「新会社法」が決算に与える影響
   
作成日:01/29/2007
提供元:月刊 経理WOMAN
  


決算書類の変更から個別注記表の新設まで
「新会社法」が決算に与える影響
  ─知っておきたい7つのポイント




 新会社法が施行され、8ヵ月以上が過ぎ、既に新会社法で決算を行なった会社も多いかと思います。ただ、決算月でもっとも多いのが、3月決算と12月決算です。これらの会社の方は、これからが決算作業の本番です。ここでは、今一度新会社法による決算への影響を確認しておきましょう。

■新会社法による決算書の種類

 新会社法による決算書(正式には、計算書類等)には、次のものがあります。

(1)貸借対照表
(2)損益計算書
(3)株主資本等変動計算書
(4)個別注記表
(5)事業報告
(6)附属明細書

(会社法施行前との対比は図表参照)

図表 決算書の種類


 貸借対照表、損益計算書については、表示方法などが若干変わった程度で、それほど大きな影響はないかと思います。

 ただし、株主資本等変動計算書や個別注記表などは、新たに設けられた決算書であり、これについてはひととおりの理解をしておく必要があります。事業報告、附属明細書については、中小企業の場合、ほとんど作ることがありませんので、簡単に触れる程度にとどめておきます。そのほか、会計処理が変わった部分や、決算のスケジュールで注意すべき点などもありますので、以下これらを7つのポイントとしてまとめてみました。


■決算に際し知っておきたい7つのポイント



貸借対照表の変わったところ

 「資本の部」という名称が、「純資産の部」になりました。さらに純資産の部の項目の分け方が変わっています。

 そもそもなぜ純資産の部になったかというと、会社法施行前は、資本だか負債だか区別のつかない項目があったからです。今回、負債の部から純資産の部に入ることになった「繰延ヘッジ損益」と「新株予約権」がそれです。これらを資本の部に入れるとともに、資本の部を純資産の部に変えたのです。

 資産マイナス負債は、単純に純資産、ということで、資本という言葉を使うのを避けたわけですね。まあこれらの科目は、中小企業はほとんど使わないでしょうから、あまり影響はないと思われますが…。

 今までの資本の部のほとんどは、株主資本という区分に入ることになりました。また、資本の部では、当期未処分利益(または当期未処理損失)だった科目は、繰越利益剰余金という科目になりました。会社法適用初年度は、今までの当期未処分利益(または当期未処理損失)の残高を、そのまま繰越利益剰余金の残高としてください。




損益計算書の変わったところ

 損益計算書は、一番最後が当期純利益となり、それ以下にあった前期繰越利益、当期未処分利益、さらに中間配当に関する項目などがなくなりました。非常にすっきりした感じになりました。

 これらのなくなった項目は、新たにできた株主資本等変動計算書で計算表示されることになります。

 また、旧商法では、損益計算書を経常損益の部と特別損益の部に区分し、経常損益の部はさらに営業損益の部と営業外損益の部に区分するとされていましたが、これらの区分もすっきりと廃止されています。




株主資本等変動計算書が新設される

 新会社法では、利益処分案(利益処分計算書)が廃止され、その代わりに株主資本等変動計算書が新設されました。横長でかなり複雑な表になっていますので、作成すると思うとウンザリしてしまいますが、純資産の部の変動があまりなければ、見た目よりは大したことはありません。

 いずれにせよ、この表はお使いの会計ソフトのバージョンアップで対応するか、初年度は会計事務所に作成してもらう方が良いかも知れません。

 この表は、要は純資産の部の変動を表わす表です。期中、純資産の部がどのような理由で、いくら変動したのかをマトリックスで表示しています。

 ではなぜ、このような表を作成するようになったのでしょうか。これは新会社法の改正内容に関わってきます。

 すなわち、新会社法では、剰余金の配当が期中いつでもできるようになったこと、自己株式の購入も定時総会だけでなく、臨時総会でもできるようになったこと、純資産の部内の係数の変動が自由にできるようになったことなどにより、純資産の部の変動が多くなることに対応したものだと思います。それにしても、作るのも大変な表ですが、見るのも大変な表だなとは思いますが…。




個別注記表が新設される

 今まで貸借対照表や損益計算書に欄外注記してきたものが一つにまとめられて、個別注記表を作成することになりました。注記事項は全部で12項目あります。

 この個別注記表は、どんな会社でも省略できない注記項目が3項目ありますので、すべての会社で作成する必要があります。その省略できない注記項目とは、「重要な会計方針に係る事項に関する注記」、「株主資本等変動計算書に関する注記」、「その他の注記」の3つです。

 「重要な会計方針に係る事項に関する注記」には、有価証券の評価方法や固定資産の減価償却方法など、自社が採っている会計処理の方法を記載します。中小企業の場合、簡単に列挙すれば十分かと思います。

 「株主資本等変動計算書に関する注記」では、とくに決算後に行なう剰余金の配当に関する事項の注記が重要です。すなわち、その決算に関わる定時株主総会で決議される配当金に関する事項を注記するわけです。今までは利益処分案を決算書として作成していましたが、今後はそれが廃止されたため、株主に対する配当金を記載する場所がなくなってしまったわけです。そのため、配当金については注記をすることになりました。

 「その他の注記」には、会社の財産または損益の状態を判断するために必要な事項を注記します。たとえば、減価償却の累計額であるとか、保証債務がある場合は、その額などを注記します。




役員賞与の会計処理が変わった

 利益処分案の一つとして、役員賞与を支給することがあります。役員賞与は、税法上も損金にはなりませんし、会計上も利益から分配するものと考えられていました。

 今回、利益処分案(利益処分計算書)がなくなったことにより、配当や役員賞与も株主総会では個別の議案として決議されることになります。ただし、役員賞与については、利益の分配ではなく、会社の費用であるという考え方に変わりました。すなわち、会計上は役員賞与も役員報酬と同様とされ、販売費及び一般管理費で処理されることになります。

 たとえば、平成19年3月期決算の会社が、5月の定時株主総会において500万円の役員賞与を支給する決議をする場合は、決算において次のように仕訳を行なう必要があります。

●H19・3・31
(借方)役員賞与引当金繰入 500万円
(貸方)役員賞与引当金 500万円

 平成19年3月期の業績に対する役員賞与ですので、当期の費用に計上するわけです。ただし、株主総会が終わっていないため、まだ債務は確定しておらず、引当金を使うことになります。

 会計上は以上のような処理をしますが、税法上は役員賞与は損金にはならず否認されることになります。したがって、法人税の申告書上は、その額は所得の金額に加算されて法人税が計算されます。




事業報告、附属明細書はどうなったか?

 決算において、営業報告書を作っている会社もあるかと思います。今回の新会社法では、この営業報告書が事業報告になりました。

 商法で営業年度といっていたのが、新会社法では、事業年度になりましたので、それによる名称変更です。また「書」が取れてしまいましたが、これは紙媒体に限らなくなる(WEBなど)ためだそうです(といっても損益計算書は、書が付いたままですが。取ってしまうと締まらないですね…)。これについては、細かい内容がいろいろ変更になっているようですが、ここでは割愛させていただきます。

 附属明細書も旧商法のものと、新会社法のものではずい分と変わってきています。かなり簡素化されているようです。ただし、中小企業ではこれら附属明細書の内容については、個別に作成しているものも多い(固定資産の明細や販売費及び一般管理費の明細など)ため、とくに別途作成する必要はないかと思います。




決算スケジュール

 新会社法においては、監査や株主総会までの一定期間などの考え方が変わっています。

 基本的には、監査役監査の期間を4週間確保されていれば、比較的自由に株主総会の日などを決めることができます。

 監査法人の監査を受けない中小企業においては、一般的には次のようなスケジュールになります。

・決算日
  ↓
・監査役へ決算書(計算書類等)を提出
  ↓ …最短4週間の監査期間
・取締役会の承認
  ↓
・招集通知の発送
 (定時株主総会の2週間前まで。
  譲渡制限会社は1週間前が原則)
  ↓
・定時株主総会

 なお、取締役会を置かない会社(取締役1人でも可)は、書面での招集通知を省略したり、招集通知の発送を1週間よりもさらに短縮したりすることも可能です。


■経理担当者へのアドバイス

(1)決算書作成の準備

 新会社法で決算をするにあたり、もう既に行なっているかと思いますが、会計ソフトのバージョンアップをしておく必要があります。

 株主資本等変動計算書の作成がもっとも大きな変更ですが、それ以外にも貸借対照表や損益計算書の正しい表示ができるようにしておかなければなりません。

 また、個別注記表や事業報告などは、どのように作るのか、フォームや文例などはどうするかなど、事前に準備をしておきましょう。


(2)中小企業の会計に関する指針

 日本税理士会連合会など4団体により、中小企業の会計に関する指針が出されています。これは、日本税理士会連合会などのホームページからダウンロードすることができますので、ダウンロードすることをお奨めします。

 この指針は、新会社法で新たにできた会計参与が、決算書作成にあたって準拠すべき指針です。

 ただし、それにとどまらず会社が自主的にこの指針に沿って会計を行なっていくことが求められています。前述の個別注記表などでも、この指針に沿って会計処理をしている旨を注記すれば、その会社の決算書の信頼度は抜群に高まるはずです。今までよりも厳しい会計処理も入っていますが、ぜひチャレンジして欲しいと思います。

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 以上、新会社法にもとづく決算書の注意点などを見てみました。ただ、新会社法では決算書だけではなく、さまざまな規定が変わったり新設されたりしています。なかなかまとめて勉強するのは大変ですが、機会がある都度、少しずつでも勉強されていくことが大事です。

 ぜひ、経理担当者のみなさんも興味を持って新会社法を勉強してみてください。

〔月刊 経理WOMAN〕