「相続税・贈与税」で損をしないためのQ&A
   
作成日:07/31/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


生前贈与のうまいやり方から節税ノウハウまで
「相続税・贈与税」で損をしないためのQ&A




 平成15年度の税制改正では、贈与税軽減が図られ、相続税の税率も下がりました。新制度を使うかどうか選べることから、子供に財産を贈与する場合や、親から住宅取得の資金を援助してもらう場合など、どちらが得か迷うケースが少なくありません。

 そこで、税制改正の内容と合わせて、相続税・贈与税で損をしないための知識とノウハウをアドバイスします。



 今年の相続税・贈与税の改正は、大まかにいうと次のとおりです。

(1)「これまでは贈与なんて、お金持ちのためにある、他人事でしかなかった人にとっても、税金がかからずにどんどん使いやすくなった」というおトクな改正。

(2)「これまでもすごくお金持ちで相続税の負担が大変だった人には、税金が安くなった」というおトクな改正。

 この二つのうち、今年一番の目玉は、(1)の改正である「相続時精算課税制度」です。以下、これを「新制度」と呼びましょう。

 今までは、「相続税は人が亡くなったときに、その時点でのすべての財産を元にかかる税金」であり、「贈与税は、生きているうちに任意に財産の贈与をしたときに、その贈与財産を元にかかる税金」であるとして、原則として別々に計算をしてきました。

 ところが、新制度では、この生前の贈与税を相続税の前払いのように考えて、合計して精算しようということになったのです。

 年末調整と同じようなものと考えれば、分かりやすいと思います。つまり、毎月の給与から源泉徴収される所得税は、扶養家族の人数や支払った保険料などを加味して、1年分の所得を計算し直して年末に調整します。それと同じように、生前にもらった財産(毎月の給与)を、相続時(年末)に合計して再計算をし、相続税(確定した所得税)をかける。贈与税(源泉徴収した所得税)は前払い分なので、ここで精算するという考え方です。

 ただ、年末調整と違うのは、この制度は年齢等による条件に合う人しか使えないという点です。条件に合わない人と、条件に合っても使わない方が有利な人は、今までどおり贈与と相続は別々に税金を計算することになります。

 新制度は、原則として「満65歳以上の親から」「満20歳以上の子供が」財産を贈与される場合に利用できます。

 ただし、もらった資金で住宅を取得する場合に限り、親の年齢制限はなく、子が20歳以上であれば利用可能です。

 また、子が先に亡くなってしまっている場合には、その子、つまり孫に対しての贈与でもかまいませんが、その孫が満20歳以上でないと使うことができません。

 贈与を受ける子は、養子でもかまいませんし、人数の制限がないので、何人でも適用されます。



 この適用を受けるためには、贈与税の申告期限、つまりその贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに、贈与を受けた人が住んでいる住所を所轄する税務署に新制度を選択する届出書を提出しなければなりません。

 また、一度この届出書を提出すれば、それ以後その親からの贈与については、すべてこの制度の適用を受けることになります。新たに届出書を提出する必要はありませんが、いったんこれを選択してしまえば、あとでキャンセルができませんので注意が必要です。後日、新制度を使わない方がトクだったと分かっても、もう取り返しはつきません。

●贈与税額の計算方法

 新制度を選択すると、従来の贈与税の110万円という非課税枠より格段に大きい2500万円という非課税枠を利用できます。

 さらに住宅取得資金として贈与を受ける場合は、これに1000万円を上乗せした、なんと3500万円の非課税枠となります。

 また、これらの非課税枠を超えた分の税率も、一律20%でとてもおトクです。なお、新制度を使わない場合の贈与税率は、平成14年までは最高70%でしたが、こちらも今回の改正で50%に下がりました(表1参照)。

表1
贈与税額速算表(平成15年1月1日以降)
贈与額から110万円を引いた金額を下の区分にあてはめて、(1)の税率をかけ、(2)の控除額を引いたものが贈与税額となる。
課 税 価 格
(1)税率
(2)控除額
0円超
200万円以下
10%
0円
200万円超
300万円以下
15%
10万円
300万円超
400万円以下
20%
25万円
400万円超
600万円以下
30%
65万円
600万円超
1,000万円以下
40%
125万円
1,000万円超
―――
50%
225万円
【例】500万円の贈与の場合
500万円-110万円=390万円(1,000円未満切捨)→300万円超400万円以下の区分390万円×20%-25万円=53万円(100円未満切捨)

●将来の、相続税額の計算方法(表2参照)

表2
相続税額速算表(平成15年1月1日以降)
各法定相続人の取得金額
税率
控除額
0円超
1,000万円以下
10%
0円
1,000万円超
3,000万円以下
15%
50万円
3,000万円超
5,000万円以下
20%
200万円
5,000万円超
10,000万円以下
30%
700万円
10,000万円超
30,000万円以下
40%
1,700万円
30,000万円超
―――
50%
4,700万円

 贈与をした親が亡くなったときは、この制度を選択して贈与を受けた財産をすべていったん親の財産に戻して、相続税額を計算します。 すでに贈与のときに支払った贈与税額があれば、このように計算した相続税額から差し引いて、相続時に差額だけを納税すればすみますし、納め過ぎであれば差額を還付してもらうことができます。

●いつから使えるのか?

 「新制度」自体は、平成15年1月1日からの贈与について適用されます。

 したがって、この制度による初めての贈与税申告は平成16年2月2日(1日が日曜日のため)から3月15日となりますので、制度を選択するかどうかは、それまでじっくり検討しましょう。

 ただし、資金使途を住宅取得資金に限った3500万円までの非課税枠の適用は、平成15年1月1日から平成17年12月31日までの期間限定なので、それまでに贈与しないと使うことができません。

 新制度の大まかな内容は以上のとおりです。次に、具体的な疑問点をQ&Aで見ていきましょう。

Q1 新制度を使う方がよいのか、使わない方がよいかの目安はありますか?

 新制度を使う方が明らかに有利になるのは、将来の相続のときに相続税がかからない場合です。現時点では、亡くなる人100人中95人が相続税はかかりませんので、大半の人が新制度を利用した方がおトクということになります。 ただし、相続税の非課税枠が縮小傾向にあると思われますので、今後の税制改正の内容によってはこの割合は変わってくるでしょう。

Q2 親から住宅資金を援助してもらうことになっていますが、いくらまでなら贈与税はかかりませんか?

 新制度の条件に合うのであれば、親1人につき3500万円までは贈与税がかかりません。両親からそれぞれ贈与を受ける場合は、7000万円まで非課税となります。

Q3 70歳になった親から25歳の私が、財産を3000万円贈与してもらうことになりました。税金はどのくらいかかりますか?

 住宅取得のための資金であれば、新制度を選択することによって贈与税はかかりません。住宅取得のためでなければ、2500万円を超えた部分500万円の20%、つまり100万円が贈与税額です。

 新制度を選択しないということであれば、従来どおり1220万円の贈与税額となります(住宅取得資金以外)。

Q4 マンション購入にあたって、夫婦共同名義で登記をすることにしました。何か問題はありますか?

 負担した額に見合う持分割合で登記しないと、差額に対して贈与税が課されるので注意が必要です。

 たとえば、5000万円のマンションを買うときに、奥さんの貯金500万円を頭金にして残りの4500万円をご主人名義で住宅ローンを組むとします。そして、マンションの登記は共同名義で50%ずつにした場合、奥さんは2500万円の不動産を手に入れたと考えられてしまいます。よって、頭金500万円を除いた2000万円に贈与税がかかることになりますのでご注意ください。

Q5 父が亡くなったため、保険金を受け取ることになりました。税金はかかるのでしょうか?

 相続財産としての生命保険金には、一定の非課税の枠があり、さらに相続税のかかる財産全体としても非課税の枠があるので、よほど多額の生命保険金を受け取らない限り、相続税がかかるケースは少ないでしょう。

 ただし、保険金は、誰が保険料を払っているかによって相続税以外に贈与税や所得税の対象となる場合がありますので、専門家に相談することをお勧めします。

Q6 専門家に相談しないで、実際に自分だけで贈与をすることは可能でしょうか?

 不動産を始めとして、ほとんどの財産には「いくらと評価するか」の判断が必要になります。素人判断や中途半端な知識だけでは大変危険ですので、必ず専門家に相談しましょう。 専門家の判断なく贈与できるのは現金です。また、公開している株式は一定の判断基準が明確ですから、慣れれば比較的簡単に贈与できます。

Q7 専門家とは、具体的に誰にどのように相談すればよいのでしょうか?

 もっともよいのは、税務署です。一般的な質問については、国税庁のホームページにQ&Aがたくさん載っていますし、具体的な内容であれば最寄りの税務署に問い合わせれば相談に乗ってくれます。実際に税務申告をすることになれば、税理士にお願いすることになると思いますが、原則として有料です。

 ただし、確定申告の季節などには無料相談会なども開催されていますので、詳しくは税務署や各地域の税理士会に問い合わせるとよいでしょう。


〔月刊 経理WOMAN〕