分かりやすい「中小企業の会計に関する指針」Q&A
   
作成日:01/20/2009
提供元:月刊 経理WOMAN
  


どうしてつくられたの? 何が書かれているの?
どこよりも分かりやすい「中小企業の会計に関する指針」Q&A





 「中小企業の会計に関する指針」は日本税理士会連合会や日本公認会計士協会、日本商工会議所等が、中小企業が計算書類を作成するに当たって準拠したほうが望ましい会計処理などを示したものです。ではなぜこうした指針が作成されたのでしょう。またそこには何が書かれているのでしょう。ここでは、「中小企業の会計に関する指針」に関する疑問についてQ&Aでわかりやすく解説します。



「中小企業の会計に関する指針」とはどういうものですか?

 簿記などを勉強したことがある方は、次のように感じたり体験をしたことはありませんか。

「勉強したことと実務は違う」
「会社ごとに経理の方法が違う」

 会計処理の方法や、仕訳の勘定科目など、いったいどのような基準で実務は行なわれているのでしょうか?

 会社法第431条には、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」という規定があります。この「一般的に公正妥当と認められる企業会計の慣行」として、企業会計の基準があるのですが、この基準は大企業向けの会計基準となっています。

 中小企業においてその会計基準を適用することは困難であり、実際に適用しようとすると、手間やコストもかかってしまいます。そのため、中小企業においては、法人税の基準に合わせた決算書が作成されることが慣習となっていました。

 しかしながら、法人税の基準とは税金を計算する基準であり、必ずしも企業の財務状況や経営成績を正しく表現できるものではありません。そこで、中小企業が決算書を作成するに当たって、適用すべき会計基準を明らかにするものとして作成されたのが、「中小企業の会計に関する指針(以下『中小企業会計指針』という)です。




『中小企業会計指針』の目的はどのようなものですか?

 『中小企業会計指針』には、「中小企業が計算書類の作成に当たり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示すものです」とあります。その内容は、中小企業の実態にふさわしく、過度の負担を強いないものとなっています。

 また、同指針では「とくに、会計参与設置会社が計算書類を作成する際には、本指針に拠ることが適当です」とあります。

 この会計参与とは、会社法において定められた制度です。従来は監査役が会計監査を行なうこととなっていましたが、その監査役の資格要件はありませんでした。

 したがって、社長の親族等の名目的な監査役であるケースが多く、決算書の信頼性向上に大きな課題となっていました。

 会計参与の資格要件としては、税理士または公認会計士であることとされています。そして、会計参与は、取締役と共同して計算書類を作成することとなり、株主への説明義務もあり、社外取締役と同様の責任を負います。その会計参与が決算書を作成するにあたって基準とすべきものが、『中小企業会計指針』なのです。

 もっとも会計参与を設置していない企業も、この指針を基準として決算書を作成することができます。後述しますが、金融機関等は、その指針を適用しているかどうかを決算書の信頼度の判断基準としています。

 したがって、『中小企業会計指針』は、社会的信頼性の高い決算書を作成することを目的としています。




「中小企業の会計に関する指針」の対象となるのはどんな会社ですか?

 対象となるのは、次に掲げるもの以外の株式会社です。

・金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社
・会計監査人を設置する会社及びその子会社

 ここに掲げている株式会社は、公認会計士または監査法人の監査を受けるため、『中小企業会計指針』の適用対象外となっています。

 また、上記以外の株式会社とともに特例有限会社(会社法適用前の有限会社)、合名会社、合資会社または合同会社についても同様に対象とされています。




「中小企業の会計に関する指針」と法人税法の基準の違いを教えてください。

 法人税法の規定には、「~しなければならない」という規定と「~することができる」という規定があります。減価償却費について言えば、法人税法上の限度額を超えなければよいこととなっています。

 たとえば機械を購入した場合、法人税法上認められる減価償却費が100万円だとすると、100万円を超えなければ、決算書で計上する金額は0円でも10万円でもかまいません。つまり、任意に適用することができるのです。

 減価償却費が100万円以下の金額の場合、経費が減少しますので、結果として利益が増え、支払う税金の金額も増えます。一般的に税金の金額が増える場合は、任意規定、「~することができる」規定です。

 しかし『中小企業会計指針』では、「減価償却は経営状況により任意に行なうことなく、継続して規則的な償却を行なう」とされています。企業の恣意的な操作で利益が変動することがあっては、利害関係者が経営を判断する場合、妨げとなるからです。
 たとえば、以下のような会社があるとします。

・売上総利益 1000
・販売管理費 1050(うち減価償却費200)
・営業利益  1000-1050=▲50
(法人税法上認められている減価償却費は200と仮定します)

 ここで、減価償却費を200ではなく、100と計上すると、営業利益は以下のとおり50となります。

・売上総利益 1000
・販売管理費 950(うち減価償却費100)
・営業利益  1000-950=50

 『中小企業会計指針』では、このような恣意的な操作をしてはならないと明確に規定しているのです。

 なお、法人税法上は、会計上で計上する減価償却費が200以下であれば問題はありません。

 また、法人税、住民税及び事業税については、『中小企業会計指針』では「法人税、住民税及び事業税は発生主義により計上」、そして「決算日後に納付すべき税金債務は、流動負債に計上」とされています。

 たとえば、税引前当期純利益が1000で、その期に発生した法人税、住民税及び事業税が400と仮定します。通常であれば、その期に発生した法人税、住民税及び事業税は次のように処理します。

・税引前当期純利益  1000
・法人税、住民税及び事業税 400
・当期純利益 1000-400=600
(法人税、住民税及び事業税はすべて確定した法人税と仮定)

 しかし、その計上について、法人税法上は必ずしも未払計上する必要がありませんので、次のような処理も可能です。

・税引前当期純利益 1000
・法人税、住民税及び事業税 0
・当期純利益 1000-0=1000

 このように会計処理が異なることにより、当期純利益が増減することは本来あってはならないことです。そのために一定の基準が必要とされるのです。

 上記以外では、貸倒引当金(法人税では任意、指針では計上しなければならない。さらに一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等に区分することも必要)、賞与引当金・退職給付引当金(法人税では規定がなく計上を認めていないが、指針では原則として計上する必要がある)などがあります。

 ここで、法人税の基準で決算書を作成しないと、税金の金額が変わってくるのではないかと思われる方も多いかと思いますので、その点について簡単に触れておきます。

 法人税の計算は、確定した決算書に基づいて計算されます。作成された決算書で法人税の基準で計算されていないものについては、申告書で調整を行ないます。それでは、前述の法人税、住民税及び事業税の例で考えてみましょう。

 他の要素を考慮しなければ、通常当期純利益に税率をかけて税金を算出します。

[未払計上する場合]

・税引前当期純利益 1000
・法人税、住民税及び事業税 400
・当期純利益 1000-400=600

 法人税法上は、法人税、住民税及び事業税は税金上の経費とみなしませんので、600+400=1000に税率をかけて税金を計算します。したがって、1000×40%=400が税金の額となります。

[未払計上しない場合]

・税引前当期純利益 1000
・法人税、住民税及び事業税 0
・当期純利益 1000-0=10000

 この場合は、そのまま1000に税率をかけて税金を計算します。したがって、1000×40%=400が税金の額となります。

 このように会計処理によって、税金が変わらないようになっているわけです。

 なお、決算書の注記についても、税法上は規定がありませんが、会社法及び『中小企業会計指針』においては、個別注記表の作成が必要です。個別注記表とは、貸借対照表、損益計算書及び株主資本等計算書を作成するにあたっての会計方針(どのような基準で会計処理を行なったか)、会計処理の変更内容などについて、その内容を明らかにするものです。

 『中小企業会計指針』を適用している場合は、この個別注記表に「この計算書類は、中小企業の会計に関する指針によって作成しています」との表示をします。

 その他の会計方針について例を挙げると、以下のようなものがあります。

・有価証券、固定資産等の評価基準及び評価方法
・固定資産の減価償却の方法
・引当金の計上基準

 また、役員と会社間の取引についても注記事項として開示することが望ましいとされています。




『中小企業会計指針』のチェックリストがあると聞きましたが…。

 『中小企業会計指針』に対して、「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」というチェックリストがあります。このリストには約60項目のチェック事項があり、そのチェック事項に該当する項目があるかどうか、ある場合は『中小企業会計指針』に沿った処理をしているかどうかをチェックします。

 このリストは税理士が署名・押印する欄があり、「指針」の適用を税理士側からもチェックするようになっています。たとえば、預貯金については“残高証明書または預金通帳等により残高を確認したか”という確認事項です。その他金銭債権、有価証券、金銭債務等のB/S項目、税効果会計、外貨建取引などの項目があり、会社法で新たに義務づけられた株主資本変動計算書や個別注記表に関する項目もあります。

 なお、このチェックリストで「指針」に沿った処理をしていない場合、その理由を記載しなければいけません。




『中小企業会計指針』を適用するメリットはありますか?

 まず一つめのメリットは、前項のチェックリストに関するものです。このチェックリストを作成し、金融機関に提出すると金利等の優遇があります。たとえば、信用保証協会の保証料率が優遇されるといったメリットがあります。また民間の金融機関の多くが、このチェックリストによる優遇商品を取り扱っています。

 二つめのメリットとしては、本来の目的である信頼性の高い決算書作成の基準となるということです。

 そして最後のメリットとしては、自社の経営実態を正確に把握することができることが挙げられます。前述の通り、実務上、決算書は、法人税法の基準に沿った処理がされている場合がほとんどです。しかし、会社の経営に活かす決算書を作成しなければ、税務申告のためだけに決算書を作成し、ひいては日々の経理業務を行なっていることになります。

 決算書を会社の経営に活かすためにも「指針」の適用を検討する余地があるということです。




詳しい情報はどこで調べることができますか?

 日本税理士会連合会のHPに詳しい情報があります。(『中小企業会計指針』で検索)『中小企業会計指針』の内容に加えて、チェックリストのPDFファイルもダウンロードが可能です。チェックリストを活用した無担保融資商品等の案内もあります。

 また、会社法等の改正にあわせて、『中小企業会計指針』も改正されています。これまで平成18年4月、平成19年4月に改正があり、現時点での最新のものは平成20年5月1日に公表されたものです。チェックリストの改正も同時期に行なわれています。このような改正情報もHP等で把握しておくことをオススメします。

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 経営に活かすことができ、社会的信頼性のある決算書を作成するには、日々の正しい経理の積重ねが必要です。毎日行なっている経理業務(会計ソフト入力、資料作成・整理など)が、経営、税務申告、融資などさまざまな物事につながっていることを意識していただきたいところです。

 その上で、「中小企業の会計に関する指針の適用に関するチェックリスト」を、日々の経理業務及び決算書作成のチェックに使用してみてはいかがでしょう。

〔月刊 経理WOMAN〕