急速に普及する「電子マネー」の最新事情
   
作成日:03/26/2007
提供元:月刊 経理WOMAN
  


Edy2400万枚、Suica1800万枚突破!
急速に普及する「電子マネー」の最新事情




 電子マネーの利用が急速に広がっています。ソニーやNTTドコモなどが出資する会社「ビットワレット」の電子マネー「Edy(エディ)」は、カード、携帯電話あわせて発行累計2400万枚以上。JR東日本の「Suica(スイカ)」は1800万枚を超えました。

 ともに、本格運用開始から5年ほどしか経っていません。この二つの代表的な電子マネーの成功をみて、クレジットカード会社、コンビニエンスストア、スーパーなどさまざまな業種から、電子マネーが発行されるようになりました。

 日本銀行によると、昨年3月の硬貨の流通高は前年同月比0・04%減。1971年1月の公表開始以来、初めてマイナスに転じたとのことです。電子マネーの普及で、消費者が小銭を使わない傾向が出てきたようです。


●普及の立役者は非接触型ICチップ

 電子マネーとは「金銭的な価値を持った電子的なデータ」のこと。大きく分けると、インターネット上で操作する「ネットワーク型」と、プラスチック製カードに搭載したICチップに金銭データを記録する「カード型」があります。

 ネットワーク型は、ネット上で、電子マネーの発行会社のサーバーに「財布」を設けることが必要です。その「財布」にIDやパスワードを使ってアクセスし、電子マネーをチャージして、ネットオークションの支払いなどをします。

 カード型は、ICチップが表面にむき出しになり、読み取り機に差し込んでデータを読み取る「接触型」と、ICチップが露出せず、読み取り機にかざすだけでデータが読める「非接触型」に分けられます。

 「接触型」はキャッシュカードやクレジットカードで使われている技術ですが、読み取りのスピードが遅く、使っているうちに汚れたり、摩耗したりします。1990年代に実証実験が繰り返されましたが、普及には至りませんでした。

 一方、「非接触型」は、ソニーが「FeliCa(フェリカ)」というICチップを開発したことで、大きく発達しました。

 非接触型ICチップのフェリカは、情報の処理スピードが格段に速く、決済が素早くできます。また、大容量のデータを管理することも可能です。「エディ」「スイカ」など、おもな電子マネーはフェリカを使っていますが、このフェリカこそ、電子マネー普及の立役者といえるでしょう。


●魅力は「お財布要らず」の利便性

 日本の電子マネーは、前払い式(プリペイド式)が主流です。あらかじめ店舗などの入金機に現金を投入したりして、カードや携帯電話にお金の情報を書き込みます。買い物するときは、レジなどにある読み取り機にかざすだけ。お店は、受け取ったお金の電子情報を電子マネーの発行者に渡し、引き替えに現金などをもらう仕組みになっています。

 似たものとしてクレジットカードがありますが、電子マネーと違うのは、後で口座からお金が引き落とされる後払い式であること。精算の際、署名などが必要なのも、電子マネーと違う点です。

 同様に似たものに、デビットカードがあります。これは、手持ちの銀行のキャッシュカードで即時決済するサービス。買い物時に専用端末にカードを差し込み、暗証番号を入力すれば、すぐに預金口座からお金が引き落とされます。これは、前払いである電子マネーと大きく違う点です。

 利用者からみた魅力は、「お財布要らず」の利便性でしょう。私の知人も、電子マネー付き携帯電話「おサイフケータイ」を愛用しています。彼が勤める会社が入った東京都品川区のビルでは、すべての飲食店や売店、自動販売機で、電子マネーが使えるようになっています。

 ある日、彼は、ビルの飲食店での昼食代(1000円)、自動販売機での飲料水の購入(3本計450円)、コンビニでのウエットティッシュなど日用品の購入(計1000円)の支払いをすべて、おサイフケータイで行ないました。

 「小銭を数えたり、クレジットカードのようにいちいち署名する手間がかからない。入金は月1回、1万円程度。財布を持ち歩く必要がないので、とても便利です」

 このように、電子マネーファンは、身の回りで少しずつ増えているのではないでしょうか。


●普及の牽引役・エディとスイカ

 電子マネーの普及の牽引役となってきたのは、2001年11月に本格スタートしたエディとスイカです。

 エディは今や、ファミリーレストラン、居酒屋、ファストフード店、コンビニエンスストア、ホテル、レンタカー、ガソリンスタンド、タクシー、自動販売機など、いろいろな生活シーンで使えるようになりました。

 いち早く全店への導入を打ち出したコンビニ大手「エーエム・ピーエム・ジャパン」(東京都千代田区)は、エディでどれだけ時間が短縮されるか実験しました。その結果、現金では1人当たり平均34秒かかっていたレジ精算が、エディだと26秒に短縮されることが分かりました。

 「精算業務が効率化し、その分、(さばける)お客様の数を増やすことになる。そうなれば、売上アップにつながるだろう」と広報担当者は話していました。

 さらに、エディの普及を加速させたのは、ドコモが2004年7月に発売した、エディ機能付き携帯電話「おサイフケータイ」です。コンビニなどで入金機の指定部分にかざして金額をチャージし、買い物するときは、レジで読み取り機にかざすだけ。携帯電話1台あれば、買い物ができる─。国民の多くが携帯電話を持つようになった今、その便利さが受け、電子マネーの認知度アップに貢献しました。現在、KDDI(au)やソフトバンクも、携帯電話にエディの機能を付けています。

 一方、JR東日本のスイカは初め、金額をチャージし、自動改札を通過する際運賃分だけ引かれるという、切符代わりの使い方しかできませんでした。しかし2004年春からは電子マネー機能が加わり、駅構内の売店などで買い物に使えるようになりました。

 コンビニ大手のファミリマートの東日本のお店を中心に使えるようになったり、2006年1月からは、携帯電話にスイカの機能を取り込んだ「モバイルSuica」が始まったりしましたが、スイカの使用が首都圏などに限られていることもあり、使える場所はエディに比べ、少ないのが現状です。


●次々に誕生する電子マネー

 エディとスイカの成功をみて、さまざまな電子マネーが登場するようになりました。

 「後払い式」の携帯電話型電子マネーを発売したのはクレジットカード各社です。JCBは2005年4月に「クイックペイ」を、UFJニコスは同8月、「スマートプラス」を、三井住友カードは同12月、「iD(アイディ)」を出しました。狙いは、高額決済に使用される傾向のあるクレジットカードでカバーされてこなかった、1000円単位の少額決済を取り込むことです。

 小売業界も積極的です。セブン&アイ・ホールディングスは今年春から、約1万店あるセブン-イレブン全店やグループ会社で、独自規格の前払い式電子マネー「nanaco(ナナコ)」を取り入れます。独自の電子マネー発行のメリットは、膨大な顧客情報の蓄積が可能になることです。また、これに対抗するように、大手スーパーのイオンも今春、独自の電子マネーを発行する方針です。

 ほかにも、今年3月、首都圏の地下鉄や私鉄、バス各社が発行したIC乗車券「PASMO(パスモ)」は電子マネー機能付き。日本たばこ協会が2008年以降導入する、自動販売機用の成人識別ICカード「taspo(タスポ)」も、電子マネー機能付きで、タバコ購入のみに使えます。今年から来年にかけて、本当に多くの電子マネーが誕生することが分かります。


●互換性や地方での利用─普及への課題

 乱立気味にもみえる電子マネーですが、今後どうなっていくのでしょうか。

 普及を進める上での課題の一つは、電子マネーの互換性のなさです。つまり、電子マネーは、ある端末機で読めても、別の端末機では読めないということです。利用者は、自分の電子マネーをどの店で使え、どの店で使えないのか分かりにくいため、普及のネックになってきました。

 しかし、この課題を克服しようと、業界は対策に乗り出しています。

 昨年9月、JR東日本、ドコモなどが、「スイカ」「エディ」「アイディ」「クイックペイ」の4規格に対応した端末機を開発したと発表。ローソンは11月、複数の電子マネーを使える端末機の導入を始め、「アイディ」「エディ」「スイカ」などに対応できるよう、対策を進めてきました。

 セブン-イレブン・ジャパンも、複数の電子マネーを読み取れる端末を一体化したPOS(販売時点情報管理)レジスターの導入を進めており、今年秋から「クイックペイ」などの利用が可能になる予定です。

 コンビニなどがこのような端末機の導入に積極的なのは、電子マネー利用の急拡大が見過ごせなくなっているからです。多くの電子マネーが登場している状況に、「一部の電子マネーしか使えないと、顧客を逃しかねない」という懸念が生じているのです。

 今後、コンビニ以外でもこういった取組みが進めば、利用者の使い勝手は良くなり、電子マネーの普及にも拍車がかかることでしょう。

 一方、「電子マネーが利用できるのは、ほとんど、東京や大阪などの大都市圏のみにとどまっている」(関連会社の関係者)のも大きな課題です。

 「地方では使えるところが少ない。(インフラ整備を)日本各地に行き渡らせない限り、本当に普及しているとはいえない」と、この関係者はいいます。

 電子マネーの種類は、今後もますます増えるかも知れません。しかし、読み取り端末機や、地方のインフラ未整備の問題からも分かるように、「真に普及するかどうかは、受け皿をどれだけ十分に整備できるかにかかっている」といえそうです。


〔月刊 経理WOMAN〕