「研究開発税制」の中身が分かるQ&A
   
作成日:06/26/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


法人税が最高30%まで控除される! 使い勝手がよくなった
「研究開発税制」の中身が分かるQ&A




 平成20年度税制改正関連法案が、4月30日に衆院本会議において賛成多数で再可決・成立し、同日公布・施行されました。例年よりも1ヵ月遅れとなりましたが、ようやくこれで落ち着いて税制改正への対応に取り組めます。今回の税制改正では、中小企業優遇の税制がいくつか入っています。ここではその中から「研究開発促進税制」を取り上げて詳しく解説しましょう。

◆研究開発促進税制の概要

 この「研究開発促進税制」は今回新しくできた制度ではなく、以前からあったものです。それが拡充され、大幅に控除できる額が増えました。国として研究開発に力を入れている企業を応援しようという狙いがあります。

 今回の「研究開発促進税制」の改正の概要は、図表1のとおりです。図表の上側が今までの制度ですが、今回それが下側のように大幅に拡充されています。

図表1 研究開発促進税制の概要


 今までの制度は、「総額型」+「増加型」ということで、法人税額の20%までの税額控除が可能でした。それが改正後は、「総額型」に、「増加型」または「高水準型」のいずれかを選択してプラスする形になっています。

 税額控除の上限も、「総額型」だけで法人税額の20%まで、そして「増加型」または「高水準型」でいずれか選択したものが、法人税額の10%までとなります。

 すなわち、合計すれば法人税額の30%まで控除できてしまうのです。「研究開発に力を入れる企業には、約1/3の法人税を免除しましょう」という制度なのです。これは、使えればかなり大きいと思いませんか?


◆どんな法人が使えるか?

 業種規模などを問わず、すべての法人に使うことが可能です。ただし、青色申告書を提出している法人に限ります。

 また、中小企業は税率等で優遇されていますが、この中小企業とは、資本金1億円以下の法人のことをいいます。大規模法人の子会社などは、中小企業の優遇を受けることはできません。

 ということですが、試験研究費の定義を考えると、やはりこの制度は製造業が中心になるかと思います。すなわち、試験研究費とは、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する費用、となっているからです。この具体的な内容については、後述いたします。


◆税額控除の具体的な計算方法は?

 では、「研究開発促進税制」による税額控除の具体的な計算方法を見ていきたいと思います。まず、税額控除額は、次の二つの「型」による控除額の合計であることは、前述したとおりです。

税額控除額=総額型+増加型または高水準型

 では、具体的に計算方法を見ていきましょう。

■総額型

 総額型の計算は、図表2のとおりです。計算方式は、いたって簡単です。当期の試験研究費に、税額控除割合を乗じるだけです。ただし、計算結果の税額控除額については、法人税額の20%が限度となります。

図表2 「総額型」の計算
 
 ●税額控除額=当期の試験研究費 × 税額控除割合
  (法人税額の20%限度)
 

 この税額控除割合については、図表3をご参照ください。税額控除割合は、試験研究費割合によって変わってきます。試験研究費割合は、図表3の欄外に記載していますが、当期の試験研究費の額が、当期及び前3年の平均売上の何%を占めているか、ということです。試験研究費の割合が高ければ高いほど、税額控除割合も上がっていくことになります。

図表3 「総額型」の税額控除割合
試験研究費割合
税額控除割合
10%以上10%(中小企業は下記算式の結果12%まで)
10%未満(試験研究費割合×0.2)+8%
※試験研究費割合=当期の試験研究費÷当期及び前3年の平均売上

 大規模法人は、税額控除割合が10%上限ですが、中小企業の場合には12%までと優遇されています。たとえば、試験研究費割合が15%であった場合は、次のようになります。

税額控除割合=(15%×0・2)+8%=11%

 これを当期の試験研究費の額に乗じることになります。税額控除割合は、最低でも8%あるわけですから、かなり大きいですね。試験研究費が年間1000万円あれば、80万円の税金が戻ってくるのですから。

■増加型

 次に増加型ですが、これは当期の試験研究費が前3期の試験研究費をどのくらい上回ったかにより、計算します。増加型の計算式は、図表4をご参照いただければわかると思いますが、その増加した額の5%を税額控除しよう、というものです。当然、前3期の平均よりも増えていなければ、この増加型による税額控除額はゼロとなります。なお、これによる税額控除額は、法人税額の10%が限度となります。

図表4 「増加型」の計算
 
 ●税額控除額=(当期の試験研究費-前3期の平均)×5%
  (法人税額の10%限度)
 

■高水準型

 今回の税制改正で新たに加わりました。これは売上の10%を超えるような、高水準の試験研究費を使っている会社を優遇するためのものです。

 図表5の計算式を見てもらえばわかるように、当期の試験研究費が売上の10%を超えた部分に対して、税額控除を計算しています。

図表5 「高水準型」の計算
 
 ●税額控除額=(当期の試験研究費-売上高×10%)×税額控除率※
  (法人税額の10%限度)
 
※税額控除率=試験研究費割合-10%)×0.2

 税額控除率は、試験研究費が売上の10%を超える部分の20%ということになります。試験研究費割合が20%であれば、税額控除割合は2%ということになります。なお、これによる税額控除額も、法人税額の10%が限度となります。

 以上、簡単に具体的な計算方法を見てきましたが、税額控除の額としては、総額型の部分がかなり大きな金額になりそうです。増加型、高水準型に関しては、どちらか有利な方を選択することになります。


◆試験研究費にはどんな費用が入るか?

 では、この試験研究費にはどのような費用が入るのでしょうか? 前述したように、試験研究費は、製品の製造または技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する費用が基本となってきます。

 具体的には、試験研究を行なうために要する図表6のような費用が該当してきます。

図表6 試験研究費の内容例
科 目
内 容
原材料費研究のために要した主要材料費、補助材料費、部品費等
人件費研究に携わる従業員に対して支払う給与、賞与等
経 費
 減価償却費研究するために使用する有形固定資産(建物、機械装置等)に係る当期間中の減価償却費
 水道光熱費研究するために使用した電気、ガス、水道料金等
 租税公課研究用資産に係る固定資産税等
 保険料研究用資産に係る保険料
 外注費研究の設計、製作、試験等の一部を他に委託した場合に発生する費用

 なお、次のような費用は試験研究費には入りませんのでご注意ください。



事務能率・経営組織の改善に係る費用(経営管理関連)


販売技術・方法の改良や販路の開拓に係る費用(マーケティング関連)


単なる製品のデザイン考案に係る費用(デザイン関連)


既存製品に対する特定の表示の許可申請のために行なうデータ集積等の臨床実験費用

◆制度活用のための注意点

 この制度を活用する第1歩は、自社の支出する費用に試験研究費に該当するものがあるかどうかを確認することです。必ずしも製造業に限らず、製作や研究開発的な事業がある場合には該当することもあります。詳しくは、顧問の会計事務所や税務署などに確認することをお奨めします。

 そして、試験研究費に該当するものがあれば、日常の経理において該当する試験研究費を明確に集計できるようにする必要があります。会計ソフトの勘定科目や補助科目の設定を見直しておく必要があります。

 さらに、増加型などを計算する場合には、前3期間の試験研究費の額が必要ですので、これらの集計もやっておかなければいけません。

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 使える会社にとっては金額的にかなりインパクトがある「研究開発促進税制」。自社で活用できるか一度検討してみてはいかがでしょう。

〔月刊 経理WOMAN〕