会社の生命保険-今見直すならここがポイントです
   
作成日:09/28/2007
提供元:月刊 経理WOMAN
  


逓増定期保険の税務取扱い変更にご注意!
会社の生命保険-今見直すならここがポイントです




 生命保険の税務上の取扱いが変わることになりそうです。具体的には今まで損金算入されてきた逓増定期保険について、国税庁より税務取扱いの見直しを検討するとの通知がありました。

 そこでここでは、逓増定期保険等も含めた企業で加入している生命保険の見直しポイントを解説します。

 今年は生命保険・損害保険とも従来の保険を見直す絶好の機会となりそうです。といいますのも、まず今年の4月より生命保険料の大改定が行なわれ、生命保険料算定のベースとなる生命表が日本人の平均寿命の上昇により大幅に改定されたからです。

 これにより、昨年死亡保険に加入したばかりの方であれば、4月以降同じ保険に加入し直すだけでも保険料を削減することが可能です。これは昨年加入した保険会社は決して教えてくれない情報です。

 また、詳しくは後述いたしますが、3月には法人の決算対策に利用されてきた逓増定期保険の税務取扱いの見直しを検討しているとの国税庁の通知もなされており、加入中の法人ではその対応が急務となってきています。損害保険においても保険金の不払い問題を受けて、保険会社が契約内容の適正化を実施しており、火災保険などを中心に保険料の取り過ぎなどが判明した場合には、過去7年分の保険料を返還するような対応をとっています。

 ここでは、法人の保険における基本的な選定のポイントと逓増定期の対策ポイントを解説します。


●同じ保険でも最大4割違う! 比較検討が最重要

 現在、日本には生命保険会社が約40社存在しています。従来横並びであった保険料は現在では相当な価格差が生じてきています。また、バブル崩壊以降破綻した生命保険会社は7社あり、安全性・健全性という観点からの検討も欠かせません。

 ところが、中小企業が独自で比較しようにも情報収集は容易ではありませんし、複雑化した保険の比較分析は素人では難しいのが現実です。ただ、現在では特定の保険会社に所属することなく企業の立場に立って提案をする代理人的な仕組みを持つ会社もあるようですので、利用してみるのも一つの方法でしょう。

 では、具体的に価格差の一例を紹介していきます。たとえば50歳の男性経営者が10年定期保険(一般的に掛け捨て保険と呼ばれているもの)の死亡保険金1億円という契約に加入を検討しているとします。月払いの保険料で概ね7万円というのが相場です。ところが最近はタバコを吸わない方に対する特別な保険料(非喫煙料率)を持つ会社が12社程度出てきており、もっとも安い会社ですと3万6900円となります。

 つまり、保険料の高い会社と安い会社では最大50%の差があるわけです。ずい分極端な話ではありますが、これがレアケースなのかというと、じつは相当な割合で発生する話なのです。なぜなら死亡保障市場における大部分のシェアを占める生命保険会社数社には非喫煙料率がなく、タバコを吸う方も吸わない方も同じ保険料だからです。

 一般的に多くのシェアを占める企業はわざわざ自ら価格破壊を仕掛けることはないのです。以上のことからも保険の新規加入&見直しにおいて比較することの重要性がご理解いただけるかと思います。


●決算対策保険加入の5大鉄則とは?

 さて、ここでは企業の保険加入目的の中でも、役員および従業員の退職金準備や決算対策にスポットを当て、その場合の保険導入の「鉄則」を五つにまとめてみました。

 ここで説明する5大鉄則は、お読みいただければ、「当然のことではないか」と、感じる読者の方もいるのではないかと思います。ところが、現実はこの内容が実践されていないことが大半で、正確な情報を知らないがために非常に問題のある状態となっているのです。

 ぜひ、この5大鉄則を保険加入&見直しのチェック項目としてご活用ください。

【鉄則1】
 解約返戻率が初年度から高い保険会社を選定する

 保険会社は常に自社の解約返戻率が他社よりも高いことを強調して説明する傾向がありますが、将来の返戻率と同様に、またはそれ以上に1年目~2年目の短期で解約した場合の返戻率に注意して保険契約をすべきです。

 現在、1年目~2年目の返戻率は保険会社により二極化しており、0%~10%の保険会社がある一方で50%~60%の保険会社もあります。

 加入を検討している期については利益がほぼ確定してからの加入になりますが、翌期、翌々期、または3年後、5年後の利益予想は不透明という会社が多く、確実に利益が出続けることが決まっている企業は少数派です。

 全額損金の保険で返戻率が60%以下で解約した場合、結果として保険に加入しない方が会社に多く資金が残ったことになってしまいます。リスクはできるだけ避けるべきなので初年度から返戻率の高い会社を優先して選定しましょう。


【鉄則2】
 加入時期は決算月に、予算は分散し加入する

 保険に加入する時期は決算月がベターです。その理由は当期の業績をぎりぎりまで見極めた上で加入の決定や金額の決定ができるからです。また、来期以降の支払い時期も決算月になるため大変便利です。

 同時に、予算を小口に分けて加入することも重要です。たとえば年間保険料1000万円の保険に加入する場合、1口1000万円の保険よりも1口200万円の契約に5口に分けて加入すると、毎年の決算の状況に合わせたフレキシブルな対応が可能となります。また5口であれば複数の保険会社に分散して加入することで、保険会社の破綻リスクの低減にもなります。


【鉄則3】
 保険金の分割受取りを指定できる保険会社を選定する

 被保険者が死亡し、会社が死亡保険金を受け取る際、一括受取りをすると大きな益金となり課税されますが、分割受取り方式を「あらかじめ」選択しておくと、受け取る都度益金に計上することが可能です。

 たとえば、被保険者が亡くなって死亡保険金1億円が会社に振り込まれた場合、期末を過ぎて死亡退職金等の支払いを無視すると、通常約4000万円の税金が課税され、6000万円しか会社には残りません。多額の保険を掛けていても、これでは国や税務署のために掛けていたということになりかねません。

 しかしこの保険金に10年間の分割受取り(通常は年金支払い特約)が選択されていた場合には、毎年1000万円の計上で済みます。年間1000万円の益金であれば対策が断然打ちやすくなるわけです。

 従来の税務取扱いでは受取り総額の年金原価を一括経理処理すべきという見解もあり、一括受取りとの違いがありませんでしたが、平成15年12月15日に国税庁から生命保険協会税制研究会に回答があり、受け取る都度計上しても差し支えないと明確化されました。

 しかも、これは権利であって義務ではなく、あくまでも選択肢であるという点が重要で、そうなると法人契約の保険においては必須の特約といえます。

 ただ、注意したいのは、死亡事故が発生してから、死亡保険金を分割で受け取ることを申請するのはこの取扱いの対象ではなく一括計上となる点です。したがって「あらかじめ」年金支払い特約(遺族年金支払い特約・特約保険料は無料)を付帯して契約する必要があります。

 既契約にも中途付加できる保険会社や保険商品もあるので、できるだけ付加しておくべきです。


【鉄則4】
 契約者貸付が可能な保険会社を選定する

 企業で一時的に資金が必要となった場合、保険の解約を検討することも一般的です。ただ、その際の状況を確認してみると、資金は必要だが利益は十分出ているという企業も多いものです。

 このような場合、解約という選択肢を実行すると当然資金は確保できますが、必要のない利益まで計上されてしまうことになります(損金性の保険を解約した場合)。

 また、タイミングによっては資金を使う前に決算をまたいでしまい、税引き後の額、つまり返戻金の約6割しか実際には資金として利用できないということにもなりかねません。

 そこで、このように「資金は必要だが利益は不要」という場合には契約者貸付が有効です。契約者貸付は、資金は解約返戻金の80%~90%まで利用でき、あくまでも借入金であるため、必要のない雑収入は発生しません。また死亡保障も継続されるのですから、本来であれば、まずは契約者貸付を検討することが非常に重要です。

 なお、注意したいのは保険会社によって契約者貸付の可否や貸付割合が異なり、また、保険種類によっても異なることです。あらかじめ保険会社の選定時点で検討することが必要です。


【鉄則5】
 被保険者は経営者に集中する

 従業員全員、役員全員で保険に加入しているケースがありますが、できる限り被保険者は社長に集中する必要があります。仮に解約返戻率が80%の場合、戻らない20%の部分は保障の購入費用に充当されていると考えると、その費用はできるだけ有効に活用する必要があります。

 中小企業において優先すべき保障の対象は社長で、その金額も他の役員・従業員とは比較にならないというのが実態です。消費する保険料のムダをなくすという点からも保障を社長に集中するのが理想的です。

 ところが現実は役員・従業員に薄く広く加入しているということが多いものです。これはじつは、保険会社の提案でそのような加入方法を促している場合があります。

 すなわち、各保険会社とも1人の被保険者が自社で加入できる保険金額に上限があり、企業の保険料予算を可能な限り自社で獲得するためには、多くの被保険者を対象として提案せざるを得なかったからです。

 しかしながら、1社では限度のある保険金額も複数の保険会社を利用することで、社長1人に集中して保険加入することが可能となります。


●逓増定期保険の税務見直しの対応策とは?

 さて、トピックスとしては平成19年3月22日に国税庁から生命保険協会宛文書にて逓増定期保険税務取扱いの見直しについて検討する旨の通知がありました。現在国税庁および保険会社各社にて協議が実施されているものと推察されます。

 ここで重要なのは、現在時点ではまだ改正されているわけではなく、また改正されるとしてもその時期や内容については一切不明であるという点です。つまり現時点でいえば、逓増定期に加入している企業はあわてる必要はまったくありません。支払い期日の到来時に保険料を支払えば、現行税制が適用されるのです。ただ、今後何らかの改正が行なわれた場合にどのような対応策が考えられるのかをあらかじめ確認しておくことは大切でしょう。

 対応策については加入中の保険の保険金額や保険料、加入時期、返戻率の状況など保険自体の状況により、また、企業規模、損益状況、資金状況、事業承継の見通しなど企業の経営状況により、さまざまなパターンが考えられ一概にはいえませんので、今回は一般論的な対応策について解説をします。

 逓増定期保険の返戻率は経過年数に応じて上昇し、一定の年数でピークを迎える設計になっています。中には当初数年間は通常よりも低い返戻率となるように設計されていることもあります。その際、税制が改正されたからといってすぐ解約するのは非常に損をする結果となります。

 たとえば、年払いで3回目の保険料を支払った後の返戻率が55%、4回目の支払いをすると返戻率が65%になる契約があったとします。その際、4回目の保険料の支払いが、税制改正により仮に4分の1損金となったとした場合、どう考えるでしょうか。返戻率も大して上昇せず、かつ支払った保険料の4分の1しか損金に計上できないのでは意味がないと解約を選択することもあるでしょう。

 しかしながら、「3回支払いで55%→4回支払うと65%になる」というのは、「4回目を支払うことで、過去の支払いについてもすべて65%で返戻される」ということともいえます。すると、単年度で見た場合には、4回目の支払いに対する返戻率は65%ではなく95%と考えることができます(65%-55%=10%、10%×3回=30%、30%+65%=95%)。そうなると、95%の返戻率であればたとえ4分の1損金計上であっても単年度でも多少の損金メリットがあるといえます。

 つまり、税制改正後の保険の損得は単年度で検討するべきだということなのです。しかも、継続することによって、1)過去3回支払って節税してきた含み益を解約することで吐出してしまうことなく先送りでき、2)単純な掛け捨て保険との比較で考えても支払い保険料の5%で死亡保障が得られる、という効果も得られるわけです。

 また、その後近いうちに大きな経費の発生(たとえば役員役職金など)が予測できるのであれば、なおさら含み益を先延ばしにするメリットは大きいと考えられます。

 ただ、すべてこのように考えられる保険契約や経営状況ばかりではありません。もっとも影響が大きいのは資金繰りでしょう。潤沢な資金を持つ会社であればいざ知らず、ぎりぎりの資金で保険加入している企業では、ある程度保険を整理していくのはやむを得ないものと考えます。

 ただ、その際に注意したいのは「払えないor払わない」=「解約」ではないということです。「解約」は雑収入の計上を意味するのです。保険料の支払いを止めた原因が、企業業績の赤字ではないのであれば、「支払わない」という対策だけで十分ことは足りるはずです。せっかくの含み益はできるだけその計上を遅らせる対策を実施するべきでしょう。


〔月刊 経理WOMAN〕