「月次決算」を3日でつくる法
   
作成日:10/20/2009
提供元:月刊 経理WOMAN
  


これなら社長もイライラしない?!
遅れがちな「月次決算」を3日でつくる法伝授します




 経営環境が厳しいときほど、経営者はできるだけ早く毎月の実績を知りたいと思っているものです。しかし、実際には月次決算が1ヵ月後になって上がってきたという話も珍しくありません。

 月次決算は迅速な経営判断のために必要なもの。あまり遅くなっては意味がありません。ではどうすれば月次決算を速くつくることができるのでしょう。そのポイントを伝授します。

◆月次決算はなぜ必要?

 私たちは毎日自分の身体を管理するために体重計に乗り、万歩計をつけてウォーキングを行ない、時には血圧や血糖値を測ります。

 会社も決算を行なっていますが、年1回の決算では現在の会社の体調がどうなのかということが分かりません。実際儲かっているのか分からない状況では、社長さんも経営の舵取りは難しいでしょう。

 毎月の業績を把握して、経営判断に役立つ情報を提供すること。そのために毎月行なわれる正しい業績の把握と「資産と負債の棚卸し」が、月次決算なのです。

 もちろん毎月の試算表の積重ねが決算の数値と一致することが理想なのですが、思わぬ誤りが判明して決算修正が入り、利益が異なってしまうことはよくあります。月次の段階から正しい処理をしておけば、決算修正前と決算修正後の誤差をできるだけ少なく押さえることができ、社長さんも自社の経理に対する信頼感が持てることになります。

 月次決算の大切さを簡単な例で説明しましょう。

 期首に中古で1200万円の機械を購入したとします。耐用年数を全部経過していた場合、税法上の耐用年数は2年となり、定率法であれば当期に1200万円全額減価償却費を計上することができます。この機械購入について、月次処理せず決算まで放っておくとどうなるでしょう。


 決算直前に当期純利益が1000万円だった場合、誰もが黒字決算だと考えます。しかし決算修正で中古機械の減価償却費1200万円を計上すると、突然赤字決算となり、社長は大あわてし、経理担当者は冷や汗をかくことになります。



 毎月の処理を「その場主義」で完了させて、毎月の試算表を12枚並べれば、決算数値に近くなることが大切です。


◆月次決算作成のポイント

 では、なぜ月次決算が遅くなるのでしょうか。その理由としては、必要なデータや資料、数値が経理担当者へ集まってこない等の人為的・組織的な原因がまず一番に考えられます。売上データ、在庫データがなかなか経理にまわってこない場合や、経費精算の提出が遅れるケースです。

 担当者が月次決算作業に集中できないという仕事環境の問題もあります。常に周囲から声をかけられ、簡単なお願いごとにすぐ対応していたり、雑談に巻き込まれて仕事に集中できない姿は、どこのオフィスでも見られる光景です。

 比較的ベテランの経理担当者は、社員から税金に関しての質問を受けるケースも多く、余計に「集中タイム」がなくなってしまいます。

 こうした時間管理の方法も含めて、月次決算をスピーディに作成するポイントを、以下に紹介していきましょう。そのポイントは次の八つです。

1)経費精算はまとめて20日までに行なう

 経理にとって一番やっかいなのは、現金の取扱いです。1円単位まで間違えることができない経費精算を毎日のように行なっていたら、それだけで社員が1人必要です。経費精算は1ヵ月分まとめて20日締めで精算するようにします。月末締めでは月初めがあわただしく、とても3日までに月次決算終了どころではなくなってしまいます。

 比較的多額な出張旅費なども仮払い分を20日までに精算してもらえれば、処理は一度で済みます。また経費精算は全社でフォーマットを決めて、メール添付で提出か、LAN上のフォルダを決めて、そこに保存しておく方法に切り替えましょう。

2)減価償却費は月ごとに処理をする

 前述した通り、減価償却費は決算数値にかなりの影響を及ぼします。まずは当期の減価償却費の見込額を12等分した金額を、毎月必ず計上しましょう。これは1000円未満を切り捨てた程度の、大体の金額で大丈夫です。




 期中で購入がわかったらすぐに固定資産台帳に入力して、毎月の償却費も増額させます。購入があった場合には、金額、名称、耐用年数の判断がつく資料が即日、経理に届くよう社内コミュニケーションの流れを整備しましょう。

 最近はリース取引も売買取引とする経理処理が求められていますので、リース契約がなされた場合にも、資料が集まるようにしておくことが必要です。上司や社長に相談して、全社に浸透するようお願いしてみましょう。

3)3日間だけ“いい人”をやめて集中タイムを

 給与計算などの締切がある仕事については、みなさん業務に集中して仕事を完了させるでしょう。給料日に間に合わないと大変だという実感があるからです。

 月次決算も同じ考えで臨みましょう。月初めの1日から3日の期間は月次決算の集中日と決めて、余計な仕事が入らないように社内にアナウンスしておきます。他愛のないおしゃべりや質問、メール、FAX等への対応などのプチ無駄時間は、あっという間に1日を終わらせてしまいます。まずは「いい人」をやめましょう。

 この3日間は「私に話しかけないで」オーラを存分に発します。メールチェックも朝夕2回だけにするなど、すべきことを極力減らします。会社の命令として「月次決算」を作成するということであれば、周囲の協力はぜひとも必要です。

 週末の飲み会のお話やちょっとしたお願いメールには目もくれず、経理課としての「月次決算集中日」、「月次決算集中タイム」を作ることです。2時間は集中して仕事をする「MAX2(マックス・ツー)タイム」を社内で決めて、ルール化することもおすすめです。

 午前10時から2時間、午後1時半から2時間など時間を区切って集中タイムとします。その間はおしゃべりはもちろん「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」もなし。前後の時間で準備しておきます。やってみると、とても仕事がはかどります。

4)経営者が知りたいのは上2ケタの数値

 経営者が速報値として知りたいのは、「今月の売上高は4500万円程度、経常利益は100万円ちょっと」という具合に、上から2ケタの数字です。単月で、黒字か赤字かだけをまずは知りたいという経営者もいます。おおまかな数値だけで、経営者にとっては十分な情報なのです。

 後になってじつは売上が30万円増えましたという報告があってもかまいません。月次決算の上でケタの小さい金額は、多少修正があっても問題になることはないからです。1円単位までピッタリの試算表ができるまでは、月次試算表が完成しないと考えている人は、この際頭を切り替えましょう。荒削りの数値でも、経営判断の上では役に立つ情報です。正確性よりも「スピードを重視」しましょう。訂正があれば、後で修正すればよいのです。

5)「こんな資料いらない会議」を開催する

 会社によって、長年作成されているさまざまな2次的資料があります。その中には、本当に活用されているのか疑わしいものも多々あります。

 一度経理課全員の業務を洗い出して、みなで作成している資料の必要性を検討する会議を行ないましょう。二重に作成していたり、わざわざ作成する必要がないものであったりすることはよくあります。

 作成業務が減るということは、仕事量が減るということですから、全員にとって良いことです。「ゼロベース」から見直す気持ちで真剣に検討しましょう。

6)仕事はたまれば増えていく

 放っておくと仕事はたまります。たまった仕事は時間がたてばたつほど増殖して、処理に時間がかかるものです。精神衛生上も良くありません。仕事をまとめて行なう習慣は改めましょう。

 月次決算の一番の要(かなめ)は、日々の仕訳入力です。仕訳入力は毎日行ないましょう。毎日25分行なうと20日間で8時間以上の時間となります。丸1日の勤務時間を、仕訳だけに専念できる日などありません。毎日の積重ねはとても大切です。

7)月末が土日の場合には

 月の末日が土日の場合、月末に銀行から引き落とされるべき金額が、翌月初めの引落しになってしまうということがあります。社会保険料の引落しや予定納税、地代家賃の引落しなどが銀行翌営業日になってしまい、翌月の仕訳になってしまう場合です。

 これらの金額はまとまると大きなもので、月次決算書の上で正しい損益が表示されません。今月は費用計上が少なくなり黒字だけれども、翌月はこれらの支払いが2ヵ月分計上されて赤字になってしまうということも起こります。

 こうした取引は、未払金勘定に新たに補助科目を作成して仕訳をしましょう。そして翌月初めに取引があったときに、未払金勘定を消去する仕訳をします。月末が銀行営業日であるかどうかは事前に分かるわけですから、あらかじめ仕訳を入力してしまうことです。
 社会保険料などの法定福利費は、支払総額を未払金として計上するのではなく、給与天引きした預り金部分も相殺消去して、正しい金額が費用処理されるようにします。

8)普段から知識を得てミスを少なくしよう

 税抜き経理を行なっていて消費税の予定納税支払いを「租税公課」で処理すると、月次損益は誤って表示されてしまいます。正しくは「仮払消費税」勘定で処理します。このケースは「租税公課」勘定のチェックを行なわないとなかなか判明しないミスで、決算時に利益が変わってしまうため、注意が必要です。

 年に数回しか登場しない仕訳は普段からよく勉強をし、上司や同僚に確認をして、ミスをゼロにすることが仕事のスピードを上げます。仕事の悩みの半分以上は情報さえあれば、知ってさえいれば、簡単に解決することがあります。「経理ウーマン」を熟読して、しっかりした知識を日頃から蓄えておきましょう。

◇     ◇

 月次決算は単月の試算表のほか、時系列で並べて報告することが大事です。会社の業績は業種・業態ごとに、季節によって一定の変化をします。これを「季節変動」と呼びますが、前年と比べてどうなのかという数字は、経営者にとって重要な情報です。また前年データを利用して販売計画や利益計画も立てやすくなり、管理会計への橋渡しもできることになります。

 正しい月次決算作成は、決算時のスピードを速めることにもつながり、大変意味のあることなのです。

 この記事を読んだ方は、ぜひ来月から、月初めの3日までに月次決算書が報告できるようがんばってみて下さい。


〔月刊 経理WOMAN〕