知っておきたい「契約」にまつわる基本知識10問10答
   
作成日:03/24/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


知っているようで意外と知らない!?
知っておきたい「契約」にまつわる基本知識10問10答




 みなさん「契約」という言葉は聞かれたことはあると思います。実際、会社で契約書の作成をされたことのある方も多いでしょう。

 では、そもそも「契約」っていったい何だろうと考えたことはありますか。私たちの日常生活は様々な契約で成り立っています。あなたが会社に就職したとき、会社と雇用契約を結んだでしょう。あなたが一人暮らしを始めるとき、大家さんと賃貸借契約を結んだでしょう。コンビニでお弁当を買うときには売買契約を、電車に乗るときには運送契約を結んでいます。

 あなたは自分で意識しない間に契約を結んでいることもあるのです。契約の意味や重要性を理解しておかなければ、思わぬトラブルにも巻き込まれかねません。

 そこで、まずは契約に関する基本的な知識をみなさんに知っておいていただきたいと思います。



契約とは何ですか

 「契約」とは、2人以上の間で交わされる法的な拘束力をもった約束のことを言います。単なる人と人との約束事というだけでは契約ではありません。その約束に法的な拘束力があるということがポイントです。

 たとえば、あなたが彼と「次の日曜日にデートをする」という約束をしたとしましょう。これは、デートをするという二人の約束ですが、契約ではありません。なぜなら、この約束には法的な拘束力がないからです。

 契約が成立すると、その効力として権利と義務が発生します。たとえ彼とデートの約束をしても、あなたにはデートを強制する権利はありませんし、彼にはデートをする義務はありません。ですから、デートの約束は「契約」ではないのです。

 では、あなたがアパートを借りた場合はどうでしょうか。あなたには部屋を貸してもらう権利と家賃を払う義務があります。大家さんには家賃を払ってもらう権利と部屋を貸す義務があります。もしあなたが家賃を払わなかったら、大家さんは裁判所に訴えて「家賃を払いなさい」という判決を出してもらい、あなたに家賃を払わせることができます。

 これが法的な拘束力があるということです。国家の力で強制的に実現させることができるということなのです。



契約にはどんな種類があるのですか

 ひと言で「契約」といっても契約には様々な種類があります。民法には、売買、贈与、交換、消費貸借、賃貸借、使用貸借、雇用、請負、委任、組合、寄託、和解、終身定期金の13種類の契約が書かれていますが、契約の種類はこれだけではありません。

 民法はよくある代表的な契約を取り上げているだけで、私たちはそれ以外の契約でも自由に締結することができるのです。たとえば、電車に乗るときの運送契約、病気をしたときの診療契約、芸能人がテレビに出るときの出演契約など民法に書いていない契約はいろいろあります。

 ただ、自由に契約できるといっても限界はあります。たとえば「火星を売る」という契約は実現不可能なので無効ですし、「毎月100万円もらって愛人になる」という愛人契約は、社会の秩序に反するので無効です。



契約を結ぶことができるのは誰ですか

 契約を結ぶことができるのは自然人と法人です。自然人というのは生身の人間のことです。法人というのは会社や財団法人など、法律で人と同じように認められたものです。

 法人はそれ自体が意思をもって動くわけではありませんが、社会を構成して現実に社会的活動を行なう存在ですから、法律で特別に自然人と同じように契約の主体となることができるとされているのです。

 ですから、たとえばペットなどの動物を当事者として契約を結ぶことはできません。



未成年者でも契約できるのですか

 未成年者とは満20歳未満の人をいいます。ただし、満20歳未満でも結婚していると成人とみなされますので、未成年者ではありません。

 未成年者も自然人ですから契約を結ぶことはできますが、未成年者は一人では完全な契約を結ぶことは出来ません。未成年者が完全な契約を結ぶためには、法定代理人の同意をもらうか、法定代理人が代理人として契約しなければなりません。

 法定代理人とは親などの親権者のことです。もし未成年者が親の同意を得ずに勝手に契約をした場合には、その契約は取り消すことができます。



契約書がなくても契約は成立するのですか

 契約書を交わさなくても契約は成立します。契約は「申込み」と「承諾」という二つの意思表示が合致すれば成立するのです。

 たとえば、コンビニにお弁当を買いに行ったとします。あなたは店員さんに「このお弁当を買いたいです」という申込みをします。これに対して店員さんが「いいですよ」と承諾をします。そのときにお弁当の売買契約が成立するわけです。

 契約書も交わしていないのに契約が成立するの? と疑問に思われるかもしれませんが、契約を成立させるのに書面は必要ではありません。実際には、コンビニでいちいち「このお弁当を買いたいです」「いいですよ」というような会話はしないでしょう。

 このように言葉を交わさなくてもお互いの意思さえ合致していれば契約は成立するのです。これを黙示の合意といいます。

 契約書を交わしていないから契約は成立していないとは言えないのです。



なぜ契約書を作るのでしょうか

 お互いがちゃんと契約を守って何の問題もなく終わるのであれば、わざわざ契約書を作る必要はありませんが、相手が契約を守らなかった場合や契約した内容と違うことをした場合に役に立ちます。

 たとえば、あなたが自分の書いた絵を「10万円で売る」と約束したとしましょう。ところが相手は「買うなんて約束したっけ?」とか「5万円の約束だったから5万円しか払わない」などと言ってきたとします。このようなとき、口約束だけでは「言った」「言わない」で収拾がつかなくなりますが、契約書を作っておけば、契約書を見せて「ほら、10万円で買う約束だったでしょう」と証明することができます。

 このように、契約書は契約の成立と契約の内容を証明するための、確実で有力な証拠として作成するものです。

 トラブルが生じると、解決のための交渉や裁判に、多くの時間と労力、費用がかかります。あらかじめ契約書で明確にしておくことで事前にトラブルを回避できますし、たとえトラブルが起こったとしても、時間と労力と費用をかけずに解決することができるのです。



契約書には何を記載すればいいのでしょうか

 契約書はあくまでも証拠にすぎないので、これを書かなければ契約書ではないというものはありません。基本的には、当事者双方で約束したことを書面にすればよいのです。

 当事者が約束しておかなかったことについては、民法や会社法のルールに従うことになります。ですから、民法や会社法に書かれていないことを契約したいときや、民法や会社法とは違う内容で契約したいときなどは、契約書に書いておかねばなりません。

 たとえば、あなたが東京でアパートを借りたとしましょう。これは賃貸借契約になりますが、もし賃貸借契約書で家賃の支払方法を書いておかなかったら、民法に従うことになるので、大家さんの住所まで家賃を持って払いに行かなければならなくなります。もし大家さんが北海道に住んでいる人だったら北海道まで払いに行かなければならないのです。

 でもこれでは大変なので「銀行口座に振り込む」とあえて契約書に書いておくのです。

 また、多くの賃貸借契約書では、家賃は翌月分を当月末に払う(4月分は3月末までに払う)とされていますが、もし契約書に記載されていなかったら、民法に従い、当月分を当月末までに払う(4月分は4月末までに払えばよい)ということになります。



契約書を作成するときのポイントは何ですか

1)契約内容を明確に書くこと

 トラブルは契約内容が不明確であったことにより起こってしまいますから、契約の締結日、誰と誰との間の契約か、契約の目的(売買契約なのか賃貸借契約なのか等)、契約の対象(品目、数量、単価等)、権利義務の内容(支払時期や支払方法等)など、契約内容を出来るだけ明確に記載しておくことが必要です。

2)契約意思を明確にすること

 契約内容をどんなに明確に記載しても署名押印がなければ口約束と同じで、「そんな契約は結んでいない」と言われかねません。

 ですから、契約の意思を明確にするために、双方の署名(手書きのサイン)または記名(ワープロ印字やゴム印)、そして、日本では署名よりも印鑑が重視されているので押印も忘れないようにしてください。

 なお記名よりも署名の方が証拠価値は高く、また、認印よりも実印を押して印鑑証明書を添える方が証拠価値はより高くなります。

3)特約を記載すること

 既にお話ししたとおり、契約書に書いておかなければ民法や会社法のルールに従うことになりますから、民法や会社法に書いていないことや、違う内容で契約をしたいときは、忘れずに書いておくことが必要です。

4)強行法規や公序良俗に反しないこと

 契約内容は当事者で自由に決めることができるのが原則ですが、強行法規や公序良俗に反する内容は自由には決めることはできず、たとえ決めても無効となります。

 強行法規というのは、当事者の意思で自由に内容を変更することができない規定のことです。たとえば利息制限法は強行法規なので、利息制限法に違反して高い利率を約束しても無効となります。



契約を実行してくれないときにはどうしたらいいですか

 契約成立の効力として、お互いに権利と義務が発生するということは先ほどお話ししました。あなたが自分の絵を10万円で売るという売買契約を結んで絵を渡したのに、相手がお金を払ってくれないという場合、どうしたらいいでしょうか。

 相手には売買代金を支払う義務があるので、それを実行してもらわなければなりません。まずは「早く10万円払ってください」と催告をするなどして相手と交渉をすることになります。それでも支払ってくれなかったら、裁判所に訴えて「10万円支払え」という判決をもらいます。

 それでも払ってくれない場合は、預金など相手の財産を差し押さえる強制執行という手続きによって強制的に回収することになります。



契約を解除することはできますか

 解除とは契約を最初からなかったことにすること、つまり白紙に戻すことです。契約を解除できる場合は三つあります。

 一つめは、法律で解除が認められている場合。相手が契約を守ってくれない場合(債務不履行と言います)には、あなたは契約を解除することができます。一定期間無条件で契約を解消できる「クーリングオフ」という制度がありますが、これも法律で解除を認めているものです。

 二つめは、契約で解除が認められている場合。契約書の条項に「次の場合には契約を解除することができる」と書かれているときは、「次の場合」にあたれば解除ができます。

 三つめは、当事者の話し合いで解除する場合。法律や契約に書かれていなくても、とにかく相手が応じてくれれば契約を解消することができるのです。これを合意解除と言います。

◇     ◇

 契約というと法律に関することで難しいと思われていたかもしれませんが、少しでもイメージをつかんでいただけましたでしょうか。この機会に、日常の仕事の中でどんな「契約」があるのか考えてみると、もっと「契約」を身近に感じてもらえるかと思います。

〔月刊 経理WOMAN〕