平成15年度「税制改正」早耳情報
   
作成日:11/25/2002
提供元:月刊 経理WOMAN
  


法人税率の引下げ、配偶者特別控除の廃止…
平成15年度「税制改正」の早耳情報

 平成15年度税制改正については、例年よりも数多くの情報が流れています。政府税制調査会は、平成14年6月、今後10年あるいは20年を視野に入れた税制の再構築のビジョンとして「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(以下「基本方針」とします)を取りまとめました。政府税調が中心となって各地で税に対する対話集会も開催されています。経済財政諮問会議でも税制の論議は積極的に行なわれています。また、各省庁・各種団体からの平成15年度税制改正要望も出揃ってきました。

 情報は山ほどあるものの、具体的にどのような税制が平成15年度に採用されるかといえば、それは現在議論の真っ最中であり、とんだピエロになりかねません。

 税制改正の具体策は、自民党税調・与党協議会の了解を経て、正式決定されます。例年12月中旬に決定されますが、最終決定まで予断を許さないものとなっています。昨年も連結納税制度の導入という平成14年度税制改正の目玉商品で、導入・見送り・遡及適用という大ドンデン返しが最終決定直前に行なわれました。

 さて、ピエロの言い訳はこの辺にして、予想屋になったつもりで15年度税制改正を占ってみましょう。



個人所得課税(国税:所得税、地方税:個人住民税)

配偶者特別控除 ○ 
特定扶養控除 ○ 
高齢者に関する各種控除 × 
給与所得控除 × 


<予想マークの見方>
○:改正(導入・廃止)必至
△:多分改正されるでしょう
▲:案は出ているが今年は見送り?
×:先送り濃厚

(1)概要

 基本方針には、「わが国の個人所得課税は、累次の減税の結果、主要国との比較において、税負担水準が極めて低く、基幹税として本来果たすべき財源調達や所得再分配などの機能を喪失しかねない状況にある」とあります。

 基本方針を受けて、平成15年度税制改正では、個人所得課税は基幹税としての機能の回復、すなわち増税項目が中心となって議論が進められています。

 方向性としては増税項目の目白押しですが、増税項目は導入の判断が難しく、政治決断の場で縮小・先送りの可能性が少なからずあるでしょう。

(2)個別項目

(イ)配偶者特別控除・特定扶養控除

 配偶者特別控除・特定扶養控除の見直しが俎上に上っています。配偶者特別控除・特定扶養控除については廃止を含めた見直しが必至で、配偶者特別控除の廃止に伴なう税引き後手取りの逆転現象(夫婦の合計所得額が増えても手取額は減ってしまうこと)への対応がどのようなものかといった点が注目されています。

(ロ)老年者控除・公的年金等控除

 基本方針には高齢者に関する控除の見直しが記載されていますが、老年者控除・公的年金等控除の見直しについて、コンセンサスが得られる段階まで議論が進んでいないようです。平成15年度は継続案件(先送り)といったところではないでしょうか。

(ハ)給与所得控除

 給与所得控除(概算控除)の縮減方向での見直し・特定支出控除制度(実額控除)の拡大は、所得税における大きな課題の一つです。大衆課税となるだけに、政治判断が避けられません。平成15年度改正で抜本的な改正が行なわれる可能性は少なそうです。

法人課税(国税:法人税、地方税:法人住民税・法人事業税)

基本税率の引下げ ▲ 
研究開発税制 ○ 
投資促進税制 ○ 
連結付加税の廃止 △ 
産業再生・新規事業関連 ○ 
留保金課税の廃止 △ 
外形標準課税 ▲ 


(1)概要

 法人課税については、財務大臣が減税規模(2・5兆円)の6割(1・5兆円)を充てることを言明しており、規模的にも項目的にも15年度税制改正の中心となります。

 注目すべきは、法人税率の引下げが盛り込まれるかという点です。法人税率の引下げが行なわれる場合には、減税規模自体が大きなものとなります。

 法人課税の重要論点として法人事業税への外形標準課税の導入があります。外形標準課税の導入は、この数年結論が先送りされ、首相も外形標準課税導入の検討を指示したと伝えられています。総務省は、経済界等の見直し要望に応えて、持ち株会社への課税見直し案を作成し、平成15年度導入に万全を期しています。

(2)個別項目

(イ)基本税率の引下げ

 法人税の基本税率の引下げについては、経済財政諮問会議の民間議員からの引下げ論(3%~5%)と財務省の政策減税優先論が真っ向から対立しています。現段階での方針は、政策減税優先論が優勢といったところですが、金融不安・デフレ対応策として、法人税の基本税率の引下げが盛り込まれる可能性もあります。

(ロ)研究開発税制・投資促進税制

 政策減税は、研究開発税制と投資促進税制を中心に行なわれることになります。具体的な内容は今のところ詰めきれていないようです。
 研究開発税制では、現行の試験研究費税制を拡充し、試験研究費総額の一定割合(最高10%)の税額控除制度を創設する案を軸に検討されています。
 投資促進減税では、ソフトウェアを含めたIT投資に関し、投資額の10%の税額控除と取得資産の即時償却制度の選択適用を認める制度を創設する案を軸に検討されています。
 一律な税額控除に加え、さらに投資促進的な税制導入も検討されています。

(ハ)連結付加税の廃止

 平成14年度から連結納税制度を導入する場合には、法人税率に加えて連結付加税(2%)が課されることになっていますが、平成15年度改正では連結付加税が廃止されそうです。
 連結付加税は2年間の措置として導入された経過から、1年間での廃止に異論もあるようですが、廃止が濃厚と思われます。連結付加税の廃止により、平成15年度から連結納税制度の導入を検討する法人(グループ)が増えそうです。

(ニ)産業再生・新規事業関連

 法人課税関係では、産業活力再生特別措置法関連と新事業創出に関する事業者及び投資家(エンジェル)への優遇措置が拡充されていくことになると思われます。

(ホ)留保金課税

 留保金課税制度についても、廃止要望が多いことから、昨年度導入された縮減率(現行5%)の引上げが検討されるのではないでしょうか。

(ヘ)外形標準課税の導入

 法人事業税への外形標準課税の導入の議論は煮詰まっています。外形標準課税は、中小企業への影響が大きいことから、導入が盛り込まれる場合でも導入年度の延期等の妥協案が模索されるのではないでしょうか。外形標準課税の導入は消費税の「益税」解消問題と合わせ、中小企業の経営を圧迫することから、政治判断で導入決着が先送りされる可能性が大きいものと思われます。
 外形標準課税における資本規模に対する課税では、持ち株会社・親子会社などで、複数段階での課税が行なわれる問題点が指摘されています。総務省は、持ち株会社への課税見直し案を提示しましたが、外形標準課税が導入される場合にはさらなる修正案の提示も予想されます。

消費税

事業者免税点制度の改廃 ○ 
簡易課税制度 ○ 


(1)概要

 基本方針では、「今後、少子・高齢化、グローバル化の一層の進展に伴なって、消費税の役割がますます重要となっていく中で、制度の信頼感を高めるとともに、その税率水準の見直しを図ることが大きな課題となっている」と指摘しています。将来の税率引上げを見据えて、信頼性・透明性の確保が課題となっています。

 具体的には、中小事業者に対する特例措置(事業者免税点制度・簡易課税制度)がいわゆる「益税」要因として、改革の対象に挙げられています。

(2)個別項目

(イ)事業者免税点制度

 事業者免税点制度は、法人事業者については全廃、個人事業者については課税売上高1000万円以下を免税とする案が軸となって議論が進められることになります。しかし、中小企業者への影響も大きく、増税項目であるだけに政治的には大変困難な議論が予想されます。見直し案では、事業者免税点の水準・導入時期の両面で妥協点を模索することも考えられます。

(ロ)簡易課税制度

 簡易課税制度も全廃を軸に議論が進められています。免税点制度と同様に政治的に困難な議論が予想されるため、見直し案には妥協案の導入も考えられます。

相続税・贈与税

最高税率の引下げ ○ 
基礎控除額の引下げ △ 
相続時精算課税制度の創設 ○ 


(1)概要

 基本方針では、相続・贈与税について、「広く薄く」の観点での検討と、「相続税・贈与税の一体化」の検討を求めています。

(2)個別項目

(イ)最高税率・基礎控除額の引下げ

 相続税の最高税率(現行70%)の引下げはこの数年の税制改正議論で取り上げられてきましたが、「金持ち優遇」「対象者がごく少数」といった批判でうやむやにされてきた経緯があります。今回「広く薄く」の基本方針が取りまとめられたことで、最高税率の引下げは実現する可能性が高くなってきました。基礎控除の引下げ(課税ベース)とセットで改正する方向で議論が進められています。

(ロ)「相続時精算課税制度」(仮称)の創設

 「相続税・贈与税の一体化」については、具体策が検討されています。生前贈与を推進することが若い世代の消費・投資を活発化させるという経済活性化の視点にも合致した対策になると考えられています。
 検討されている「相続時精算課税制度」(仮称)は、原則65才以上の親が20才以上の子に生前贈与を行なう場合に適用されます。
 この制度を使って生前贈与を行なう場合には、贈与税を支払わなくても贈与を受けられる財産の額(非課税枠)を総額1000万円前後(現行110万円)にして贈与税を算定(税率も現行贈与税より優遇)・納付し、実際の相続段階で贈与財産・納付した贈与税を相続税の計算に取り込んで精算(相続税額から納付した贈与税額を差し引く)します。非課税枠は、限度額に達するまで複数年にわたって適用することが可能です。
 この制度は、平成15年度改正に盛り込まれる予定になっています。また、住宅投資を促進させるため、住宅取得資金贈与の特例を拡充する案も検討されています。

土地・住宅税制

不動産流通税の軽減 ○ 
不動産保有税の抜本的改革 × 
商業地固定資産税の軽減 △ 
土地譲渡益課税の軽減 △ 


(1)概要

 土地・住宅税制には、1)取得・流通段階で課税が行なわれるもの、2)保有に対して課税が行なわれるもの、3)譲渡に際して課税が行なわれるものの3種類があります。また、取得・流通課税や保有課税には、地方税の独自財源となっているものが多く見受けられます。

 土地税制は、バブル期の対応として課税強化された部分は、すでに廃止される等それ以前の水準まで戻っているとされていますが、地価に下げ止まり感はなく、デフレ対策の意味合いで税制論議が行なわれています。地価の下落抑制対策は、土地本位制とも揶揄されるわが国の経済・金融システムでは、経済活性化のために最初に手をつけなければならない問題かもしれません。

(2)個別項目

(イ)不動産流通・取得税

 登録免許税や不動産取得税など土地の購入に係る流通課税の検討が進められています。登録免許税や不動産取得税は、課税標準となる固定資産税評価額の一気の引上げとその後の地価の下落といった状況に伴ない、課税標準の特例を定めて負担を軽減してきましたが、「他の資産に比べ課税が非常に重い」などの批判に応えるため、土地取引の活発化を目指してさらなる税負担の軽減を検討することにしています。
 登録免許税については、税率の引下げで負担を半減する案が有力です。

(ロ)不動産保有税(固定資産税)

 保有税の代表格である固定資産税は、市町村税の基幹税となっています。代替財源の目途が立たない段階で、容易に税負担を引き下げることは難しい状況です。しかし、小規模住宅地の特例がある住宅地に比べて商業地の固定資産税負担が大きいことから、商業地に的を絞った軽減措置が要望事項になっています。
 特別土地保有税の廃止・縮小も検討対象になっています。

(ハ)不動産譲渡税

 個人が長期保有する土地の譲渡益課税の税率が26%(国20%・地方6%)となっています。株式の譲渡益課税が平成15年1月に26%から20%に引き下げられることから、土地の譲渡益課税の税率を20%に引き下げる案が有望になっています。

金融・証券税制

特定口座制度の見直し ○ 
株式配当課税を一律20%に ○ 
株式譲渡益の非課税化 × 
株式譲渡益に源泉分離課税 × 


(1)概要

 証券税制は、株式譲渡益に対して平成15年1月から申告分離課税に一本化することになっています。これに合わせて特定口座制度を創設したり、譲渡益に対する税率を引き下げたりします。

 平成15年度税制改正では、特定口座制度の運用改善のほか、株式配当課税を20%の源泉徴収に統一するなど、簡素化・活性化策が打ち出されています。株式相場が冷え込むたびに、譲渡益の非課税化あるいは、源泉分離課税への復帰論が出ますが、採用される可能性はほとんどないといってよいでしょう。

(2)個別項目

(イ)特定口座制度の見直し

 平成14年中から、特定口座制度の見直しが行なわれることになります。具体的には、特定口座への移管期間を今年末から来年(平成15年末)まで1年間延長します。また平成4年末以前取得株式は、特定口座に移す際にみなし取得価額によるものとされていましたが、実際の取得価額による移管が可能になります。
 このほか、特定口座での源泉徴収税額の納付を年1回とし、還付申告を行なわなくてよいようにするなど、特定口座制度の運用改善を行なうことになります。

(ロ)株式の配当課税の一律化

 株式の配当課税の税率を一律20%とし、申告不要の源泉徴収に統一することになります。株式譲渡損益の合算対象に、株式投資信託(現行制度ではETF(株価指数連動型投信)に限定)を加え、損益通算の対象を広げて、制度の効果的な利用を図れるようにします。

その他

 減税財源を確保するため、たばこ税と発泡酒にかかる酒税の増税が検討されています。

 いかがでしたか? 現在議論が進んでいる平成15年度の税制改正について解説してきましたが、前述のとおり現在はまだ「早耳情報」という段階です。今後の動向に注目しましょう。

〔月刊 経理WOMAN〕