同族会社の「留保金課税」をめぐる税務取扱い
   
作成日:11/27/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


税金の中身から節税のために知っておきたい特例まで
同族会社の「留保金課税」をめぐる税務取扱い




 同族会社の場合は、ある一定金額以上、会社に利益を留保すると留保金課税がかかります。これは同族会社にとって負担の重い税金ですが、ここ数年で特例措置が取られていることもあり、取扱いに迷うことが少なくありません。

 そこで、留保金課税の税務取扱いを分かりやすく解説します。

 ある会社の小さな喫煙ルームでのひとコマ。花子が何となく部長を見ると、部長がかなり変わったネクタイをしています。ちょっとビックリして何だろう? と目を凝らしてみたら、部長と目が合ってしまい、(仕方なく)話しかけてみることにしました。

花子
 部長、いつものネクタイと違いますね。今日は何かあるんですか?

部長
 あ、これ? たまたま押入れを整理していたら出てきたんだ。ずいぶん前にもらったものなんだよ。やっぱりちょっと派手かなあ。

花子
 いえ、よくお似合いですよ。

部長
 ははは、そうかな? 一応、イタリー製なんだ。ほら、フェラガモ、フェ・ラ・ガ・モ!

花子
 すごい! 有名ブランドじゃないですか。

部長
 花子クンはフェラガモって大企業だと思っている?

花子
 ええ。今年になって銀座に大きいお店ができましたし。

部長
 それが違うんだな。たとえば、花子クンが煙草入れに使っているルイ・ヴィトンはLVMHっていう大企業に属している。ヴィトンだけじゃなくてフェンディやディオール、それからお酒のヘネシーとか全部LVMHの傘下なんだよ。
 でも、フェラガモはそうじゃない。有名な老舗だけど、同族会社の形をかたくなに守っているんだよ。

花子
 へぇ~、同族会社ですか。

部長
 そう、日本でも多くの会社が同族会社だけど、これと同じようなものだね。

花子
 同族会社って何だかお金持ち一族っていう感じのリッチな響きがありますよね。

部長
 そうだね。でも、日本の同族会社は、よいことばかりじゃないんだよ。儲かったら儲かったで、普通の会社に比べて税金が高くなることもあるし。

花子
 えぇ!? 同族会社って税金面で差別されているのですか?

●同族会社の儲けは二度課税される?

部長
 差別というわけじゃないけど、いろいろ理由があって同族会社は税金面で厳しい取扱いを受けることが多いことは事実だね。たとえば、同族会社の「留保金課税」って聞いたことあるかい?

花子
 いいえ。それってどんな取扱いなんですか?

部長
 会社の所得、つまり儲けに税金がかかるのは知っているよね?

花子
 もちろん知ってますよ。

部長
 同族会社の場合、儲けに税金がかかることに加えて、その儲けを会社内に貯めこんでいるだけで、これに税金がかかることがあるんだよ。

花子
 えぇ!?
 信じられない。だって、儲けに税金をかけて、税引後の儲けを貯めただけでさらに税金がかけられるなんて。

部長
 そうなんだよ。語弊を恐れずいえば、同族会社の儲けは二度課税されるってこともあるんだよ。昔「007は二度死ぬ」っていう映画があったけど、それと同じかもね。

花子
 ??? どうして同族会社ってそんなひどい扱いを受けなきゃいけないんですか?

部長
 そうだねぇ。その前に同族会社の正確な意味は知っているかな?

●同族会社ってこんな会社

花子
 えっと、一族だけで経営している会社ってことですか?

部長
 惜しい! 正確には、同族会社というのは、出資割合が出資者の上位3グループまでで50%を超える会社のことをいうんだよ。グループというのは、親族単位(配偶者、6親等内の血族および3親等内の姻族等)で見た株主のグループのことだよ。たとえば社長と社長夫人は親族だから1グループ。そういうグループが三つ集まって、50%を超えているようだと同族会社になるってわけ。もちろん、1グループで50%を超えていれば、同族会社になる。このような同族会社の支配関係ってどうなると思う?

花子
 出資者本人と同族関係者がケンカさえしなければ、思うままに経営できちゃいますね。

部長
 そのとおり。大企業のように株主が分散していて、そのために反対株主の監視があるわけじゃない。つまり会社がオーナーの自由自在になるってことだ。でも、そうすると税金面で不都合が生じるんだよ。

花子
 どんな不都合ですか?

部長
 会社がオーナーの自由自在になるので、通常あり得ないような不自然な取引によって税金を不当に安くすることができるんだよ。

花子
 どういう方法でそんなことができるんですか?

部長
 たとえば、個人の税金、つまり所得税の税率ってどうなっているか知ってるかい?

花子
 たしか所得の高い人ほど税率が高くなるんでしたよね。

部長
 そう。累進税率といって所得の高い部分ほど税率が高くなるしくみになっている。これに対して、会社の税金である法人税は比例税率といって一定の税率なんだよ。例外的に資本金の小さな会社は二段階になっているけど。

花子
 でも、所得税は個人の税金ですよね。それと会社の法人税とどういう関係があるんですか?

●留保金課税は所得税逃れを防ぐ!

部長
 たとえば、会社がとても儲かっているときの話だけど、その会社のオーナー(兼経営者)が給与や配当といった形で会社の儲けからたくさんのお金を受け取ると、それに高い所得税がかかってしまう。そこで、そのオーナーは、所得税が高くなりそうな場合は、わざと会社からお金を受け取らないで会社内に儲けを貯め込んでしまえば、高い所得税を逃れることができるんだ。

花子
 なるほど。金額によっては所得税よりも法人税の方が税率が低いこともあるので、会社の儲けにしておいてそれを貯め込んだ方がトクな場合もありますね。

部長
 そのとおり。でも、これは大企業では、経営者の報酬とか配当を株主総会でキッチリ決めるわけだから無理なんだ。

花子
 だんだん分かってきました。

部長
 つまり、同族会社ではオーナー兼経営者が報酬や配当を操作して高い所得税を逃れるおそれがあるから、個人事業者や非同族会社の株主との課税バランスを図る意味でも、こういった操作を防止する必要があるんだよ。これがさっき話した同族会社の「留保金課税」ってヤツさ。

花子
 007でしたっけ?(笑)

部長
 ははは! 「007は二度死ぬ」だよ。通常の法人税に追加して法人税が課せられるわけだからね。会社の儲けを必要以上に貯め込むと、その貯め込んだ分に税金を課すことになっている(図表1参照)。

図表1 同族会社の課税留保金額に対する税率


花子
 必要以上に貯め込んだかどうかの判定基準ってあるんですか?

部長
 所得のうち貯め込んだ部分を内部留保金額っていうんだけど、まずはこれが必要以上のものかどうかを判断する必要がある。それが留保控除額と呼ばれるものだ。留保控除額を超えた部分が留保金課税の対象となるんだよ(図表2参照)。

図表2 課税留保金額の計算

花子
 うーん、厳しいけど。理にかなっているような気がしてきました。

部長
 ちなみに、青色申告をしていれば繰越欠損金(過去の損失)を5年間だけ繰り延べて当期の所得と相殺できるのは知っているよね。これを適用して当期の所得がゼロになったとしても、課税留保所得金額がプラスになれば法人税が発生することもあるんだよ。

花子
 理屈じゃ分かりますけど。それにしても、やっぱりかわいそう過ぎませんか?

●同族会社に有利な特例

部長
 たしかに。右肩上がりの経済成長時代なら分からないでもないが、こんなご時世には酷だね。だから、今年の税制改正で自己資本比率(総資産に占める自己資本の割合)が50%以下の中小法人について留保金課税を一時停止しているんだよ。これで全国の8割以上の中小同族会社が助かるらしいね。

花子
 よかったぁ。だって、ただでさえ景気が悪くて会社の体力が落ちているのに、儲けを蓄えるのに税金をかけてたらますます体力が落ちちゃいますよね。

部長
 そのとおりだよ。とくにこれからの時代を担うようなベンチャー企業は体力を蓄える必要があるから、すでにベンチャー企業についてはいくつかの留保金課税停止の特例が適用されているんだ。新事業創出促進法に規定する中小企業者なんて結構たくさん該当するんじゃないかな?(図表3参照)

図表3 ベンチャー企業等に対する留保金課税制度の不適用
【期間】平成16年3月31日までに開始する事業年度
【対象】
(1)設立後10年以内の「新事業創出促進法」の中小企業者に該当する会社
<「新事業創出促進法」の中小企業者の例(以下のいずれかが要件)>

(2)「新事業創出促進法」の認定事業者 → 中小企業者に限らないので注意
(3)「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」の中小企業者に該当する法人で、試験研究費・開発費が収入金額の3%超のもの

花子
 すると、ほとんどの同族会社が留保金課税をかけられないで済みそうですね。

部長
 そうだね。でも、気を付けなきゃ特例が適用できないこともあるよ。たとえば、ある同族会社が新事業創出促進法に規定する中小企業者で設立後10年以内であっても、それより古い設立年度の同族会社から出資を受けて設立したような場合には、その古い方の同族会社の設立時からカウントして設立後10年以内かどうかを判定するんだ。

花子
 えっ? どうしてそんなことになるんですか?

部長
 新しい方の会社の設立時からカウントしたら、次々に新しい会社を設立して永遠に特例を適用することができてしまう。そんなことをさせないように網をかけているのさ。

花子
 なるほど、よく考えられているんですね。

部長
 そう。でも、正しく特例を適用すればほとんどの同族会社が留保金課税を課せられなくて済みそうだから、これについてはしっかりと調べておく必要があるね。

花子
 それにしても、ほとんどの同族会社で留保金課税が停止されている話にホッとしました。これなら同族会社の御曾子からプロポーズされても安心ですね!

部長
 御曾子との恋を夢見るのもいいけど、恋も煙草もほどほどにしないと火傷しちゃうゾ。あっはっは!

花子
 …。

〔月刊 経理WOMAN〕