遺産分割前に発生した法定果実の分配
   
カテゴリ:法務
作成日:01/12/2016
提供元:アサヒ・ビジネスセンター
  





旭課長
「黒田さん、監査も終わったことだし、お茶でもしませんか。」

黒田
「はい、ご馳走になります。」



旭課長
「リエちゃん、お茶とケーキをお願いします。」




リエ
「は~い。黒田さんは、紅茶とコーヒーどちらにしますか。」

黒田
「では、コーヒーでお願いします。」

旭課長
「先日、友人が相続開始から遺産分割が決まるまでの期間に発生した、相続財産である賃貸不動産から生じる賃貸料収入を各相続人でどのように分配したらいいのか聞かれたのですが。」

黒田
「相続財産からの果実ですか。」

リエ
「果実って、果物のことですか。」

黒田
「食べる果実だけではなく、物から生じる利益や収益のことを法律用語で果実といいます。果実には、天然果実と法定果実があります。天然果実とは物の用法に従い収得する産出物をいい、法定果実は物の使用の対価として受けるべき金銭のことを言うのです。旭課長の友人は、法定果実の分け方を尋ねているのですよ。」

リエ
「なんだ、果実でも食べられない果実なのね。課長は、その友人に何と言って答えて上げたのですか。」

旭課長
「分割協議が成立すると遺産分割の効果は相続時に遡るので、その賃料も不動産を取得した各相続人で分配するのが妥当ではないかと答えたのですが……。その答えが合っているのか専門家の黒田さんにお聞きしようと思いまして、教えて下さい。」

黒田
「そうですね。遺言書があれば、法定果実は簡単に分けることができるのですが、遺言書がないと、複数の相続人がいる場合には、遺産分割が成立するまでに数ヵ月間かかり、その期間に発生した法定果実をどのように分配すべきか争いになることが多く、実際に相続人の間で訴訟を起こしていますね。その訴訟の中で、最高裁判所の判決では、『不動産賃料という法定果実は、遺産とは別の財産と考えるべきであり、相続開始から遺産分割の間各相続人はその賃料を、法定相続分に応じて取得する』と判断を下しています。また、『法定果実は共同相続人の法定相続分に応じて帰属することになり、それはその後の遺産分割によっても影響されることはない』とも言っています。」

旭課長
「では、私が友人に言ったことは間違いだったんですね。」

黒田
「旭課長が友人におっしゃったことは、最高裁判所で破棄されていますが、この判例を知るまで私も同じような考え方をしていましたから。」

旭課長
「黒田さんに、お聞きしてよかったです。あとで、友人にお詫びの電話をしなくては……。」

リエ
「課長、そんなにがっかりしないでください。大好きなケーキを食べて元気を出してください。お茶が冷めてしまいましたから入れなおしてきますね。」

旭課長
「黒田さん、今日は有難うございました。」