事業を相続した場合の消費税納税義務
   
カテゴリ:税務
作成日:08/04/2015
提供元:アサヒ・ビジネスセンター
  



旭課長
「黒田さん、当社とは関係ないのですがちょっと相談させてもらってもいいですか。」





黒田
「もちろん構いませんよ、どういったご相談ですか。」

旭課長
「知人の話なんですが、お父様が亡くなってしまって、その知人がお父様の営んでいらした不動産賃貸業を相続することになったんです。そこで知人が消費税の申告納付をする必要があるかどうかで迷っているようなんです。」

黒田
「なるほど、ちなみにお父様が亡くなられたのはいつで、遺言はありましたか。」

旭課長
「亡くなられたのは今年の2月です。遺言はなく、相続人による遺産分割協議で遺産分割をつい先日の7月に行い、不動産事業は全て私の知人が引き継いだようです。」

黒田
「分かりました。ではそのお父様の事業で課税売上がどれ位あったかはお分かりになりますか。」

旭課長
「一応私もある程度の知識があるので、亡くなられたお父様の事業についても少し聞いてきたのですが、知人によると毎年1500万円程度の課税売上があったようです。」


リエ
「さすが課長ですね、となると亡くなったお父様は毎年消費税を申告されていたことになりますね。」



黒田
「そうでしょうね。それでは法定相続人が何人で、それぞれのご職業はお分かりになりますか。」

旭課長
「法定相続人は、亡くなられたお父様の奥様、私の知人の2人と聞いています。奥様は専業主婦なので無職、知人は会社員ですね。」

黒田
「直接の確認はできませんので前提条件を次のように仮定します。(1)お父様の課税売上は毎年1500万円とのことですので、消費税の納税義務を判定する基準期間の課税売上も1500万円とします。(2)法定相続人お二人は過去において課税売上はないものとします。(3)遺言はなく、お父様が亡くなられてから遺産分割が完了するまでは相続人が共同でお父様の不動産賃貸業を営んでおられた。」

旭課長
「そうですね、その前提で問題ありません。」

黒田
「結論から申しますと、その知人の方は今年の分の消費税について納税義務はなく、来年分の消費税から納税義務が生じることになります。」

リエ
「今年の分は申告しなくてもよくて、来年はしなければならないということですか。ちょっと意外です。」

旭課長
「どういった理由でそういうことになるんですか。」

黒田
「消費税法第10条第1項に、納税義務のない相続人が相続によって事業を承継した場合、相続した人ではなく、亡くなった人の基準期間にどれだけ課税売上があったかで納税義務の有無を判定する旨が定められているのですが、消費税法基本通達1-5-5において、このケースのように遺産分割が実行されるまで、二人以上の相続人により共同して事業を承継していた場合は、亡くなった人の基準期間の課税売上に、共同して相続した相続人の法定相続分に応じた割合を乗じた金額とする旨が定められています。この通達に従いますと1500万円に各相続人の法定相続分である2分の1を乗じた750万円が相続人お二人の基準期間の課税売上となり、納税義務の判定基準である1千万円未満となるため納税義務はありません。」

リエ
「でも、今年のうちに知人の方が不動産事業については全部相続することが決まっているんですよ。」

黒田
「それでもお父様が亡くなった直後は誰が事業を相続するか分からず、前述の通達に従えばお二人とも納税義務はないと判定されます。その後同じ年に、知人の方が不動産事業の全てを相続することとなりましたが、消費税の納税義務については納税者が事前に予知できるようになっていなければならないことから、そこで再判定を行う必要はないとされています。」

旭課長
「なるほど、今年はそういう理由で納税義務者にはならないということになるんですね。」

リエ
「来年は納税義務があるというのはどういうことなんですか。」

黒田
「来年の課税期間の初日である1月1日の前日の段階では、知人の方お一人が事業を承継されているわけですから、前述の消費税法第10条が適用されて、去年のお父様の課税売上1500万円が基準期間における課税売上となります。したがって、基準期間の課税売上が1千万円を超えて納税義務者となることが事前に確認できていますので、当然に納税義務が生じることになります。」

旭課長
「わかりました、知人にはそのように伝えます。」

リエ
「大分ややこしいですね、でもよく分かりました。有難うございました。」