脅威の公立動物園
   
作成日:03/31/2006
提供元:今村仁税理士事務所
  


■■■ 解説 ■■■


■上野動物園を抜いた「旭山動物園」

北海道旭川市にある旭山動物園(小菅正夫園長)は、2004年夏の入場者数が東京の上野動物園を越えました。
さらには、2004年度の入場者数は145万人にのぼり、過去最高だった前年を約60万人上回りました。
参考までに、旭山動物園がある北海道旭川市の人口は約36万人です。

なんかすごい動物園が、北海道にあるようですね。
旭山動物園

でも過去の旭山動物園の歴史を見ると、山あり谷ありでした……。


■日本最北の動物園誕生

日本最北の動物園である旭山動物園が誕生したのは、1967年7月1日。
初年度の入園者数が45万人で、その後83年度までの59万人までは順調に入園者数を伸ばしてきました。

しかしその後入園者数が減少に転じ、年間4億円の維持費が「旭山動物園お荷物論」にまで発展しました。
そんな冬の時代でも、当時の園長である菅野さんは、「金をかけてもらえないなら、その中でできることはないか。逆にお金があったら、どんな施設にしようか。」と考え続けました。

閉園後も職員らとともに、こんな動物園にしたいという「夢の動物園」をスケッチにしていきました。
まさかそのスケッチが、現実になるとは……。


■途中閉園

その後も入園者数の減少に歯止めはかかりませんでした。
さらにはエキノコックス症で死亡した動物が発覚されたため、冬の閉園を前に94年8月に途中閉園するという事件まで起きました。

エキノコックス症の影響は大きく、翌95年の入園者数は28万人、96年は26万人にまで落ち込みました。ピーク時の半分ですね。
まさに「旭山動物園にとっては超氷河期の時代」でした。


■市長とのタッグ

そんな中、97年に新市長就任一期目の菅原功一さんが、様子を見に来ました。
そこで目にしたのが、「こども牧場」。
「こども牧場」では、一日に数回、飼育しているウサギやモルモットを「抱っこ」できる時間を設けています。

ここで、以下の旭山動物園のHP上にある小菅園長の「園長室」の日記17.3.4より抜粋。
http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/

幼児の行動を観察してみると、不思議なことが見られます。多くの子どもが、ウサギを両手で抱え込み、頭を下げて全身でウサギを包み込むのです。誰も教えていないのに・・・。私は、その瞬間に命は伝わったのだと思います。命は覚えるものではなく、感じるものだからです。でも、それだけで“命の大切さ”は伝わりません。そのためには,命は決して後戻りしないことを知らなければ・・・・。
 
教えていなくても、「頭を下げてウサギを包み込む」・・・んですね。
さらに、園長室の日記を見ると、
 
命の大切さを心に刻むには、身近な生きものの死を体験しなければならないのだと思います。愛しているものの死に臨んだ時の心の苦しさが、“かけがえのない命だからこそ、大切にしなければならない”ことを認識する大切で唯一の瞬間なのです。
愛するものの死を通してしか、生きていることのすばらしさは伝わりません。そして,その命が地球上に存在するためには,命の入れ物が必要なのです。その入れ物がヒトであり,オランウータンであり,オジロワシなのです。
 
この「こども牧場」を見た新市長が、動物園の取り組みに理解を示し、97年が開園30周年にあたることもあり、新設備などの投資に予算がつきはじめました。


■V字回復

97年度には、巨大な鳥かごの中で鳥を自然に近い状態で見せる生態展示・行動展示を形にした「ととりの村」がオープンしました。
http://www.j-gate.net/~koyo/asazoo11.htm

そして翌年以降、「もうじゅう館」や「ぺんぎん館」などが出来て、とんとんびょうしで入園者数が増えていきました。


■旭山の思い

旭山動物園の特長を私なりにまとめると、
1.命を伝えるという使命(上記の園長日記参照)
2.行動展示
3.顧客サービスの充実

従来の動物園は、動物の姿形を見せる「形態展示」というスタイルです。
それに対して、動物本来の行動や能力を見せる展示スタイルが「行動展示」と呼ばれ、旭山動物園で行うスタイルです
さらには、旭山動物園での展示方法は動物をできるだけ自然の姿で見せようとする「生態展示」の要素も合わせ持っています。

再び、小菅園長の日記によると、

動物には,それぞれに人間には遠く及ばないものすごい能力があります。それを発揮させてやれば,きっと動物は気分がいいに違いないでしょうし,見ている人も驚くに違いありません。まず,動物たちに,快適な暮らしをしてもらい,それをお客様に見ていただこう。それも、動物園ならではの視点で・・・。
私たちは,動物の姿形ではなく,「動物たちの特徴的な行動を展示する」ことにしたのです。
 
これがまさに、「行動展示」というものです。


■従業員みんなのスケッチから産まれました。

さらに旭山動物園の特長は、お金のかかるハード施設面だけではなく、きめ細かいソフト面である顧客サービスの充実です。

・夜の動物の迫力やすごさを知ってもらおうと、「夜の動物園」の開催
・冬の動物の姿も見たいという入園者の声を受けて、「冬の動物園」の開催
・担当飼育係による手書きの「ワンポイントガイド」の設置 などなど

これらは、過去に理想を描いた従業員みんなのスケッチから産まれました。
小菅園長は言う。
「施設のハード整備はもちろんだが、それを生かすソフト面がなければここまでこなかった」と。


■経済効果

旭川大経済学部教授の小野崎保さんの推計によると、経済波及効果は施設整備にかかった投資額の2.67倍に相当。
6月に開園した「あざらし館」までの改装事業の投資額は27億円。
効果は72億円に上ることになります。


■旭山動物園は、公立動物園です。

奇をてらった「珍獣」がいるわけでもなく、過剰な設備投資をしているわけでもなく……。
これだけの顧客サービスをして、そして何より動物園本来の使命である、命の大切さを伝えることを一生懸命されています。

行ってみたいと思いません?
私はぜひ行ってみたいなぁと思いました。
で、で、で、この旭山動物園の正体は……、

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公立動物園でっす!
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公立動物園ということは、今までのすばらしい顧客サービスやアイデアは、

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すべて公務員から産まれました。
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手書きの「ワンポイントガイド」を書いているのは、あなたや私の周りにもたくさんいる同じ「公務員」の方なのです。

ここで、副園長さんの坂東さんの談。
「公務員だけど、不思議と権利を主張するような体質ではなった」
「新人だろうがやる気優先。アイデアを出したら原則ノーはなく、やってみろです」

公の施設がみんな「旭山動物園」のようだったら……、
今言われている「民営化」なんてしなくていいんだけどなぁ。


■税金を払う人・もらう人

手書きの「ワンポイントガイド」を書く旭山動物園の飼育係は、公務員であり、立派な「税金をもらう人」。