国外転出時課税制度って?
   
カテゴリ:税務
作成日:10/13/2015
提供元:アサヒ・ビジネスセンター
  





リエ
「黒田さん、こんにちは。」


黒田
「リエちゃん、こんにちは。先月のシルバーウィークはどこか行かれましたか。」



リエ
「海外旅行!…といいたいところですが、お友達と国内で温泉旅行に行って来ました。」

黒田
「温泉旅行もいいですよね。ところで海外といえば、海外への移住や海外転勤となった場合に財産を持っていれば所得税などが課税される制度が創設され、平成27年7月1日から施行されました。」

リエ
「そういえば前に新聞とかで見たような…。どんな制度でしたっけ。」

黒田
「この制度は国外転出時課税制度といいます。平成27年7月1日以後に国外転出をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、国外転出の時に、その対象資産について譲渡等があったものとみなして、対象資産の含み益に所得税を課税する制度です。」

リエ
「資産を持っているだけで所得税が課されてしまうんですか。」

黒田
「はい。対象資産には、有価証券、匿名組合契約の出資の持分、未決済信用取引等又は未決済デリバティブ取引が該当します。従来、租税条約上、その株式等を売却した者が居住している国に課税権があるとされていたため、株式等の売却益に対して税金が課されない国に出国し、その後に売却するなどの課税回避が行われ問題視されてきましたが、平成26年9月に発表された租税条約の濫用防止に関する報告書にて、未実現売却益に対して課税することについて租税条約に抵触しないと示唆されたこともあって、今回の国外転出時課税制度が導入されました。」

リエ
「そうなんですね~。でもたまたま会社の辞令で海外赴任となった場合とかでも課税されてしまうんですか。」

黒田
「その可能性はあります。この適用を受ける対象者とは、国外転出の時において、所有等している対象資産の合計額が1億円以上であり、かつ、国外転出をする日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有している居住者とされ、国外転出とは、国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。したがって、5年を超える日本の居住者で1億円以上の対象資産を所有している場合には、短期の海外出張などを除き、海外に駐在することとなれば国外転出時課税の対象となります。」

リエ
「国内に戻ってくることがわかっている場合でも、税金を納めなければいけないんですか。」

黒田
「原則として、適用対象者に該当し、対象資産に含み益が生じていれば所得税を納付しなければなりません。ただし、国外転出日から5年以内に帰国し、日本の居住者になった場合など取消し事由に該当するときは、譲渡等をしなかった対象資産については、更正の請求をすることにより、納付した所得税の還付を受けることは出来ます。」

リエ
「そうですよね。租税回避を目的としてではなく、単に仕事上の理由で海外駐在した人で、売却してもいない資産の含み益に対して納めた税金であれば、返してほしいと思いますよね。」

黒田
「そうですね。また、納税管理人の届出を提出し、確定申告期限までに納税猶予分の所得税額及び利子税額に相当する担保を提供すること等を要件に国外転出日から5年を経過する日まで納税を猶予することもでき、さらに、届出により納税猶予期間を10年に延長することも可能です。」

リエ
「なるほど。手続きは大変そうですが、納税することが難しい人にとってはいいですね。」

黒田
「はい。なお、この国外転出時課税制度は、贈与や相続により非居住者に対象資産が移転した場合にも適用がありますので、次の機会にお話しします。」

リエ
「わかりました。ありがとうございました。」