2008年度「中小企業支援」に関する税制改正情報
   
作成日:04/24/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


人材投資促進税制から事業承継税制まで
2008年度「中小企業支援」に関する税制改正情報




 本原稿の執筆時(3月中旬)には、まだ本法案が可決されていないため、本原稿は与党の平成20年度税制改正大綱に基づいて書かせていただきます(この大綱の内容で例年税制改正が行なわれています)。

 平成20年度の税制改正は、参院での与野党逆転によるねじれ国会であることも影響して、抜本的な税制改正に踏み込めない状態にあります。本来であれば、法人税率の引き下げや消費税の増税を中心とした、税体系全体の見直しをするべき時期なのですが、それを実行することができません。税制に関しては政治主導で決められることが多いため、何かスッキリしない状況になっていますね。

 その中で平成20年度は、全体の法人税率は下げられない代わりに、ピンポイントで税率を下げていこう、という意図が見て取れます。とくに中小企業に対して、いくつかの優遇税制を打ち出しています。

 この中小企業支援の税制には、法人税関連では、情報基盤強化税制、人材投資促進税制および研究開発税制などがあり、所得税関連ではエンジェル税制、そして相続税関連では、事業承継税制などがあります。

 以下に、これらの中小企業支援税制について、できるだけカンタンに解説していきたいと思います。


◆情報基盤強化税制

 この制度は、ファイアウォールなどの情報セキュリティを強化しつつIT投資を進めることを支援するために、平成18年度税制改正において新設された制度です。

 ただし、中小企業にとって年間取得価額の最低限度が300万円と高額であったため、なかなか使える制度ではありませんでした。今回、この300万円を70万円に引き下げるなどの改正を行なった上、制度が2年間延長されることになりました。

 この制度は、具体的には次のような制度です。

〈対象となる資産〉



サーバー用のOSおよびそれがインストールされた電子計算機


データベースソフトおよびそれを利用したアプリケーションソフト


ファイヤーウォールソフトウエア

 この対象となる資産に、今回「部門間・企業間で分断されている情報システムを連携するソフトウエア」を追加することになりました。

〈制度の内容〉

 資本金1億円以下の会社は、対象となる資産の取得価額の合計が70万円以上である場合に、この制度の適用を受けることができます。

 具体的には、次のいずれかを選択することができます。

1.取得価額の35%の特別償却
2.取得価額の7%の税額控除(法人税額の20%が限度)

 たとえば、データベースソフトとして顧客管理のデータベースを作り、顧客からの電話を受けると同時に顧客データが画面に表れるアプリケーションソフトを導入すれば、この制度の対象になります。年間300万円を一気に70万円に下げましたので、まさに中小企業に使ってください、というような改正ですね。

 なお、資本金1億円超10億円以下の場合は取得価額3000万円以上、資本金10億円超の場合は取得価額1億円以上200億円までが対象とされています。

 その他にも「中小企業投資促進税制」というものが中小企業向けにあり、これについても適用期間が2年間延長されました。参考までに内容をあげておきます。

〈対象となる資産〉



機械装置で、1台160万円以上のもの


電子計算機、デジタル複合機等で、取得価額の合計が120万円以上の場合


ソフトウエアで、1つのソフトウエアが70万円以上のもの

〈制度の内容〉

 次のいずれかを選択することができます。

1.取得価額の30%の特別償却
2.取得価額の7%の税額控除(法人税額の20%が限度)

 特別償却や税額控除の対象資産は、ちょっとわかりづらいですが、詳細は顧問の税理士さんなどにご確認ください。


◆人材投資促進税制

 この制度は、人材投資(教育訓練)を促進するために、平成17年度に導入されたものです。その期限が、本年3月末(開始事業年度)までとなっていたため、本年度の税制改正において、対象を中小企業に限定した上で、使いやすい制度にして延長されることになりました。

 今までの制度ですと、前2事業年度の教育訓練費との比較が必要でしたが、今後は当年度の教育訓練費の額だけで計算できるので、非常に使いやすくなったと思います。また、適用条件もハードルが低いので、多くの中小企業で活用することができるのではないでしょうか。

〈適用条件〉

 この制度は、図表1の条件を満たす中小企業が対象となります。

図表1


 すなわち、労働費用の0.15%以上の教育訓練費を使えば対象となりますので、かなりの企業が対象になるのでは、と思います。ちなみに一人あたりの労働費用を年500万円とすると、一人あたり年7500円以上の教育訓練費を使えば、この制度の適用があることになります。このくらいであれば、ほとんどの会社は使っているのではないでしょうか?

〈税額控除額〉

 上の適用条件を満たす中小企業は、図表2の税額控除額を法人税額から控除することができます。ただし、算式中の税額控除率は、12%が上限となります。

図表2




 この制度のポイントは、教育訓練費に何が含まれるかということです。

 教育訓練費とは、従業員(役員は除きます)の職務に必要な技術や知識を習得させるため、あるいは向上させるために支出する、次のような費用をいいます。


1.

教育訓練等を行なう場合に、講師に支払う報酬

2.

教育訓練等のための施設や設備などの賃借費用

3.

社外の者に教育訓練等を委託する場合の委託料

4.

従業員を社外の教育訓練等に参加させる場合に支払う参加費用など

5.

教育訓練等のための教科書などの教材の購入や製作のための費用

 経理担当者の皆さんは、是非これらの費用を独立した科目で経理しておいてください。たとえば教育研修費などの科目を作るなどです。ただし、役員の研修費や、教育訓練費にならないものなどは、補助科目で区分しておくとよいと思います。


◆研究開発促進税制

 中小企業ではあまり使われていない税制なのですが、本年度の税制改正で法人税額の最高30%まで税額控除することができるようになりましたので、検討すべき価値があるのではと思います。この制度は、中小企業の場合、図表3の二つのうちのいずれかを選択適用することができます。

図表3

(1)増加型

1.
総額部分 当期の試験研究費×8~12%=税額控除(1)
(中小企業は12%まで)
 
2.
増加部分(当期の試験研究費ー前3期の平均×5%=税額控除(2)
 
3.
税額控除額=控除額(1)+税額控除(2)
 
税額控除(1)は、上限:法人税額の20%、税額控除(2)は、上限:法人税額の10%です。合わせて上限は、法人税額の30%にもなります。

(2)高水準型

1.
総額部分 当期の試験研究費×8~10%=税額控除(1)
(中小企業は12%まで)
 
2.
高水準部分(当期の試験研究費-売上高×10%)×税額控除率(*)=税額控除(2)
*税額控除率=(試験研究費割合ー10%)×0.2
 
3.
税額控除額=控除額(1)+税額控除(2)
 
税額控除(1)は、上限:法人税額の20%、税額控除(2)は、上限:法人税額の10%です。合わせて上限は、法人税額の30%にもなります。

 計算式は、一見複雑に見えますが、増加型、高水準型とも「1.総額部分」の計算式は同じです。「2.」の部分が違ってきています。増加型の場合は、前3期の平均と比べています。それに対し高水準型の場合は今期の売上高の10%と比べているわけですね。その点の違いだけです。

 この制度も、試験研究費には何が入るかという点がポイントです。基本的には、製品の製造や技術の改良・考案・発明などにかかる試験研究費です。その意味では、どちらかというと製造業対象の税制といえます。


◆エンジェル税制

 この制度は、法人税に関することではなく、投資をする人(エンジェル)の所得税に関する優遇税制です。平成20年4月1日以降、特定のベンチャー企業に投資した場合に、1000万円を限度として、寄付金控除ができるようになりました。

〈控除額〉

寄付金控除額=出資額-5000円

 ただし、上限は、総所得金額の40%と、1000万円のいずれか低い金額です。

 なお、この特例を受けた金額は、その株式の取得価額から控除します。

〈対象となるベンチャー企業〉

 経済産業大臣の確認を受けた次のベンチャー企業です。


1.

設立1年目の株式会社→中小企業新事業活動促進法の特定新規中小企業者

2.

設立2、3年目の株式会社→右の企業で設立以来、営業キャッシュフローが赤字の会社

 すべてのベンチャー企業が対象になるわけではないですが、これから起業する方々は検討してみる価値はありそうです。

 その他内容は割愛しますが、今までのエンジェル税制も一部存続しています。


◆事業承継税制

 これまで、非上場の同族会社の株価は、非常に高い評価となり、相続税の支払いが困難になるケースが多々ありました。

 同族株式はほとんど換金することはできないため、その後の事業の継承に支障をきたすことにもなりかねません。これは以前から大きな問題でしたが、ようやく本年10月より、相続税の抜本的見直しが行なわれる予定です。

 この制度の内容は、以下のとおりです。

〈制度の概要〉

 後継者が、相続によって取得した自社株式にかかる相続税の80%相当額を、納税猶予する制度です。ただし、その会社の発行済み株式の2/3までが限度となります。

〈適用となる会社〉

 図表4の資本金および従業員数の両方の条件を満たす中小企業です。

図表4
業 種
資本金
従業員数
製造業その他
3億円以下
300人以下
卸売業
1億円以下
100人以下
小売業
5千万円以下
50人以下
サービス業
5千万円以下
100人以下

〈被相続人、後継者の条件〉

1.被相続人(親)の条件

・会社の代表者であったこと
・本人と同族関係者で発行済み株式総数の50%超の株式を持ち、かつ同族内で筆頭株主であったこと

2.後継者の条件

・会社の代表者であること
・後継者と同族関係者で発行済み株式総数の50%超の株式を持ち、かつ同族内で筆頭株主となる場合

〈相続後の条件〉

 5年間の事業継続が要件。具体的には、次のとおりです。

・5年間代表者であること
・5年間雇用の8割以上を維持すること
・相続した対象株式を、5年間継続保有すること

〈相続税の免除や納付〉

1.免除

 後継者が対象株式を死亡の時まで保有し続けた場合など、一定の場合には猶予税額の納付を免除してくれます。

2.納付



相続税の申告期限から5年以内に、代表者でなくなるなど上記の事業継続要件が満たされなかった場合は、猶予税額の全額を納付することになります。


5年経過後も、その株式を譲渡した場合には、譲渡した株数に対応する猶予税額を納付することになります。

3.担保

 納税猶予の対象となった株式は、すべて国に担保として供さなければなりません。

 以上が事業承継税制の概要です。かなり厳しい条件もありますが、同族株式の80%の相続税を猶予してくれることは、やはり大変大きいと思います。経理担当者の皆さんも自社の事業承継でこれが使えるのかどうか、是非考えてみて社長や後継者の方に情報提供してあげるとよいと思います。


〔月刊 経理WOMAN〕