職した。小畠氏は、高杉良のヒット小説で、映画化もされた『金融腐食列島 呪縛』で、朝日中央銀行を救う4人組の一人・広報部副部長松原秀樹のモデルでもある。

 退職の理由は、融資先への強引な増資要請を、現場の支店長たちに強要する、経営陣の自己保身まがいの経営姿勢にほとほと嫌気がさしたためらしい。

 4月1日の『大機小機』に登場した“混沌”氏も、「多くの疑問が提起される中で強行され、親密生保や融資先企業を相手にした奉加帳増資は、金融行政の汚点として歴史に残るのではないか」と厳しく批判している。

 この日の記事は、イラク問題のどさくさ紛れにおかしなことがいくつも起きている、ということがテーマだ。その“おかしなこと”の一つとして一連の大手行の増資問題を上げている。




 このほかにも金融機関と関係の深い政治家が、金融機関の決算対策のために会計処理の変更を求めて露骨な横車を押している、米ウォルマートをスポンサーに再建が決まっている西友に産業再生法の適用対象にして政策投資銀行の金融支援などの優遇措置まで付けてやるなど、過剰なサービスが目に余る、といった点も指摘。

「経済産業省が産業再生法の実績作りに選んだのだとすれば、何をかいわんやだ。もはやこの国の政治と経済は救いようのない弛緩状態に陥ってしまったと思わざるをえない」とバッサリ。

 また、“混沌”氏は1月23日のこのコーナーでも、自助努力という名の銀行の悪あがきを批判している。銀行国有化のメリットは政府の信用が民間資本を代替することで、銀行の資本不足が原因で起きる貸しはがしや不良債権処理の先送りがなくなること、反対にデメリットは政治の介入を招いたり、硬直的な経営に陥るおそれがあることや、企業の選別がしにくくなることだという。

 そして、国有化が賢明な選択でないのなら、「自己資本比率8%のBIS規制に従うハイリスク・ハイリターン型の銀行は二行もあればよく、(中略)8%を金科玉条に悪あがきで失うものの大きさを考えれば、そして銀行自身がその選択をしないのであれば、金融庁が誘導すべきではないのか」という、極めて現実的な結論を導き出している。

 “混沌”氏は強烈なインフレターゲット反対論者でもある。デフレ退治にインフレターゲットは安直過ぎる、コントロールがきかなくなってハイパーインフレになったら、国家の信用の破壊を招き、無秩序状態を招く、という持論を展開し、インフレターゲット推進論者に、「あなたの主張は国家信用の破壊を意図したものではないのか、それならばそれによってあなたは何を守ろうとしているのか」と問いかけている。

 強烈なインフレターゲット反対論を唱えるあたりは、本流の日銀マンを想像させるのだが、銀行行政に対する持論からは、現状を憂えるマトモな銀行員を想像させる。ただ、現役の臭いは薄い。とすると、この“混沌”氏、金融政策論をきちんと勉強した元エリート銀行員ではないかと思うのである。