「人材投資促進税制」の上手な使い方・活かし方
   
作成日:04/26/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


利益が減らずに経費もかからない節税策があった!
「人材投資促進税制」の上手な使い方・活かし方




 平成17年度税制改正の中で、もっとも注目されている「人材投資促進税制」。中小企業でも社員教育に力を入れることが節税につながるというもので、その内容に興味がある人も少なくないようです。

 そこでここでは、「人材投資促進税制」の活用法や注意点を分かりやすく解説します。

 平成17年度税制改正は、ここ数年でも比較的大きな変更のないものとなりました。

 その中で、現在もっとも注目されているのが「人材投資促進税制」ではないでしょうか。国の財政健全化のため増税路線にあるにもかかわらず、数少ない減税措置として創設されたものですから、注目が集まるのも当然のことといえるでしょう。

 そこでここでは、人材投資促進税制について、実務上の注意点を交えながら詳しく説明していきましょう。


■「人材投資促進税制」とは?

 実は、日本の企業が人材育成にかける費用は、諸外国に比べるとかなり少ないというのが現状で、研修費用の給与総額に占める割合は欧米の約半分、中国の約5分の1程度となっています。このままでは将来的に優秀な人材が不足し、日本の国際的な競争力が低下することが懸念されているのです。

 そこで、企業が人材育成を行なう環境を整えるために、税制面からもそれを支援していこうというのが、人材投資促進税制が創設された理由といえます。

 制度の内容を具体的に説明していきましょう。青色申告をしている法人が支出した、社員に対する教育訓練費の額が、過去2年間の教育訓練費の平均額を超える場合、当期の法人税から一定の税額控除が認められるようになりました。

 基本制度は、次のようになっています。



法人税控除額=(教育訓練費の額-過去2年間の教育訓練費の平均額)×25%

 しかし、資本金1億円以下の中小企業には次のような特例があり、基本制度と特例のどちらかを選択することが可能です。



(教育訓練費の額-過去2年間の教育訓練費の平均額)÷過去2年間の教育訓練費の平均額=教育訓練費増加割合
 ↓

1)

教育訓練費増加割合が40%以上
法人税控除額=当期の教育訓練費の額×20%

2)

教育訓練費増加割合が40%未満
法人税控除額=当期の教育訓練費の額×教育訓練費増加割合×1/2

 ただし基本制度、中小企業の特例のいずれの場合も、法人税額の10%が限度となっています。こうした仕組みについては、図を参照してください。

図 人材投資促進税制の仕組みと計算例


 また、この制度は平成17年4月1日以後に開始する事業年度について、3年間の時限措置として適用されるもので、中小企業の場合のみ、地方税(法人住民税の「法人税割」)にも適用があります(法人税額控除後の金額が法人住民税の課税標準となります)。

 ここで注意が必要なのは、新設法人の場合です。適用される事業年度からは設立事業年度が除かれていますので、新設法人は設立後2期目から適用されるということになります。

 先述のとおり、人材投資促進税制は支払った教育訓練費の額が損金に算入され、さらに一定の金額が法人税額から控除されるというものです。あくまでも税額控除ですから、赤字で法人税が発生しない企業にとってはとくにメリットはありませんが、黒字法人であれば大きな減税効果があります。今まであまり人材育成に力を入れてこなかった中小企業でも、人材投資促進税制の活用を視野に入れ、今後は積極的に研修を行なうことを検討するべきだといえるでしょう。


■対象になる教育訓練費と活用法

 人材投資促進税制の対象になるのは、企業が社員の職務に必要な技術や知識を習得させるため、または向上させるために支出する費用です。

 具体的には、次のような費用が対象となります。


1)

講師料
社外講師、指導員に支払う講師料、指導員料

2)

教材費
研修用の教材・プログラムなどの購入費用

3)

外部施設使用料
研修を行なうために使用する外部施設・設備の借上げ料、利用料

4)

研修参加費
業務上、必要と認められる研修に社員を参加させた場合の費用や、講座等の受講費用

5)

研修委託費
講師、教材等を含め、研修全体を外部に委託する場合の費用

 ただし、実際に利用する際に注意していただきたいのは、取締役、監査役、理事などのいわゆる「役員」に対する「経営者研修」などには適用されないということです。

 しかし、部長などの管理職者に対する「リーダーシップ研修」や「部下指導研修」などであれば、問題なく適用されるでしょう。もちろん、通常の社員に対する「営業力強化研修」、「パソコン研修」、「キャリアアップ研修」などや、新入社員に対する「新人研修」、「ビジネスマナー研修」などにも適用されます。

 なお、人材育成支援のために国や自治体から交付を受けた補助金や助成金がある場合には、その助成金等の金額を控除した残りの額が人材投資促進税制の対象となりますので、補助金等を受けた企業では教育訓練費を算出する際に注意が必要です。

 また人材投資促進税制は、その適用を受ける事業年度の確定申告書に税額控除を受ける金額の記載があり、さらにその金額の計算に関する明細書の添付がある場合に適用されます。ですから、研修の内容を明らかにした書類を用意する必要もあります。


■実務上の注意点は?

 前述のとおり、人材投資促進税制は「研修」という名が付いていればどういうものにでも適用されるわけではありません。そこで実務においては、対象となる研修を行なった事実や、研修の内容を証明する必要があるということになります。

 会社に外部の講師や指導員を呼んで研修を行なう場合の講師料や教材費など、また外部の教育機関などに研修をすべて委託する場合の費用であれば、その研修を行なった事実や内容を証明しやすいので、実務上問題となることはあまりないでしょう。

 しかし、研修のために社外の施設・設備を使用する場合の外部施設使用料などについては、表向きには「研修」と称して、社員の慰安旅行や懇親会を行なうことなどが考えられますので、内容のチェックが厳しくなる恐れがあります。そこで、このように外部の施設・設備を使用した研修を行なった場合には、その研修内容を明確にした文書を作成しておくことや、研修に参加した社員にレポートを作成してもらい、それらを保存しておくことをお勧めします。

 また、社員を外部の研修や講座に参加させる場合には、その研修が「会社の業務上必要である」ことが条件です。会社の業務に関係なく、社員の自己啓発などの目的で資格を取るための費用を会社が負担しているような場合には、その社員に対する給与と見なされ、課税されてしまいますので注意してください。

◇     ◇

 人材投資促進税制の活用は減税だけでなく、会社の成長につながる優秀な人材を育成できる効果もあります。

 とくに中小企業にとっては「人は宝」といえますので、減税目的で一時的に研修を行なうのではなく、自社の経営理念や今後の業務も考慮して、社員と会社の成長に役立つ研修を行なうようにしてみてはいかがでしょうか。

 みなさんからも、ぜひ社長に活用の提案をしてみてください。


〔月刊 経理WOMAN〕