「社内不正」の手口と防止策
   
作成日:07/21/2009
提供元:月刊 経理WOMAN
  


「まさか うちの社員が…」の発想が会社の危機を招く!
最近増えている「社内不正」の手口と防止策教えます




 なかなか給料が増えないこの時代。ちょっとした出来心で不正に手を染める社員がいないとも限りません。社員を信じたい気持ちはわかりますが、一方で不正の手口を知っておき、あらかじめ防止策を講じておくのも大切なことではないでしょうか。実際に不正が起こってからでは遅いのです。

 ここでは、最近増えている「社内不正」の手口と防止策をアドバイスします。

◆なぜ不正が起こるのか

 社内不正と聞けば、新聞で報道されるような大きな事件を思い浮かべるかもしれませんが、多くの社内不正は、むしろ中小企業において起きているものです。

 社内不正は後に述べるとおり、多様化しています。もちろん、いわゆる古典的な金銭の横領などもいまだに存在しますが、会社の機密情報を盗む、会社が保有する個人情報を第三者に売却するといった不正も増えています。

 社内不正を働く者は、自分の利益を図るために行なうことが多いのですが、会社に意図的に損害を与えようとして社内不正を行なうケースもあります。社内不正を完全に防止することは簡単ではありませんが、一般に世の中ではどのような社内不正が多いのか、社内不正が起きないためにはどうすればよいのか、ということを事前に知っていれば、未然に防ぐことも可能となります。

 また、社内不正が起きた後の対応を間違えてしまうと、場合によっては訴訟にまで発展しかねませんので、社内不正が発覚した場合の対応も知っておく必要があります。経理・総務担当者が社内不正の手口、対応などをひととおり知っておけば、早めに社長や上司に報告・相談するなどして、迅速に対応することができます。

 以下、社内不正の手口を通じて、その対応をお話ししていきます。


◆社内不正の手口とその防止・対応策

1.個人的消費の不正請求

 仕事とは関係のない交通費やガソリン代、飲食費まで会社に請求する。

●防止策

 まず社内ルールを徹底する必要があります。とくに従業員同士の飲食費については、仕事と私的なものの区別がつきにくく、会社のルールが曖昧なことがあります。就業規則や社内通知を徹底して、私的なものを請求しないように指導する必要があるでしょう。


 また接待交際費などの場合は、事前申請制にし、「いつ」「だれと」「何のために」「どの店で」飲食をするのか明記させるようにすると効果的です。接待用で使う店を限定しておき、その都度の飲食代を“ツケ”にしておいてもらい、会社として1ヵ月ごとにまとめて支払うようにするのも良いでしょう。



 不正請求の場合、通常の請求額より金額が大きかったり、担当者の客先からは発生するはずのない交通費の金額であったり、ガソリン代であれば異常に短い間隔で請求をしているなど何らかの特徴があるはずです。経理担当者は、単に経費の精算を行なうだけではなく、これまでの請求時期・金額と比較しながら、不審な点がないかチェックすることが大切です。

●対応策

 不正請求が発覚しても、しらを切る従業員もいます。そうさせないためには、証拠を事前に掴んでおく必要があります。不正請求は犯罪行為(刑法上の詐欺罪)であり、裁判所も金額が少なくとも懲戒解雇を有効にすることが多いので、徹底的に調べることをおすすめします。

 私的経費を不正に請求したことが明らかになれば、事実を確認した上で、退職を促すか解雇するべきでしょう(解雇の手続きにおいて注意するべき点はあるのですが、誌面の都合上割愛します)。懲戒解雇の際、退職金を全く支払わないことも可能ですが、退職金を損害の弁済に充てさせる方法もあります。


2.売上の横領

 会社の売上を自らの借金返済に充てるため着服する。

●防止策

 このような不正は、売上の横領を隠すために売掛金のデータを改ざんすることが多く、発覚が遅れることもあります。売上の着服が行なわれるのは、現金回収の場合が多いので、まずは現金回収をやめることが大事です。




 しかし、現金回収を取引上避けられないこともあります。それならば、一定の期間の取引明細書(取引日、売掛金、支払日、支払額)を発行し、取引先に交付するようにしましょう。担当者が不正を働いているのであれば、取引先が実際の集金額と売掛金の差などに気づくはずです。

 ただし、取引明細書を改ざんされないように、複数の従業員で取引明細書の確認を行なうなどの工夫をしなければならないでしょう。

●対応策

 やはり、証拠をはっきりさせることが必要です。しかし、実際の集金額と会社の売掛金の金額にズレが生じれば、言い逃れをすることは難しいでしょう。書類が揃い数字のズレが分かれば、ほとんどの従業員は横領を認めることが多いようです。

 処分に関しては、不正請求の場合と同様、退職を促すか、解雇するのが妥当でしょう。


3.備品、金品を盗む

 本来あるはずの収入印紙がいつのまにかなくなっている。会社のロッカーから財布が盗まれる。

●防止策

 当たり前ですが、貴重品は鍵のかかるところにしまい、鍵を特定の人間のみが持つようにすることが大事です。窃盗の大半は、施錠・鍵の管理が徹底されていなかったことが原因で起こっています。


 切手や印紙といった換金性の高い社内物品は、狙われる率も高くなります。購入者と管理者は必ず分け、誰がいつどれだけ使ったかを記録するシステムにしておくべきです。また、ストックの上限を決めておき、必要以上に買いだめしないことも肝心です。



 盗みが発覚しても、じつは犯人は簡単には見つかりません。金額が大きい場合は、警察に被害届を出して捜査を行なってもらうべきです。

 警察沙汰にするということに、抵抗を感じるかもしれませんが、警察に被害届を出さなかった場合、犯人が再び犯行を行なう可能性が高くなるのです。私が担当した案件も、会社が被害届を出すことを躊躇している間に、2回目、3回目の犯行が行なわれてしまいました。

 警察に被害届を提出したことを社内に周知するだけで、再犯の抑止効果が高まります。


4.リベートの着服

 外部業者が契約獲得のために担当者にリベートを支払う。担当者がリベートを要求する。

●防止策

 リベート自体は商慣習上認められているものではありますが、会社担当者が会社に報告・許可を得ずにリベートを受領し、かつ費消することは許されるものではありません。




 リベートの不正要求の事案を複数扱ったことがありますが、いずれも会社担当者と外部の業者が必要以上に親密になっていたことが原因でした。担当者は、定期的に変更することをおすすめします。

 また、リベート制度のある業者とは、あらかじめリベートに関する覚書のようなものを交わしておくと、不正が起こりにくくなるでしょう。会社の就業規則で、外部業者と会社担当者は会社の許可なくして飲食やゴルフに行ってはならないと定めることも、一つの方法です。

 必ず他の業者の見積りを取ることも、不正防止に役立ちます。

●対応策

 会社担当者が外部の業者からリベートをもらっていたという証拠はなかなか収集しにくいものです。ほとんどの事例は、内部告発や契約が切れた後に、じつは外部の業者が不正なリベートを支払っていたと暴露したときに発覚するものです。

 そのような場合は、内部告発者や外部の業者に協力してもらい、領収書やお金の流れの分かる書類を提出してもらうことになります。その上で不正なリベートを受領していた従業員を処分することになります。


5.機密・個人情報の持出し

 会社の機密・個人情報を会社のパソコンやサーバーから持ち出し、売却もしくは転職後に使用する。

●防止策

 このような不正が、最近増えています。デジタルデータは大量の情報を持ち出すことができ、かつ複製も容易ですので、その被害は甚大なものとなります。




 パソコン自体にパスワードをかけることは有効な方法です。私がかかわった事例でも、無防備なパソコンのみが狙われていました。ただし、従業員個人がパスワードを設定するにしても、業務上会社が従業員のパソコンを調べる場合もありますので、会社にパスワードの番号を知らせるように通知しておく必要があります。

 誰がいつ、どのパソコンにアクセスして、どのような情報を持ち出したのかがわかるセキュリティシステムを導入することも有効でしょう。実際に役に立つことがなくとも、セキュリティシステムを導入していることを従業員に周知するだけで効果が上がります。

 また、USBメモリにデータをコピーされてしまった場合などは非常にわかりづらいですが、それに対応するには、社内でのUSBメモリの使用を禁止してしまうことが一番です。もしくはデータがパスワードで保護され、強制的にハードウェアが暗号化されるセキュリティUSBメモリ以外は使用させないようにしてはいかがでしょう。

 機密データに関しては、持出しだけでなく、ウィルス感染やメールでの誤送信などの危険もありますので、社員のセキュリティに対する意識向上を徹底させるべきです。

●対応策

 情報の持出しが発覚した場合、疑わしいだけでは懲戒処分や損害賠償請求を行なうことはできません。ほかの不正と同様、客観的な証拠が必要となります。

 不正に情報を持ち出したことが明らかになれば、退職をすすめるか懲戒処分を行なうことになります。

 ただし、情報の内容(会社の営業機密などにはかかわらない場合)によっては、懲戒解雇は重すぎるとして無効となる可能性もあります。

 また、持ち出した情報が経済的に価値があるものであれば、民事上の損害賠償請求を行なうことも可能でしょう。ただし、客観的な証拠を揃えて処分・訴訟を行なわないと、名誉毀損で逆に訴えられる場合もありますので注意が必要です。

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 社内不正が起こる可能性は、どの会社にもあり得ます。特定の従業員に業務が集中し、他の従業員によるチェックがなされていないという状態であれば、どうしても不正に気づきにくくなります。

 そのような企業については、今すぐに複数の従業員で相互に確認するようなシステム作りをしたほうが良いでしょう。そういったシステムが、社内不正を防止する第一歩となります。


〔月刊 経理WOMAN〕