「自己資本比率」向上マニュアル
   
作成日:06/26/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


あなたの会社でもこうすれば「健全性」が高くなる!
銀行格付けを上げるための
「自己資本比率」向上マニュアル




 自己資本比率とは、銀行がもっとも重要視する比率です。この比率がよければ、銀行格付けもよくなり、借入れもやりやすくなります。また自己資本比率を高める過程で、会社の問題点が見えてきたり、会社がより健全な姿になったりするのです。

 そこでここでは、「自己資本比率」を向上させるための考え方・やり方について分かりやすくアドバイスしていきます。

自己資本比率とは

 経理という仕事に携わっていると、さまざまな財務比率、経営分析比率を目にし、耳にすると思います。流動比率、総資産回転率、経常利益率、労働分配率…などなど。

 会計ソフトなどで経営分析表を出力すると、それこそズラーっと比率が出てきますから、何がどういう意味なのか、正直ピンとこないという人も多いのではないでしょうか?

 そんな数ある財務比率の中から、どれか一つだけ重要なものを選べといわれたら、私ならためらわず「自己資本比率」を選びます。なぜなら、この比率に注目し、その数値をよくしていくことが、会社全体をよくしていく、強くしていくことにつながるからです。また、非常にシンプルな指標で分かりやすいということも、指標とするのに適しています。

 では、自己資本比率は、どのように計算するのでしょうか。経理担当者のみなさんはすでにご存知だと思いますが、表1のような簡単な計算式で求めることができます。

表1 自己資本比率


 貸借対照表の総資本(=総資産)に占める、純資産の部(会社法の施行に伴ない、資本の部から名称が変わりました)の割合が、自己資本比率ということになります。負債=他人資本とは、いずれ返さなければいけないお金です。

 それに対し、純資産=自己資本は、基本的に返さなくてもいいお金です。返さなくてもいいお金が多ければ多いほど、資金繰りは安心ですし、会社は安定します。反面、返すお金が多ければ、その返済資金を工面するために常にお金に追われ、利益が出ても資金はない、という状況に陥ってしまいます。

 これでは、安定した経営や将来への投資もできません。現在および将来のことを考えると、自己資本比率を高くしていくことは経営の大きな課題です。返済能力を重要視する銀行においても、この比率が端的に企業の安全性・安定性を表わしていますから、もっとも注目している指標です。

 なお、自己資本比率は、30%を一つの目安としてください。もちろん高ければ高いほどよいのですが、設備投資が多い会社、借入金を使って事業を拡大中の会社は自己資本比率が低くなりがちです。それらを考慮しても是非30%は欲しいところです。できれば、50%以上を目指して欲しいものです。


自己資本比率向上のための5つのポイント

 ではこの自己資本比率を向上させるためには、どのようにしていったらよいのでしょうか。前述の計算式を見れば、その方向性は明らかでしょう。分母を下げるか、分子を上げるか、その両方かなのです。

 分母を下げるには、資産および負債を減らすことですし、分子を上げるには、増資をするか、利益を上げるかです。以下、そのポイントを五つに絞ってまとめてみました。

1)資産を圧縮する

 自己資本比率を上げるのに、まず目を付けるべきところは、余分な資産を削ぎ落とすことです。あなたの会社の資産の部を見てください。余分な資産、使われていない資産、放置されている資産はありませんか? たとえば次のようなものです。

・長期に滞留している売掛金、貸付金、未収入金、立替金など。
 →徹底して回収をする。どうしても回収できないものは損失として落とす。

・受取手形や売掛金が常に多い。
 →手形は極力もらわない。売掛金の回収条件、回収方法を見直す。

・在庫が多い。不良在庫がある。
 →在庫の持ち方を見直す。棚卸をこまめにする。不良在庫を処分する。

・固定資産が多い。
 →償却をきちんと行なう。早期償却を行なう。実地棚卸をし、ないもの、使われていないものを処分する。遊休資産は売却する。

・投資その他の資産に不明なもの、不要なものがある。
 →内容を確認し、売却、除却等をし、現金化あるいは損金化する。

 以上のような見直しをした上、今後はできるだけ不要な資産を増やさないよう、経理担当者としても、注意喚起していくことが必要です。不動産などの固定資産を持つと、借入金とともに資産が増えることになり、自己資本比率を下げる要因になります。「持つ経営」から「持たない経営」にシフトしていくことが、自己資本比率向上のキーポイントになります。

2)負債を圧縮する

 資産の圧縮とともに、負債の圧縮をしていきます。たとえば次のようなことです。

・借入金の返済を加速する。
 →上記資産の売却や現金化に伴ない、増加した現金をもって借入金を返済する。その他、現金や有価証券などが多目にある場合は、借入金の返済に回していく。

・支払手形を減らしていく。
 →手形はできるだけ発行しない。これは時間をかけてでも取り組んでいく価値がある。

・買掛金の支払いサイトを短くしていく。
 →資金繰りのためには長くするのが鉄則であるが、自己資本比率を上げるためには時間をかけてでも減らしていく。仕入先からの絶大な協力を得られることの副次的な効果もある。

・増資資金で、借入金などを減らしていく。

 負債を圧縮するのは、資金繰りの観点から見ると厳しい面もあるかも知れません。これは資産の圧縮の状況を見ながら、時間をかけてやっていくことになります。

3)増資をする

 増資をすれば当然、自己資本は増えます。ただし、そうはいっても未公開企業ではそう簡単にできることではありません。むしろ、今回の会社法で緩和されたDES(デット・エクイティ・スワップ)を検討してみてはいかがでしょうか?

 DESとは、たとえば社長からの借入金を資本金に振り替えてしまう(現物出資する)手法です。社長借入金が多い会社は、ぜひ検討してみてください(くわしくは顧問税理士の方にお聞きください)。

4)利益を上げる

 自己資本を増やすもう一つの方法が、利益を上げることです。この方法こそが自己資本比率を上げるためにもっとも基本的な方法かつ、力を入れるべきことです。1)~3)までの方法は、いわば外科手術的なものです。

 この方法こそ真に会社内部から自己資本を充実させていくものなのです。

 ただ「利益を上げること」と簡単にいっても、その手法はここに書けるほど簡単なことではありません。具体的には経営者に考えてもらうしかありませんが、とにかく利益を上げ続けなければ自己資本比率はよくならないのだ、ということを経営者に伝えて欲しいのです。

 少ない資本でたくさんの利益を上げる、今後はそういう会社こそがもっとも評価される会社になっていくはずです。

5)税金を支払う

 これも・に関連することですが、「税金を支払わなければ、自己資本は増えない」ということです。すなわち、・で利益を上げることといいましたが、その利益は当然、税引後の利益のことです。税引後の利益だけが純資産の部の利益剰余金に入ってくるのです(表2参照)。

表2 損益計算書


 当たり前のことなのですが、これが理解できていない社長が非常に多いように感じます。その証拠に、利益が出るとすぐ節税したがる社長が多い、ということがあります。必要な節税は結構ですが、必要以上に節税をしてしまうと、当期純利益が下がり、内部留保(利益剰余金)にいく金額が少なくなってしまうわけです。

 これでは、いつまでたっても自己資本は増えず、自己資本比率はよくなりません。税金という目先の支出を敬遠するばかりに、長期的な信用を落としていっているのです。

 これは、非常にもったいないことだと思います。ぜひみなさんには、税金を喜んで支払って、内部留保を貯めることを社長にすすめて欲しいと思っています。


自己資本比率を上げるとどうなるか?

 自己資本比率を上げると会社が安定する、銀行の信頼も厚くなるという話をしましたが、経営サイド、実務面ではどのような変化が出てくるのでしょうか?

 もっとも顕著に現れるのが、資金繰りがとても楽になる、ということです。そして、その結果経営内容も格段によくなるのです。

 岡山にM工業という会社があるのですが、その会社のM社長は、自己資本比率を高くするという1点に目標に絞って経営を行なってきました。そのために、ここで解説したさまざまな手法を着実に、一途に実施してきました。その結果、8年前に12・4%だった自己資本比率が、なんと現在は60%に迫る数字となってきています。

 M工業の自己資本比率を上げようとする努力が、製造工程の合理化、製品の改良、販売先、仕入先との関係改善にもつながってきているのです。もちろん売上も増えてきています。たった一つの指標が、会社全体の体質を変えてしまったのです。これはM社長の信念を貫きとおした結果だと思います。

 そして、M社長は、「自己資本比率が40%を超えたら資金繰りが楽になってきた。50%を超えたらかなり楽になってきた。本当に今、それを実感している」といっています。

 ぜひ、みなさんの会社も「自己資本比率」に着目した経理・経営を目指して欲しいと願っています。

〔月刊 経理WOMAN〕