「成果主義」を導入するときの賢いやり方教えます
   
作成日:04/25/2007
提供元:月刊 経理WOMAN
  


闇雲に採り入れては社員の反発を招くだけ
「成果主義」を導入するときの賢いやり方教えます




 年功賃金の弊害が指摘され、本人の実績に応じて給与を決める「成果主義」を導入する企業が増えています。しかし、闇雲に採り入れては社員の反発を招くだけです。また、そもそも成果を計りにくい仕事もあるはず。

 そこでここでは、「成果主義」を導入するときの賢い考え方・やり方をアドバイスします。

■大切なのは「成果」の定義

 会社にとってもっとも重要な経営資源である「人」を活用するために行なう、人材育成や能力開発などのさまざまな管理活動を「人事管理」といい、この人事管理を行なう運営の仕組みを「人事制度」といいます。

 この人事制度は、経営理念や事業戦略を達成するために必要不可欠なもので、その際の基準として「仕事の成果」を重視するのが成果主義です。

 年功主義からの脱却を狙う会社も、能力よりも仕事の成果を中心にしようという会社も、人事制度改革というと、どうしても賃金制度に目が行き、昇給額や世間相場など、金額を決めることばかりに時間を費やしてしまいがちです。しかし、人事制度改革は賃金額を変えることと捉えてはなりません。社員を最大限に活かすために、どんな人事制度を構築すれば良いかを考えること。それが人事制度改革の第一歩なのです。

 人事制度を構築するためには、何を重視するかがポイントになります。

 たとえば、1)年齢や経験年数、2)担当する職務、3)職務遂行能力、4)プロセス(行動)、5)結果などがこれにあたります。

 「成果主義」とは、これらのうち、5)「結果」に着目する考え方と、5)結果に加えて、4)「プロセス(行動)」にも着目する考え方の二つがあります。つまり、「成果=結果」と「成果=行動+結果」と考える場合があるのです。

 それでは、結果のみの成果主義とプロセスも併せる成果主義では、どちらが良いでしょうか。これは、成果主義を採用する会社が、自社にとっての成果をどのように定義するかによって違ってきます。

 結果のみを重視するのであれば、「成果主義=結果主義」になりますし、たとえ結果が芳しくなくてもそこに至るプロセス(行動)が優れていれば高く評価するというのであれば、「成果主義=結果主義+行動主義」ということになります。

 つまり、成果主義を導入するためには、「何を成果と定義するのか」ということが非常に重要なことであり、どのような成果を評価の対象とするのか、成果を分かりやすく納得性の高い評価方法で計るにはどうすれば良いか、どの評価結果を賃金・賞与・昇給などに反映させていくのか、といった仕組みを構築することが大きなポイントとなるのです。


■成果主義=人件費抑制?

 ところで、成果主義が登場してきた背景には何があるのでしょうか。

 1991年以降、日本の景気が急速に悪化したために、企業の経営は大変苦しい状況に陥りました。これを原因にして、従来の終身雇用や年功序列といった雇用慣行が崩壊してしまったのです。そこで、新たな人事制度が求められたことによって、登場したのが「成果主義」です。

 成果主義は、人件費を増やすことができない状況にあっても、社員の能力を引き出すことができる〈魔法の制度〉として、各企業で導入が進められました。ところが、実際導入してみると評判はあまり芳しくありませんでした。

 というのも、社員が成果を実現したことに対して報いるのが成果主義ですが、当時は成果の実現が困難な環境にあったために、結果的には人件費の削減策となり、社員からも「成果主義=人件費抑制の手段」として受けとめられてしまったからです。また、中にははじめから、成果主義を人件費の削減として捉え、単なる賃金カットの手法として導入した会社もあったようです。

 成果主義は、社員の意識を無視して経営者の意識のみで進めた場合、確かに短期的な効果はあるかも知れませんが、長期的には必ず社員のモラールの低下につながります。成果主義の導入には、社員の納得が欠かせない条件なのです。

 成果主義は、今までの賃金制度と比較すると、評価によって賃金が大きく影響を受けます。そのため、社員の評価に対する不安が、場合によっては大きな不満へとつながります。さらにいえば、この不満の原因は「成果主義だから」ということではない場合が多く、じつはどんな人事制度にもつきまとう問題であることが多いのです。

 その最大の原因とは、「評価された結果が社員にフィードバックされないこと」と「上司と部下のコミュニケーションの不足」です。つまり、社員自身の自己評価と上司の評価に差異が生じたときに、納得できる理由を明らかにして説明をして欲しいということなのです。成績の良否だけを評価するのではなく、やはり、行動やプロセスについての努力の度合いも認めて欲しいというのが社員の考え方です。

 これらを解決するためには、目的に合った成果の定義付けや透明度の高い評価システムを構築することはもちろんですが、評価者に対する教育や訓練を忘れてはなりません。

 成果主義の最大の問題点は、短期的で安易な目標と成果を求めてしまうところにあります。この結果、本来の成果主義の狙いである「チャレンジ精神」がなくなってしまうことになり、成果主義を導入する意味さえ失われてしまうケースが多いのです。

 この他、成果主義が陥りやすい問題点には、次のようなものもあります。


1)

目先の成果のみに関心と努力が集中する結果、短期志向になること

2)

成果が出にくい中長期的な改革や困難な課題に取り組まなくなること

3)

安易な目標になりやすく、個人ごとに難易度の格差が大きい目標になること

4)

自己の成果への達成に執着するため非協力的になること

 また、成果主義を強めることによって、将来への生活不安からのうつ病など「心の病」を抱える社員も増えています。その意味では、メンタルヘルス・ケアも十分に行なわなければなりません。


■成果主義にはこう取り組もう!

 では、先のようなことを踏まえて、成果主義にどう取り組んでいけば良いのでしょうか。実際に成果主義として比較的多く行なわれている取組みには、次のようなものがあります。

1)評価結果を賃金に結び付け格差を大きくする

 世間水準とのバランスを取りながら、成果に応じた賃金をいくらにするかという仕組みを策定します。

 たとえば、今までの賃金額を考慮せずに評価の対象期間のみの成果を見て0をスタートにして賃金を決定する方法や、いくつかの役割や職種に応じた等級を作って等級ごとに賃金額の幅を決める方法などがあります。また、昇給や降給の金額を高くしたり低くしたりすることによって、スピードに変化をつけることもあります。

2)年功的な昇給システムを廃止または縮小する

 年齢や勤続など、年数によって自動的に昇給する年功的な昇給システムを廃止または縮小します。

 ただし、通常の生活が営めるだけの賃金がなければ、社員は安心して働くことができません。とくに新制度を導入する段階では、成果主義であっても、年齢によって高くなる生活費の保障や勤続経験によって習熟する能力の評価に対する賃金を考慮するケースが少なくありません。

3)属人的な手当を整理し見直す

 家族手当や住宅手当などの各種手当は、基本給ではカバーできない部分について、それを補助するものとして支給されます。しかし、成果に応じて賃金が支給されるのであれば、若年層や勤続が短い社員であっても、年功的な要件によって賃金が低額となる訳ではないため、属人的な手当による補助は必要なくなります。

 しかし、日本人の文化的な意識からみると、家族手当や住宅手当の考え方は、非常にフィットしていて、経営者にも社員にも根強く支持されています。もしも、属人的な手当を残すということであれば、成果主義によってもたらされる格差を大きく乱さないように整理する必要があります。

 また、属人的な手当を廃止または縮小したとしても、その分の人件費は成果によって支給される部分に再配分するなどの工夫が必要です。

4)業績連動型・成果反映型の賞与を採用する

 中長期的な成果は、主として毎月の賃金の決定要素にします。しかし、1年以内の短期的な成果は、賞与に反映させることがふさわしいでしょう。

 国際的にも国内的にも競争が激化し、経営がスピード化する中で、経営環境の変化が会社の業績に大きな影響を与えるケースが増えています。そのとき、人件費が柔軟にコントロールできる仕組みは、会社にとって非常にメリットが大きいといえます。

 そこで大切になるのが、社員の個人成果だけでなく、会社の業績や部門の成果も連動させる賞与の仕組みです。会社の業績が好調であった場合は賞与の原資を大きくして、できるだけ社員に還元するといった総額管理による仕組みづくりが必要です。

 ただし、この場合も、いたずらに業績のみを強調することなく、成果が何であるかをしっかりと定義付け、社員のモチベーションの向上を図るための仕組みづくりであることを忘れてはなりません。


■大切なのはプロセスの評価

 成果主義=結果主義の場合、売上目標に対して120%の達成率であった社員は評価されますが、90%では評価されません。しかし、達成率は90%であっても、新規獲得件数が多く総件数が10%アップしていたり、素晴らしい企画提案があったりした場合も評価すべきことに変わりないのではないでしょうか。

 その意味では、やはり結果だけでなく、プロセス(行動)も評価すべきだということになります。

 経営者の多くは、結果がすべてではないといいます。やはり、どれだけ努力をしたかということが重要だからです。しかし、努力することは重要ですが、問題は努力の中身です。

 努力とは一生懸命がんばることに違いありませんが、精神論的な努力だけを評価の対象とすることはできません。努力の中身を具体的な行動に置き換えることが成果の基準になると考えられます。

 また、経営者は成果主義導入の当事者として、マネジメントのあり方について考え直さなければなりません。目標を明らかにした上で、成果を出すためには何をすべきか、どのような行動を取るべきか、といった達成のためのプロセスを示すべきです。経営者はもちろん、管理職の強力なリーダーシップと達成のためのマネジメントが求められます。

 成果主義とは、成果が公正に評価され、積極的に人材を育成し有効に活用されることであり、決して結果によって賃金に差をつけることではないことを忘れるべきではないでしょう。


〔月刊 経理WOMAN〕