焦付き売掛金の「法的回収方法」―すべて教えます
   
作成日:05/27/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


あきらめるのはまだ早い!
最後は法律知識がものをいう!!
焦付き売掛金の「法的回収方法」―すべて教えます




 ビジネスにおいて、売掛金が焦げ付いてしまう事態は避けてとおれないものです。少額であれば泣き寝入りするしかないかもしれませんが、それが積み重なれば会社経営に重大な影響を及ぼすことは必至です。

 そこで、焦付き売掛金を法的な手段を使って回収するため、その種類と利用法、注意点などを分かりやすくアドバイスします。

■焦付き売掛金の回収はなぜ重要なのか

 「取引先から先月分の売掛金について支払期限を延ばして欲しいと頼まれた」、「売掛金の回収が遅れているので取引先に連絡したら、担当者が不在で分からないといわれた」…。

 こういう事態に遭遇したとき、みなさんはどのように対処しますか? こんな状態が続けば、売掛金がまったく回収できないという重大な結果を招く恐れも否定できません。

 回収不可能となった売掛金、いわゆる「焦付き売掛金」が発生すると、この売掛金の回収を見込んでいた買掛金の支払いができなくなったり、商品の仕入れの資金が足りなくなったりするなど、みなさんの会社は大変な不利益を被ります。一件ごとの焦付き売掛金は少額でも、それが積み重なれば同じ事態に陥るだろうということは容易に想像がつくのではないでしょうか。

 そこで、みなさんの会社が取引先に売掛金債権を持つ債権者だと想定し、売掛金の法的回収方法について説明していきたいと思います。なお以下は、債務者が法的倒産手続き(破産手続きや民事再生手続きなど)を開始していないことが前提です。


■「法的回収方法」の種類と注意点

 売掛金を回収するとき、実務上はまず、法的な手続きによらない回収方法を取ることがほとんどです。たとえば、内容証明郵便による請求や債務者のもとにある自社商品の引上げ、相殺、債権譲渡などが挙げられます。

 しかし、こうした方法で回収を迫っても債務者が応じない場合は、法的手続きによる回収方法を使うしかありません。場合によっては最初から法的回収方法を選択することもあるでしょう。いずれにしても、法的回収方法の基本的な知識は経理ウーマンにとって非常に有用なものといえます。

 さっそく、主な法的回収の手続きと注意点について説明していきましょう。

1)支払督促

 支払督促とは、債権者が簡易裁判所の書記官に対して支払督促の申立てを行ない、書記官が債務者に金銭の支払いを命じる手続きです。

 債権者は請求金額の大小にかかわりなく、原則として債務者の住所のある地区を管轄する簡易裁判所の書記官に対して申立てを行ないます。申立書の書式は各簡易裁判所に備えてあるので、簡単に入手できます。支払督促の手続きについては、裁判所のホームページの「裁判手続」の項目から流れを見ることができるので参照してみてください。

 債権者が申立書を提出したら、裁判所書記官は債務者の意見を聞かずに、申立書の記載を見て審査を行ないます。そして、債権の存在を認めると支払督促(金銭の支払いを命じる督促状)を発付してくれます。

 ただし、債務者が支払督促を受け取った日から2週間以内に異議を申し立てたときは、支払督促は失効し、通常訴訟に移行してしまいます。したがってその後は、請求金額が140万円以内のときは簡易裁判所で、請求金額が140万円を超えるときは地方裁判所で通常訴訟を行なうこととなります。

 支払督促は書面だけの審査で、証人尋問を行なったりなどはしませんので、通常の訴訟より時間がかからず、裁判所に対する手数料(訴状や申立書に貼る収入印紙の額)も通常訴訟の半額で済みます(手数料は債権者に請求する金額によって異なります)。

 ただし支払督促は簡易・迅速を目的とするので、債務者の住所が不明の場合は使えません。また、債務者が請求金額について争うことが予想される場合、前述のとおり債務者から異議が出され通常訴訟に移行する可能性が高いので、簡易・迅速という支払督促のメリットが生かせなくなります。

2)民事調停

 民事調停とは、裁判所で行なう当事者間の話合いの手続きで、原則として債務者の住所のある地区を管轄する簡易裁判所に申し立てます。民事調停を申し立てると、裁判官と2名の調停委員から成る調停委員会が期日を指定して当事者を呼び出し、事情を聞いた上で調停案を出してくれます。しかし、裁判所に出向くか否かは当事者自身の判断に委ねられますし、話合いがまとまらなかった場合は、その時点で調停は不成立(不調)となり、紛争は解決しないままで終了してしまいます。

 こう説明すると、民事調停は効力が弱いものと感じられるかもしれませんが、公的機関である裁判所を話合いの場として、裁判官と調停委員という専門家が双方の話を聞いてくれるので、話合いがしやすく妥当な解決に結び付きやすいというメリットがあります。手数料も支払督促とほぼ同額か、やや低額くらいで済みます。

 また、話合いがまとまった場合に作成される調停調書には判決と同じ効力があるので、これにより強制執行の手続きを取ることもできます。

3)訴訟

 支払督促、民事調停によっても債権回収ができない場合は、訴訟の提起を考えることになります。

 訴訟は債権者が裁判所に訴状を出し、訴えを提起することから始まります。この訴状は債権者の住所のある地区を管轄する裁判所に出せるので、債権者にとっては場所的にも有利です。

 ただし、手数料は支払督促の倍の金額がかかりますし、弁護士に依頼する場合には弁護士費用もかかります。また、債務者と請求金額について争っているような場合には、双方から自分の主張を記載した準備書面を出し合ったり、証拠を出し合ったりなどするため、判決が出るまでに長期間を要するケースも少なくありません。さらに判決に不服がある場合は上級審に控訴して争うことになり、最終的な判決が確定するまでには長い時間がかかることもあります。

 しかし、債権者が勝訴判決を得た場合には債務者は支払いの義務を有することが明確となりますし、判決をもとに債務者の財産に強制執行の手続きを取ることができますので、この点がメリットであるといえるでしょう。

 なお、実務上の解決方法として多いのは、訴訟の途中で行なわれる裁判上の和解です。これは、裁判所に判決を出してもらうのではなく、裁判所が双方の話を聞いて妥当な解決を試みるというものです。債務者の資力に応じた分割払いなどの結論を導き出すこともできるので、債権が全額回収できないという事態を避けられる可能性があります。

 また、和解が成立したときに作成される和解調書にも判決と同様の効力がありますので、これによって債務者の財産に強制執行をすることができます。

4)少額訴訟

 少額訴訟とは、請求金額が60万円以下の金銭債権の支払いを求める場合、原則として1回の審理で解決を図る手続きです。

 まず債権者は、訴状を債務者の住所のある地区を管轄する簡易裁判所に提出します。訴状の書式は支払督促と同様、簡易裁判所に備え付けてあり、誰でも訴状を作成することができるので、弁護士費用は不要となるケースが多いでしょう。訴状を提出すると、裁判所から審理の期日が指定されます。審理は1回で終了し、ただちに判決が出されるので手続きが迅速です。

 ただし、債務者の所在が不明の場合には少額訴訟を起こすことはできません。また、債務者が少額訴訟の手続きに同意しない場合は、通常訴訟に移行してしまいます。したがって、債務者が1回の審理で決着できないような争い方をする姿勢が明らかな場合は、最初から通常訴訟を利用した方がよいかもしれません。


■「法的回収方法」を使うときに気を付けたいこと

 法的回収方法を紹介してきましたが、大切なのはどの方法を利用するかの選択です。債務者に資力が残っている、早い段階で適切な法的回収方法を取れば、売掛金が全額回収できるかもしれません。法的回収方法を選ぶにあたって判断に迷った場合は,早期に専門家へ相談することがその後の回収の成否を左右するでしょう。

 また、法的回収方法を利用するときには費用の問題も考えなければなりません。費用は主に次の三つがあります。

1)裁判所に対する手数料
2)裁判所に納める郵便切手代(裁判所が相手方に書面を送るときに使うため裁判所に予納しますが、ほとんどの場合数千円です。裁判が終了したときに余った分は返却されます)
3)弁護士費用(着手金・報酬金)

 3)については弁護士に依頼しなければ必要ありませんが、1)と2)は法的回収方法を利用するのであれば、いかなる場合も必要です。こうした費用の金額と回収すべき請求金額とを比較して、どんな手続きを、どのように行なうのかを考えていくことになります。


■売掛金の回収は日頃の行動にかかっている!

 実は、法的回収方法の選択の前に、経理担当者のみなさんに日頃から心掛けて欲しいことがあります。

 それは、日頃から自社の債権・債務の内容を把握しておくことです。きちんと把握できていれば、売掛金を早く正確な金額で請求することができ、売掛金が時効(2年)によって消滅してしまうといった不利益も防げます。

 また、取引先の支払いが遅れるようになったなど、過去と異なるサインに敏感になることも大切です。経理担当者がサインを早期に読み取れば、回収のために取ることのできる方法も多くなり、最終的な回収金額のアップにつながるのです。

 また、請求書・領収証の発行や受領などを確実に行ない、これらの書面をしっかり管理してください。法的回収方法を取る場合、証拠としてもっとも有力なのは、「書面」です。したがって、売掛金が全額回収できるまでは請求書や領収証だけでなく、FAXでのやりとりや電話のメモなども残しておくことを強くお勧めします。

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 焦付き売掛金をゼロにすることは難しいと思いますが、早い段階で手を打つことで泣き寝入りは免れます。経理担当者のみなさんも積極的に債権の回収状況をチェックし、必要であれば法的回収方法を取ることを社長に進言してみてはいかがでしょうか。

〔月刊 経理WOMAN〕