印刷通販の動向と問題
   
カテゴリ:その他
作成日:03/07/2017
提供元:アサヒ・ビジネスセンター
  


 当社は、広告代理業で、それに付随するデザインと印刷の事業も合わせて取り組んでいます。そこで、最近伸びている印刷通販(ネット印刷とも呼ばれる)に参入すべきかどうかを検討しており、その業界動向およびメリット、デメリットなどについて、社長と一緒に、中小企業診断士の進藤さんに相談しています。



リエ
「最近、テレビ宣伝も行っている印刷通販ですが、安くて気軽に注文できるということで、すごく伸びていると聞きます。実際のところどうですか?」





社長
「印刷市場が確実に減少している中で、印刷通販が伸びるという現象がどうして起きるのか、その背景と市場動向を考えて、今後の取組みを考えたいと思っています。」


進藤
「まず、“印刷通販”ってどういう事業かというと、ユーザーは、印刷できるように作成したデータをインターネットを介して送信し、それを印刷通販の業者が印刷して、ユーザーの指定先に宅配便で納品して完了する、というものです。少ない部数から対応しているケースが多く、個人や小規模な企業が使いやすく、コストを抑えることができるようになっています。印刷業界の市場動向については、社長のおっしゃる通り減少しており、20年前の1997年がピークで8.9兆円。そこから現在は5.4~5.9兆円に縮小しており、20年前より30%減少しています。それに対して、印刷通販は、現在1000~1200億円の市場規模で、今後年10%以上の伸びが期待できるという調査結果があります。また、参入した会社が大きく成長していることもあります。」

リエ
「テレビ宣伝などを見ると成長しているのは確かに感じます。印刷物が減っているのに印刷通販が伸びるのはなぜですか?」

進藤
「印刷通販市場の成長は、印刷通販に新規の市場があるというより、従来の印刷の案件が、営業対応不要の印刷通販に流れていると考えられます。それは、ユーザー側のIT環境の変化によって、印刷データの作成をプロに頼まなくても出来るようになったことが大きな要因ではないでしょうか。」

社長
「ただ、ネットの宣伝を見ると、安いですよね。これでやっていけるのでしょうか。」

進藤
「数年前からテレビとネット宣伝などの影響で価格競争が激化し、販売価格は下がり続けています。そのため、市場規模は拡大しているものの、成長率は鈍化しています。
なぜ安くなるのかといえば、従来の印刷は、営業対応(要望の確認&見積もり)、デザイン、製版、印刷、加工、納品という工程で成り立っていますが、印刷通販は、この中で、前半の工程が不要になり、後半の印刷、加工、納品の工程で成り立っています。そして、印刷通販業者は、大きな印刷機械を持たずに、注文と印刷データをもらったら、それを複数の印刷会社に委託して、印刷と納品を代行してもらっています。営業要員の人件費と機械の維持コストを削減できるので、安く注文が取れるということです。」

社長
「確かに、安価な注文も高いものと同じように営業対応していると、生産性に問題がある。この辺の棲み分けは検討したほうがよいと思っています。」

リエ
「印刷通販のメリットとしては、安い、24時間対応、便利ということでしょうか。デメリットはどういうところでしょうか。」

進藤
「1.印刷物の種類が限定されます。紙の種類、大きさなどは選択肢が限られており、ユーザーはその中から選ぶことになります。2.データ入稿のトラブルがあります。これはネットを使って送信するので、互換性などの問題が起きる可能性があります。3.印刷のバラツキがあります。実際の印刷は複数の会社が行っているので、同じものでもバラツキがあります。」

リエ
「テレビとかネットのコマーシャルを見ると簡単そうにみえますが、実際に事業として取り組むには、いろいろ大変なことがありそうですね。ありがとうございました。」

社長
「印刷業においては、従来の印刷だけでなく、印刷通販も必要だと思います。ありがとうございました。」