「延滞債権」を何が何でも回収するためのアノ手コノ手
   
作成日:10/31/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


諦める前にやれることは全部やってみよう!
「延滞債権」を何が何でも
回収するためのアノ手コノ手


 長期にわたって焦げ付いた債権を、「いまさら無理だろう」「仕方がない」と諦めている経営者や経理担当者は少なくありません。一方で、回収したい気持ちはあっても、いまさらどう手を打ったらよいのか分からないというのが現状です。

 そこで、長期化した債権を回収するための具体的な手順、効果的な方法についてアドバイスします。



 延滞債権が発生する理由としては、値引きや返品による処理の遅れ、製品のクレームによる支払遅延、取引先の資金繰りの逼迫などがあげられます。なかには、始めから支払うつもりのない悪質な取引先も存在します。そうした場合は一筋縄ではいきませんし、債権は長期化すればするほど回収が困難になります。

 しかし、3ヵ月、6ヵ月と回収が滞れば、会社の資金繰りは悪化し、経営を揺るがすことになりかねません。また、延滞債権をそのまま放置しておけば消滅時効の問題が出てきます。売掛金の消滅時効は、弁済期の翌日から起算して2年です。

 延滞債権の回収方法は基本的に通常の債権と変わりませんが、最後まで諦めないという強い信念と粘り強い行動力が必要になります。


延滞債権はこうして回収しよう

1)回収計画の立案

 まず、売掛金台帳などから未回収分のリストを作成します。リストには未回収分の取引先名・延滞金額・延滞期間・滞留理由を記入します。合わせて、取引先の支払能力(不動産や換価可能な資産など)を調査し、支払いの裏付けを確認しておきます。
 それらをもとに回収行動(誰が、いつまでに、どのように回収するのか)を決めます。

2)請求書を持参し催促する

 それなりの理由があって債権が長期化しているわけですから、直接出向くのが効果的です。納品書、請求明細書などの証拠書類を用意して、取引先と直接、話合いをします。
 話合いは取引先のペースに乗らず、その場で全額支払ってもらえない場合や分割払いの場合には、口約束ではなく、必ず文書を作成し支払いを約束させます。これが、取引先との債権残高確認および時効の中断の証拠となります。
 また、時効にかかっている債権でも、取引先が「少し待って欲しい」「○○円くらいなら支払える」といった場合、時効の利益を放棄したことになりますのでその場で文書にしておきます。
 さらに、これらの文書を公正証書で作成しておけば、万一取引先が支払わない場合は、取引先の所有資産に強制執行をかけることかできます。場合によっては、取引先から品物を買い受け、延滞債権と相殺することや取引先の得意先への売掛金等の債権を譲渡してもらう方法でも延滞債権を回収できます。

3)電話・FAXにより催促する

 2)の約束期日に支払われなかった場合に、電話・FAXで催促をします。取引先が支払いを失念していることもありますので、早急に一報を入れましょう。

4)普通郵便により支払催促状を出す

 差出人は営業の責任者名とし、内容は柔らかな表現を用い、「弁済期が到来した売掛金○○円を支払って欲しい」という趣旨を記します。まだ法律的な言い回しはできるだけ避けます。 とくに悪質な取引先に対しての支払督促状は、あとでトラブルに発展した場合の証拠書類になります。

5)内容証明郵便により厳しい支払督促をする

 4)の支払催促状を出したにもかかわらず埒(らち)が明かないときは、再度、社長名で催告書を出します。 内容は、「支払いなき場合には法的手続きを辞さない」旨を記載し、取引先にプレッシャーをかけます。また、差出人を弁護士名とすることにより、より効果があがります。
 内容証明郵便とは、どんな内容の文書を、いつ、誰が、誰に出したかを郵便局が証明してくれるものです。内容証明そのものに法的拘束力はありませんが、公的機関である郵便局が証明してくれることから、相手に与える心理的効果を期待できます。

6)支払督促の申立て等の裁判手続き

 5)を行なってもなお効果がない場合、あるいは、倒産しそうな取引先に対しては、支払督促申立てなどの法的手続きを取り、強制的な回収行動に出ます。
 どのくらいの債権を回収できるかは、取引先の支払能力(所有資産)が決め手となります。取引先に換金可能な資産があることが分かっているので倒産前になんとかこれを押さえたいという場合には、裁判所に仮差押の申立てをする方法もあります。ただし、請求債権の3割程度の保証金が必要になります(不当な仮差押でない限りは返金されます)。また、仮差押は単に押さえるだけなので、その後、訴訟や支払督促などにより債務名義(強制執行可能な公的文書・仮執行宣言付勝訴判決、仮執行宣言付支払督促など)を得て強制執行を行なわなければ回収することはできません。

 法的手続きを取る場合は、納品書、請求書、残高確認書などの証拠書類を準備して、事前に弁護士に相談してください。


経理担当者としての役割

 経理担当者が現場を知り、また、営業担当者の苦労を理解することは、会社幹部や営業部門から信頼されるばかりではなく、会社の損失を未然に防ぐうえでとても大切です。 とくにたちの悪い取引先に対しては、営業担当者任せにせずに、営業担当者と一緒に回収行動をして、取引先に心理的圧力をかけるくらいの意欲と熱意が必要です。 経理担当者が取るべき行動を、詳しく見ていきましょう。

1)管理資料の作成

 売掛金未回収表・入金状況表などの管理資料を作成します。取引先別の滞留状況を把握し、それぞれの営業担当者から滞留報告書を提出してもらいます。

2)債務残高確認書を送る

 債務確認と時効を中断するため、少なくとも半年に1回、取引先に債務残高確認書を送り、確認後、捺印して返送してもらいましょう。

3)取引先への同行

 必要に応じて、滞留取引先へ営業担当者と一緒に訪問します。

4)債権管理の社内ルールを徹底する

 債権管理の基本となるルールを作ります。内容としては、与信限度額の設定について、代金支払条件、取引先からの支払延期要請などがあった場合の対応などを盛り込みます。
 このルールを徹底するために、営業担当者への説明・指導が必要です。


焦付きを予防するために…

1)日常の債権管理

 延滞債権を防止するには、日頃の債権管理(請求と回収)をいかにきちんと行なうかがポイントです。経理担当者と営業担当者で分担して、最低限、次のことは実施しましょう。

イ.取引先別の債権残高を把握する。
ロ.取引先別の回収予定表を立てる。
ハ.請求書の発行を忘れない。
ニ.集金予定の取引先には、訪問日をあらかじめ連絡する。
ホ.集金指定日には必ず訪問し、金額回収する。そのときに、金額と契約書上の支払条件どおりかをチェックする(手形の場合、サイトが延びていないかに気を付ける)。

2)契約書の作成

 取引において契約書の作成は基本中の基本です。しかし、たとえば少額の商品を頻繁に販売する場合など、注文書と納品書があればよいだろうと個々の契約書を作っていないケースも少なくありません。代金支払時期や支払方法を明確にしておくためにも、取引のつど、基本契約書を作成する必要があります。

3)取引先の危険な兆候をチェック

 営業担当者が取引先の危険兆候を観察します。中小企業の場合、経営者の能力・経営手腕が会社の存続に大きなウエイトを占めています。また、従業員の意欲や入退社なども大企業に比べて、経営に及ぼす影響が大きいものです。
 そこで、取引先の経営者・幹部に不審な動きがないか、従業員から経営者・幹部への不平不満がもれていないかなどをチェックします。
 また、取引先に何かよくない噂がたっていないか、支払いが滞りがちにもかかわらず急激に注文が増えていないか(取引先の仕入先が倒産した可能性があります)、取引銀行の変更がないか(取引先の資金繰りに大いに影響します)、手形ジャンプの要請がないかなども注意深く観察します。

 これらの項目のチェックリストを作成し、定期的に調査することが肝心です。

4)信用調査の実施

 新規の取引先に多額の掛売りをする場合などは、信用調査を行なうのが望ましいでしょう。最近では、インターネットを利用して、大手調査会社が集めた財務諸表を見ることができます(基本的に有料)。
 また、付合いの長い取引先に関しても、定期的に前述のような財務諸表をチェックしたり銀行などから情報を入手するとよいでしょう。しかし、それらの情報をせっかく集めても、経理部門と営業部門で共有しなければ意味がありません。積極的に情報交換することが大切です。

5)取引先を分類する

 1)、2)、3)、4)を総合して、取引先を優良取引先・要注意取引先などに分類します。
 要注意取引先に分類された企業は今後、債権が滞留する危険性が大きいということになります。取引条件を見直し(現金取引への変更、手形のサイト短縮など)、担保・保証を取得して、最悪の事態に備えましょう。

◇    ◇

 延滞債権をなくすためには、普段から「販売は代金の回収をもって終わる」「販売と回収は車の両輪である」ことを営業担当者に徹底しておく必要があります。

 また、経理を始めとする管理部門も営業部門をバックアップし、「1円の未回収も残さない」という意識を持つことが必要不可欠になります。

〔月刊 経理WOMAN〕