「原価計算」の基本がスラスラ分かる30分講座
   
作成日:09/26/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


どんぶり勘定から脱するための必備知識!
「原価計算」の基本がスラスラ分かる30分講座




 原価とは、「モノを作るときにかかる経費」と大まかには知っていても、そのしくみを正しく理解している経理担当者は意外と少ないものです。しかし、原価計算は、コスト削減や利益計画を行なったり、各部門の業績をつかむ上でとても重要です。

 そこで、そもそも原価計算とはどんな目的でどのように行なうものなのか、原価計算の基本を解説していきます。

 とある会社での昼休み。散歩から戻った花子(プチ断食中)が見た光景は、ガランとしたオフィス内で、独り寂しく格安ハンバーガーを食べる部長の姿でした。部長は(誰も聞いていないのに)花子に対して、手の中のハンバーガーについて何やら恥ずかしそうに話し始めました。

部長
 いや~、うちの娘が私立の学校に入ったものだから、父親の小遣いが削られちゃって大変だよ。娘の携帯電話代は削られないっていうのに。だから、毎日こんな安い昼食で我慢してるわけだよ。

花子
 毎日ですか?

部長
 そう、毎日。いい加減食べ飽きたね。かといって、この値段は魅力的だから、背に腹は代えられないよ。

花子
 本当に安いですよね。売っている側もよくその値段でやっていけますね。

部長
 そうだよなぁ。いったい原価はいくらなんだろうって考えちゃうね。

花子
 でも、ハンバーガーってパンとハンバーグと野菜ちょこっとだけだから原価は大したことはないかもしれませんよ。

部長
 いや、それだけじゃ足りないよ。

花子
 あ! パンが2枚いるってことですか?

部長
 いやいや、そういうことじゃない。いま花子クンがいった「原価」っていうのは、いわゆる材料費の一部であって原価のすべてじゃないんだよ。

花子
 えぇっ!? それじゃ、原価にはほかに何が含まれるのですか?

部長
 考えてごらん。このハンバーガーを作るためには、ハンバーガーショップの家賃や店員のアルバイト料、水道光熱費などもかかっている。だからこれらのような諸々の費用を一切合切集計しなきゃいけないんだ。

花子
 なるほど。それらをぜ~んぶ足せば原価が出てくるわけですね。

部長
 ところが、そう簡単にはいかない。ショップでかかっている費用のうち、どれがハンバーガーを作るためにかかっているか分からないし、ハンバーガーだっていろいろな種類があるから、すべて同じ原価と考えるのはおかしいってことになる。だから、大雑把じゃなくて、ちゃんと理にかなった計算をしなくちゃいけないんだ。その計算が原価計算というわけ。



花子
 あ、原価計算って聞いたことがあります。メーカーに勤めている友達が、そんなことをいってました。

部長
 うん、そうだよ。メーカーみたいに製品を自分のところで作る会社は、単に商品を仕入れて売るだけじゃないから、売上に対応する原価を自分で原価計算しなくちゃけない。だからメーカーのP/L(損益計算書)はちょっと形式が違うんだよ。どれどれ、確かうちの取引先のP/Lがあったような…。あ、あった、ほら、ここが違うだろう?(図表1参照)

図表1 製造業の損益計算書(一部)


花子
 本当ですね。普通は「2.当期商品仕入高」なのに、「2.当期製品製造原価」になっています。この当期製品製造原価を計算するのが原価計算なのですね。

部長
 まぁ、そうだね。原価計算の主な目的の一つだね。

花子
 でも原価計算って…、何だか難しそうですね。

部長
 もちろんいきなり計算するのは無理だよ。原価という目に見えないものを計算していくわけだから、きちんと手順を踏んで計算しなければいけない。その第一歩が発生した費用をきちんと分類して整理することなんだよ。まず、一体何から発生したものかという観点で、材料費・労務費・経費の3種類に分類する。これは原価の形態別分類というんだ(図表2参照)。

図表2 原価の形態別分類


花子
 何のためにかかった費用なのかを考えながら分けていけばよいわけですね。

部長
 そのとおり。形態別に分類した原価を、さらにどの製品を作るためにかかった費用かが分かるかどうかによって分類するんだよ。どの製品のためにかかった費用かがハッキリ分かるものを製造直接費、分からないものを製造間接費というんだ。

花子
 えっ? それってどういう意味ですか?

部長
 たとえば、ハンバーガーでいえば、塩や胡椒などの調味料はどの種類のハンバーガーにどれだけ使ったかがよく分からないよね。だから、こういった費用は製造間接費に分類される。調味料は材料だから、その費用は製造間接費である材料費ということで間接材料費と呼ぶんだよ。

花子
 なるほど。それじゃ、ハンバーグを焼くためのガス代も製造間接費に分類されるのですね。

部長
 そう、ガス代のような水道光熱費や家賃など、経費のほとんどが間接経費なんだよ。

花子
 製造直接費って製品別にどれだけかかったかがすぐ分かる原価だから、そのまま製品の原価になるわけですか?

部長
 そうだよ。直接費のように製品別に把握できる原価は製品ごとに集計できるね。で、この製品ごとへの集計手続きを賦課(ふか)または直課(ちょくか)って呼ぶんだよ。
 これに対して、間接費はどの製品を作るためにかかったかが分からないから各製品別に集計することができない。そこで、間接費は何らかの基準で強引に各製品別に分けてしまう。この計算手続きを配賦(はいふ)って呼ぶんだよ(図表3参照)。

図表3 賦課(直課)と配賦


花子
 何だか難しい言葉の連続ですね。でも、その配賦っていう計算、強引に分けちゃうって、そんないい加減な計算でよいのですか?

部長
 強引だけど決していい加減ってわけじゃない。ちゃんと理にかなった計算をしなきゃいけないよ。たとえば、ハンバーガーショップの家賃だけど、厨房部分の面積とお客さんが飲食するホール部分の面積で分ければ、ハンバーガーを作るためにかかった家賃が計算できるね。これが配賦計算だ。

花子
 なるほど、大まかだけど理にかなっているんですね。賦課と配賦、これでとりあえず製品の原価計算ができるのですか?

部長
 まぁ、原価計算手続きをザッと説明するとこんなところかな。ちなみに、先ほどのメーカーの話だけど、メーカーなどは原価計算の結果、製造原価の内訳を示す財務諸表(決算書)を作る必要があるんだよ。それを「製造原価報告書」というんだ(図表4参照)。

図表4 製造原価報告書


花子
 先ほど部長が見せてくれた決算書の後ろに、製造原価報告書がありました。計算結果が当期製品製造原価になっています。これがP/Lの「2.当期製品製造原価」にリンクしているんですね。でも、このシカケヒンって…?

部長
 仕掛品のことかな。これは製造途中の未完成品ってことだ。
 ところで、原価計算というのは、このように製品原価を正確に計算することも主な目的だが、それだけじゃ不十分なんだよ。



花子
 え? 製品の原価を計算するだけじゃないのですか?

部長
 そう。単に計算しただけじゃ、その原価が果たして高かったのか、それとも低かったのかどうかが分からないだろう? これについてもきちんと見定めないと意味がない。

花子
 でも、高いか低いかなんて、何かモノサシがないと…。

部長
 そのとおり。モノサシとなる基準がないと原価が高いか低いかなんて判定できない。そこで、普通に作れば通常発生するような原価を「標準原価」として、これを基準に、実際に発生した原価と比べる。そして、実際に発生した原価が高ければ、その差異の原因を分析して解決方法を見い出すんだよ。ちなみに、これを標準原価計算と呼ぶんだ。

花子
 原価計算を経営管理に使うのですね。

部長
 そう。とくにこの場合、経営管理の中でも原価管理のために標準原価計算を行なって、コスト削減に活かされるんだ。このほか、標準原価を使って予算編成などの経営計画を行なうこともあるよ。

花子
 結構奥が深いんですね。

部長
 まだまだ話はつきないよ。このほかに、原価を売上高に対してどのように発生するかという観点で分類する方法もある。売上高が増えればそれにつれて増えるような原価を変動費、売上高が増えても減っても動かない原価を固定費として分類する直接原価計算もあるんだ(図表5参照)。

図表5 変動費と固定費


花子
 直接原価計算? これを用いると何かよいことがあるんですか?

部長
 固定費はたとえ売上がゼロでも絶対に発生する原価だから、このような固定費を回収して収支トントンになるような売上高、これを損益分岐点売上高っていうんだけどね、それを知ることができる。また、○○円の利益を確保したいと考えている場合の売上目標も知ることができる。つまり、先ほどの標準原価計算が原価管理に役立つのに対して、この直接原価計算は利益管理に役立つというわけ。

花子
 なるほど。でも、固定費を固定的に発生するものというだけで決めてよいのですか?

部長
 お! なかなか鋭いね。そう。固定費もしっかりその中身を見定めて低減するように努力しなくちゃいけないんだよ。ちなみに、直接原価計算は利益管理だけでなく価格の決定でも使えるときがある。このハンバーガー、1個作って売るのに変動費が100円、全体として固定費が200円かかるとする。いくらで売ったらよいと思う?

花子
 全部で原価が300円かかっているから、300円以上で売れば損をしませんね。

部長
 たとえば、300円未満で注文が来ても引き受けない方がよいと思う?

花子
 それは当然ですよ! だってそんなの引き受けたら損じゃないですか。

部長
 でも、固定費は売上ゼロでも発生するよね。つまり、注文を引き受けようが受けまいが発生するものだ。だったら注文を引き受けることによって発生する原価、つまり変動費100円以上で売れば、少しは得と考えることもできるよね。

花子
 確かに。でも…、分かったような分からないような。

部長
 つまり、短期的には変動費以上の価格で受注すればよいこともあるってことだよ。

花子
 なるほど。それにしても部長って原価計算に強いんですね。

部長
 原価といっても夫婦ゲンカには弱いんだけどね。あっはっは!

花子
 …。

〔月刊 経理WOMAN〕