得意先の「微妙な倒産信号」
   
作成日:07/26/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


得意先の「微妙な倒産信号」
 ―こんなところに表われる!




 得意先が突然倒産して多額の売掛金が焦げ付いたという話をよく聞きますが、どんなときも何かしら倒産する兆候はあるはずです。問題は担当者がその兆候に気付けるか、気付けないかということではないでしょうか?

 そこでここでは、ささいな兆候から倒産の危機を察知する方法をアドバイスします。

■倒産は本当に減ったのか?

 「大手企業はリストラが一段落」「収益回復でボーナスアップ」…。最近うれしいニュースが増えています。実際、2004年度の企業倒産は1万3186件で、13年ぶりに1万4000件台を下回りました。連日マスコミが「倒産多発」と大騒ぎした01年度には2万件目前にまで急増していたのですから、嘘のような沈静化ぶりです。

 しかし、どうして急速に倒産件数が減少したのでしょうか? その要因は、次の二つに大別できます。

 一つは倒産件数の99・5%を占める中小企業向けに、30兆円規模の特別保証制度など政府の手厚い金融政策が実施されたこと。もう一つは経営の厳しい会社が金融機関へ債権放棄を要請したり、「私的整理のガイドライン」(私的整理を行なうに至った場合の関係者間の調整手続き等をとりまとめたもの)を利用したり、ダイエー、大京などの大企業が再建支援を要請してお馴染みになった「産業再生機構」(不良債権の本格的処理を支援するために特別な法律に基づいて設立された政府の管理下にある株式会社)を活用したりして再生(再建)を進めたことです。

 このような公的信用保証制度の充実と多様化した再生策のおかげで、不景気ながら倒産が減少するという奇妙な現象が起こりました。

 しかし、胸をなでおろすのはまだ早いようです。10年前の94年度には倒産件数の9・6%に過ぎなかった法的手続きによる倒産の割合が、04年度には46・5%とほぼ倒産全体の半数に達し、今年3月には50・6%と初めて50%を上回りました。

 倒産には「再建型」(会社更生法、民事再生法、商法整理)の法的手続きと「消滅型」(破産、特別清算)の法的手続きと任意整理がありますが、法的手続きのうち、86・9%が「消滅型」の破産によるものでした(5342件)。その一方、「再建型」の民事再生法によるケースは3年連続で減少しているのです(533件)。これは、大手に比べ事業再生への選択肢が少ない中小企業の厳しい環境を示しています。

 今後も引き続き公共投資の削減に加え、公的信用保証が融資額の80%前後に圧縮される方向で検討されています。そうした中、不良債権処理を命題にする金融機関があえて信用不安先に融資するかといえば…、答えは明白です。つまり、大手企業は好調な決算発表を行なっていても、業績が低迷している中小企業の資金調達は、現在もなお厳しさを増しているのが実情なのです。

 また、取引先が「再建型」の倒産をしても、焦げ付いた売掛金が全額配当されるケースは稀です。大半は5年から10年の長期分割で30%の配当がいいところでしょう。しかも、それは「再建」できればの話で、できなければ債権は雲散霧消してしまいます。

 だからこそ、会社を守るためには得意先の倒産信号をできる限り早くキャッチすることが重要なのです。


■担当者が必ずチェックしたい「微妙な倒産信号」

 いったん経営が悪化した会社が倒産するまでのスピードはみなさんが思っている以上に早いものです。とくに法的手続きが増加している状況では、明らかな兆候が出てから対応したのでは間に合わないというケースも少なくありません。

 そこで、得意先の「微妙な倒産信号」を掴むためのチェックシートを作成し、営業マンをはじめ、他の社員にも回覧して確認してもらいましょう。一人ひとりの社員が日頃から得意先の変化を意識できるようにしておくことが大切です。

 微妙な兆候は、中小企業の場合はとくに「人」に表われます。最近は、得意先とのやりとり等はできるだけメールで済ませる会社も増えていますが、いち早く倒産信号を掴むためには、やはり定期的に足を運んで社長や社員と直接話をすることも必要でしょう。

 次に、チェックシートの内容を簡単に解説します。

【レベル1】
社内の“様子”・“雰囲気”に異変はないか?

 「企業は人なり」。先述のとおり、会社が危なくなれば、必ず「人」に変化が表われてくるものです。まず第一に、社員の入れ替わりが激しくなった会社には注意を払いましょう。

 また、何となく元気がない、疲れている、以前より仕事に対するやる気が感じられないという社員が増えている場合は、急激に業績が落ちたために会社が社員を統率できなくなっている可能性も考えられます。統率が取れなくなれば、社内が殺伐としたり、雑然となったりもしていくものです。そして、社長が不在がちになるのは金策に走っているからかもしれません。

 すべての社員が生き生きと働ける会社は現実にはそう多くないかもしれません。ただ、多くの社員に覇気がないというのは、正常な会社の状態とはいえないでしょう。

【レベル2】
会社の“状態”・“内容”に異変はないか?

 得意先の取引先が倒産すれば、当然自社にも影響が及びます。とくに得意先の受注会社が少数の場合、1社に対する依存割合が大きくなりますから、焦付いた売掛金により厳しい状況に追い込まれるのは必至です。

 また、行き過ぎと思われる設備投資は、資金ショートを招きます。もし得意先にそのような兆候があれば、遅かれ早かれ運転資金を設備資金の返済に回さなければならなくなり、資金繰りに追われることになるでしょう。さらに、過剰な在庫は保管費用や金利負担の増大等、企業にマイナス要因しかもたらしませんし、得意先がよく分からない事業を始めたのは、本業がうまくいっていないからかも知れません。

 このほか、急に取引額が増減したり、納期が守られなくなったら注意が必要です。急な取引増は他社が納入を避けている可能性があり、納期遅れは資金や物流など経営力の弱さを示しているとも考えられます。

【レベル3】
“経理”に関する異変はないか?

 支払いが「手形決済」に変わったり、支払条件の変更の相談を受けた場合、得意先は資金繰りに追われていると警戒した方がよいでしょう。

 とくに、手形取引は不渡りの危険があるだけでなく、印紙税がかかったり、事務負担も増えますから、大手はもちろん中小企業でも、最近はできるだけ手形に依存しない経営に転換する会社が増えています。そんな中で手形取引を増やす会社というのは、それだけ資金繰りに余裕がないということです。

 手形取引では、次のことに注意してください。一つ目は、振り出した会社との関連性です。たとえば、建設資材の販売会社から受け取った裏書手形が、建設会社の振り出しであれば建材の決済代金と推察できますが、食品メーカーの振り出し手形だったらどうでしょうか? 普通に考えて、建材販売会社と食品メーカーとの間に商取引は発生しにくいはずです。この場合、資金繰りに困った会社同士で手形を融通し合う「融通手形(融手)」か、銀行以外の市中金融に持ち込まれた手形である可能性があります。そのような手形を振り出す会社には注意が必要です。

 二つ目は振出銀行のチェックです。振出銀行が以前と変わっている場合、銀行がその会社の業績悪化をキャッチして取引を停止したことが考えられます。

 また、小切手の振出日を実際に振り出した日よりも先の日付にして振り出す「先日付小切手」を受け取った場合、得意先は相当資金繰りに詰まっていると思って間違いありません。

【レベル4】
“登記簿”に異変はないか?

 【レベル1】~【レベル3】でおかしいと思ったら、実際に登記簿について調べてみましょう。ポイントは次のとおりです。

・不動産登記簿

 取引先の本社土地、建物の登記簿を取り寄せてみましょう。会社が銀行から融資を受ける場合、銀行はその融資先が倒産しても債権を回収できるように所有不動産へ担保を設定します。そのため、倒産した会社の登記簿を見てみると、倒産直前の短期間に銀行などによる担保設定が集中しているのです。

 また、抵当権者に金利の高い金融業者等があった場合は危険な状態にある会社といえます。

・商業登記簿

 商業登記簿には、設立日時、本社住所、資本金、役員などの情報が網羅されています。頻繁に本社移転や役員交替を繰り返し、事業目的が規模に比べてやたらと多くなっている場合、疑う必要があります。

 このほか、銀行や取引先が債権を保全する目的で「債権譲渡」を登記している場合も危ない会社と考えられます。

 これら以外に、信用調査会社がインターネット上で提供する企業情報を利用するという手もあります。東京商工リサーチでは、上場企業から零細な個人企業まで国内約166万社の企業情報を1件1200円で提供しています。毎月100万件前後のアクセスがあることからも、得意先の状況に気を配る会社が多いことが分かります。


■「微妙な倒産信号」を掴んだらどうすればいいの?

 倒産信号を掴んだら、素早くその会社の正確な状況を把握することが大切です。

 まずは、さりげなく同業者やその会社の取引銀行等に状況を聞いてみるとよいでしょう。はっきり返答してくれることは少ないと思いますが、雰囲気で何か察することができるかもしれません。

 また、中小企業ではなかなか難しいのですが、取引先に「決算書を見せてください」とお願いしてみるのも一つの方法です。相手が躊躇したり、あからさまに嫌な顔をするようであれば、それも判断材料になるでしょう。決算書が手に入ったら、収益構造や資金繰りが悪化していないか等をチェックします。

 そして「やはりあの取引先は危ない」と判断したら、現金取引を増やしたり、取引限度額を下げたりして売掛金を減らしていくことが大切です。また、いざというときのために、取引状況をしっかり把握して契約書や発注書等の書類を保存しておきましょう。場合によっては保証人をとりつけるなど本格的な債権管理の準備へ移行します。

◇     ◇

 少しの出遅れが会社に多大な損害を与えるかもしれません。“微妙”だからといって、安易な判断の先送りや静観は傷を深めるだけです。みなさんの会社でも、得意先の状況に変化が見られたら、社長と相談する等してすぐに対策を講じるように心掛けてください。

〔月刊 経理WOMAN〕