個人が法人に資産を贈与した場合の取扱い
   
カテゴリ:税務
作成日:07/14/2015
提供元:アサヒ・ビジネスセンター
  



リエ
「黒田さん、こんにちは。今日は田中社長がお尋ねしたいことがあるそうです。」


 




田中社長
「やぁ、黒田さんこんにちは。いつも適確なアドバイスをありがとう。」
 


黒田
「田中社長、こちらこそいつもお世話になっております。どういったご質問でしょうか?」


 

田中社長
「実は、私が所有している遊休の土地を、会社に贈与してしまおうと思っていてね。私が持っているより会社で有効活用してもらったほうがよっぽどいいだろう。その場合に税務上の扱いはどうなるのだろう?」

リエ
「田中社長が会社に土地を贈与するということですから、資産を譲り受けた会社に税金が発生するのは想像できますが、贈与する側の田中社長には税金がかからないように思えます。」

黒田
「田中社長、お持ちの土地の時価は購入されたときと比べていかがでしょう?」

田中社長
「購入した時の価額が2000万円でした。今の時価相場だと3000万円という話ですから、おかげさまで1000万円の値上がり益がでていますよ。」

黒田
「そうですか。まず会社の取扱いですが、リエちゃんのおっしゃる通り法人が無償で資産を譲り受けた場合には、その譲り受けた財産の時価相当額の受贈益を認識する必要あります。お持ちの土地の時価が3000万円ということですから、法人は3000万円の受贈益を認識しなければなりません。結果、この受贈益に対して税金が生じることとなります。一方で田中社長の取扱いですが、残念ながらこのケースでは田中社長も税金を納める必要があります。」

リエ
「え!? 社長は何も得をしていないのに、税金を納めなければならないのですか?」

黒田
「資産を個人が法人へ贈与した場合には、その時の資産の時価に相当する金額で譲渡があったものとみなすという決まりが所得税法59条(※)にあります。いわゆるみなし譲渡所得課税と呼ばれる規定です。そのためこの規定がある以上、田中社長は会社に贈与したつもりでもその時の時価で売却したものとみなされ、3000万円から2000万円を差し引いた1000万円が譲渡所得となり、税金が発生するのです。」

田中社長
「みなし譲渡所得課税は、個人から法人へという取引形態にのみ適用があるのかな。例えば、個人から個人への贈与についてはみなし譲渡所得は関係ないよね?」

黒田
「その通りです。『限定承認』という特殊な形での相続や遺贈では、個人から個人への資産移転があった場合にもみなし譲渡所得課税が問題になる場合がありますが、通常の取引では個人から法人へ資産の移転があった場合にのみ、みなし譲渡所得課税が適用される場合があります。」

田中社長
「うーん。会社のためにと思って贈与した後で、税金が課されるのも考え物だな。もう一度検討し直すこととしよう。ありがとう黒田さん。」


(※)所得税法59条1項
 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、そのときにおける価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
 1項 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)