公的年金のもらい忘れ・届出もれ
   
作成日:06/29/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


「公的年金」
 -よくある「もらい忘れ」「届出もれ」に要注意!!




 保険料を一定期間納めれば、将来受け取ることができる公的年金。しかし、加入期間がほんの少し足りなかったために受給資格がもらえない、受給資格があっても手続きを忘れて年金をもらっていないという人が意外と多いようです。

 そこでここでは、そんな公的年金のうっかりミスを防ぐ方法をアドバイスします。

■年金は請求しないともらえない!

 「もらい忘れ年金」を考える前に、まず年金制度のしくみと年金をもらうための条件についてお話しましょう。

 公的年金は大きく分けて、国民年金と厚生年金があります(公務員が加入する共済年金は、おおむね厚生年金と同じだと思ってください)。年金には年をとったときにもらう老齢年金のほかに、障害を負ったときの障害年金、死亡したときに一定の遺族がもらう遺族年金がありますが、ここでは主として老齢年金についてお話します。

 日本に住んでいる20歳以上の人は自営業者も会社員も専業主婦も、また学生や外国人であっても、「国民年金」の加入者です。ですから、国民年金の加入者であった人は、「国民(基礎)年金」がもらえます。

 また、会社員の人は国民年金と同時に「厚生年金」にも加入していますので、国民(基礎)年金に加えて「厚生年金」ももらえます。公的年金が2階建てといわれるのはこのためです(図表参照)。

図表 公的年金制度のしくみ


 そして、老齢年金をもらうためには、次の三つの条件を満たしていることが必要です。

1)支給開始年齢に達していること

 以前の古い厚生年金制度では、老齢年金は60歳から支給されていましたが、1986年(昭和61年)の年金制度の大改正で厚生年金も老齢基礎年金の支給開始年齢に合わせて支給年齢が5歳引き上げられました。

 それにより、本来の老齢年金は65歳支給とした上で、当分の間、厚生年金は特別に今までどおり60歳から支給されることになっています。しかし、この特別な措置は生年月日に応じて段階的に支給開始年齢が1歳ずつ遅くなっていき、最終的には、老齢年金の支給開始は国民(基礎)年金も厚生年金も65歳からになります。今の若い世代の人は65歳からの支給となります。

2)国民年金の保険料を納めた期間が25年以上あること

 国民年金の保険料を納めた期間とは、自営業者など第1号被保険者として国民年金の保険料を納めた期間と保険料の納付を免除された期間、会社員の厚生年金加入期間のうちの20歳以上60歳未満の期間、専業主婦としての加入期間です。以上の三つの期間を合計して25年以上になれば、国民年金保険料を納めた期間については「老齢基礎年金」が、厚生年金加入期間については「老齢厚生年金」が上乗せされて支給されます。

3)自ら請求手続きを行なう

 年金をもらうためには、自ら請求手続きを行なう必要があります。もらえる権利があっても、手続きをしない限り永久にもらえません。


■“年金のもらい忘れ”はどうして起きる?

 「もらい忘れ年金」とは、現在受給している年金以外で、請求すれば受け取ることができるのに、請求していないためにもらっていない「請求もれ年金」のことです。

 老齢年金をもらっているAさん(70歳)の例でお話しましょう。Aさんは、独身時代に2年間ほどある会社に勤めていました。その会社はすでに倒産してなくなっており、その期間の年金はもらえないものだと諦めていたのですが、念のため社会保険事務所に問い合わせて調べてもらったところ、その期間も含めた合計20年が厚生年金の加入期間となり、年金を年額8万7000円増やすことができました。さらに、遡って5年分の年金43万5000円もまとめて振り込まれることになりました。

 Aさんのような、年金の「もらい忘れ」が起きるのはなぜなのでしょうか。

 厚生年金制度が始まった1944年頃は現在のように情報技術が発達していませんでした。コンピュータでの管理に移行されていったのは1970年以降のことですが、この年金データ移行の際に入力ミス等があり、国側の情報管理に少なからず混乱が起きていたようです。その結果、同姓同名であるためにデータが特定できなかったり、名前の読み方が間違って入力されていた等で検索しても本来のデータが呼び出せないということが起きているのです。

 また、加入者側も申請や届出を忘れていたり、勘違いや思込みで請求をもらしていることも考えられます。

 年金は保険料の納付期間が長ければ受け取る年金の額も多くなりますから、保険料を払った期間分の年金はもれなくもらいたいものです。

 「申請忘れ」「届出忘れ」「請求忘れ」の具体的ケースとその対応策について、最後にまとめました。みなさんも一度チェックしてみるとよいでしょう。


■うっかりミスを防ぐために気を付けなければならないこと

 以前は、国民年金、厚生年金など制度ごとに独自の年金番号が付けられていましたが、現在加入者のデータはすべての制度に共通する10桁の「基礎年金番号」で統一して管理されています。

 これによって、転職などの事情によって各年金制度の間を渡り歩いても、基礎年金番号で検索すれば加入記録が即座に把握できるようになりました。ただ、この基礎年金番号の導入(平成9年1月)前に何度も転職した人などには複数の番号が割り振られている可能性があり、その結果加入年数を正しく把握できず、もらい忘れという事態を引き起こすケースがありますので注意しましょう。

 うっかりミスを防ぐためには、社会保険事務所で自分の過去の加入記録を確認し、もらい忘れ年金がないかどうかを調査することから始めてください。20歳以後60歳未満の40年間は、国民年金の1号から3号のいずれかの加入者(被保険者)であるはずです(厚生年金は20歳前、60歳後でも加入者になります)。

 もし空白期間を見付けたら、その間、どこでどんな仕事をしていたかの記憶を掘り起こし、それを社会保険事務所に照会して、年金の請求をやり直せば年金額が変更されます。

 また、58歳になった加入者(被保険者)には、今までの加入記録を送付してもらえるサービスが開始されており、そこで本来あるべき加入期間が記録にないと気付くケースもあります。この件については社会保険庁ホームページにてご確認ください。

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 もらい忘れになっていることが分かった年金は、手続きさえすれば翌月から加算され、その上最大で5年前まで遡って支給されます。逆に、もらい忘れの期間が10年あっても5年前の分までしかもらえないわけですから、なるべく早く手続きすることをお勧めします。

 最後に、将来年金を請求するときに備えて、年金のもらい忘れを起こさないためのポイントをまとめておきます。



一つの年金手帳(基礎年金番号)を年金受給まで使い続ける


会社に年金手帳を預けている場合、退職や転職するときに必ず返してもらう


就職や転職したときは、その都度、自分が厚生年金に加入しているか確認する

 社会保険事務所の納付記録を鵜呑みにせず、不審な点があれば、一から洗い直してみることも必要です。社会保険事務所への照会や、その他の手続きは自分でもできますが、専門家である社会保険労務士に相談するのも一つの方法です。

 
専業主婦の保険料は誰が払っているの?

 第1号被保険者とは、自営業の人やその配偶者、学生等で、定額の国民年金保険料を負担します。それに対して会社員は、第2号被保険者として国民年金の保険料が含まれた厚生年金の保険料を払っています。また、専業主婦は第3号被保険者になりますが、この第3号被保険者の保険料は誰が負担していると思いますか? 「うちの旦那でしょ!」という人は間違いです。

 会社員が払う厚生年金保険料は、妻帯者でも独身者でも給与額が同じなら同額ですから、専業主婦の保険料は、厚生年金保険料を払っている会社員全体で負担していることになります。
 



こんな場合に「申請もれ」「届出もれ」「請求もれ」が起きる!


■「申請もれ」のケースと対応策

1)20歳になったが、学生で収入がないため保険料が払えない。

【対応策】
 日本に住んでいる人は、学生や外国人であっても、国民年金の保険料を払わなければなりません。学生や30歳未満の若者で経済的理由により保険料を払えない場合、申請すれば保険料の支払いが猶予されます。猶予されていた期間の保険料は、卒業後10年間のうちに支払うことができます。

2)失業などで収入がなく、保険料が払えない。

【対応策】
 申請して認められれば、保険料は免除・減額されます。全額免除の場合、その期間保険料を払わなくても本来の年金額の3分の1がもらえ、減額の場合は支払った保険料の割合に応じた額がもらえます。なお、現在の免除は全額、半額の2段階ですが、平成18年7月からは4分の3、4分の1が追加され、合わせて4段階になります。


■「届出もれ」のケースと対応策

1)勤めている女性がサラリーマンと結婚し、出産を機に退職した。

【対応策】
 女性が退職したときに第2号被保険者から第3号被保険者への変更の届出を忘れていた場合、後から気が付いて届け出ても、これまでは届出から2年前までしか遡って専業主婦(第3号加入者)として認められず、それ以前の期間は保険料未納と同じ取扱いになっていました。しかし、今年の4月からは過去に何らかの事情で未届けになっている場合、届け出れば加入期間に算入されることになっています。なお、第3号被保険者への変更の届出は、2002年4月から夫の勤務先がすることになりました。第3号被保険者であった期間については保険料を払わなくても将来年金がもらえます。

2)夫が60歳になる前に退職した。

【対応策】
 サラリーマン時代の夫は第2号被保険者、専業主婦である妻は第3号被保険者でした。夫が退職し、再就職しないときは、届け出て夫婦それぞれ第1号被保険者として60歳まで保険料を払わなければなりません。届出を忘れると未納期間になり、その間の年金がもらえなくなる可能性が生じます。


■「請求もれ」のケースと対応策

1)結婚前に数年OLをしていた。

【対応策】
 現在年金をもらっている人は、旧姓で勤めていた期間がたとえ1ヵ月しかないとしても、社会保険事務所に申し出れば年金が増額されます(「6)」の脱退手当金をすでにもらっている人は除く)。

2)勤務していた会社が倒産などでなくなっている。

【対応策】
 会社がなくなっていたり、会社名が変わっていたとしても、所在地や勤めていた期間などをできるだけ正確に思い出して社会保険事務所に調査を依頼すれば、その期間も通算されることがあります。


■「申請もれ」のケースと対応策

3)転職のたびに新しく年金手帳が作られ、複数の年金手帳を持っている。

【対応策】
 本来、転職する場合は持っている年金手帳を次の勤務先に提出して記録を足していきます。そうしなければ、新たに年金手帳が作られて違う番号が発生してしまい、正しい年金額が受給できなくなる可能性があります。社会保険事務所へ届け出れば、一つの番号に統一できます。

4)働いている場合年金はもらえない?

【対応策】
 給与の額に応じて年金の額が減らされますが、もらえる場合もあります。もらえるのは(A)年金の基本月額と(B)給料・年間賞与の1/12(総報酬月額)の合計額が28万円以下の場合で、この場合年金は全額支給されます。そして、28万円超の場合は細かくいえば、(A)が28万円以下か、28万円を超えるか、(B)が48万円以下か、48万円を超えるかの四つのパターンに分かれ、それに応じて年金がカットされます。また、これまで働いている人は一律に年金額が2割カットされていましたが、今年の4月からこのしくみが廃止されました。働いていたらすべての人がまったく年金がもらえなくなるというのは誤解です。

5)厚生年金基金のある会社に勤めたことがある。

【対応策】
 退職後に転居して基金に届けている住所が現住所と違っている場合、基金からの連絡が届きません。すぐに勤めていた会社を通じて現住所を届けてください。基金に加入していた期間はその分年金が加算されますから、基金に請求する必要があります。

6)会社を退職したときに、脱退手当金をもらってしまった。

【対応策】
 脱退手当金をもらった期間の老齢厚生年金はもらえませんが、この期間も加えて加入期間が25年以上になれば年金をもらう権利が生じます(脱退手当金…厚生年金の制度ができて間もない頃、結婚退職したほとんどの女性の加入期間は数年間しかなく年金をもらうための期間に不足していたため、払った厚生年金の保険料が無駄になってしまうということが起こりました。そこで、掛けた保険料の一部を脱退一時金として対象者に返していたのです)。

7)民間会社に勤める前は公務員だった。

【対応策】
 公務員だった期間の年金は共済年金、民間の会社に勤めていた期間の年金は厚生年金ですから、別々に請求しなければなりません。

8)年金をもらうのに必要な期間が足りない場合、年金はもらえない?

【対応策】
 請求もれのケース①②のように合算されていない加入期間があったり、申請もれのケースのように保険料を免除されていた期間があったりすれば、それも合計して年金をもらうのに必要な期間である25年以上になるかもしれません。社会保険事務所で加入履歴を確認しましょう。

〔月刊 経理WOMAN〕