「ペイオフ解禁」直前対策はこれだ!!
   
作成日:01/21/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


いよいよ実施までに2ヵ月! あなたの会社の預金は大丈夫?
「ペイオフ解禁」直前対策はこれだ!!




 この4月から、いよいよペイオフが全面解禁されます。「ペイオフ」とは、「払戻し」を意味する言葉で、金融機関に預けておいた預金について、その金融機関の経営が破綻した場合、預金保険機構からの払戻し保証金額を1預金者あたり元金1000万円とその利息までとする制度です。たとえば、2000万円を預けていた金融機関の経営が破綻した場合、手元に戻るのは元金1000万円とその利息だけで、残りの1000万円弱は戻らない可能性があるということになります。

◆ペイオフ全面解禁までの経緯

 始まりは、1995年に信用組合などの経営破綻が重なったため、政府がペイオフを5年間凍結、つまり預金の全額保護を約束したことにさかのぼります。その後、97年秋には山一證券や北海道拓殖銀行などが相次いで破綻し、大手銀行にも公的資金が注入されました。金融システムが揺れ動く中で、与党は予定していた2001年4月の解禁を1年延期する方針を打ち出したのです。これが最初の延期です。

 この措置により、ペイオフは2002年4月に全面解禁されるはずだったのですが、その直前の2001年度には約70件もの地域金融機関の経営が破綻。そこで再び全面解禁を見送り、定期預金など一部分だけを解禁し、普通預金や当座預金については2003年4月から解禁することとしました。ところがその後、政府は資金決済にかかわる預金の全額保護を表明し、全面解禁を2005年4月からと2年間延期することにしたのです。

 それから2年が経過した今、ようやくペイオフの全面解禁が行なわれようとしているわけですが、この2年間には次のようなことが起こりました。


1)

2002年にペイオフ解禁の対象となった定期預金などから、保護されている普通預金などへの資金シフト

 2001年6月には130兆円だった銀行の普通預金は、ペイオフ一部解禁後の2002年6月には195兆円に膨れ上がりました。1年で法人預金が24兆円、個人預金は32兆円も増えたのです。信用金庫でも2001年6月に18兆円だった普通預金が、翌年6月には8兆円増えて26兆円になりました。


2)

一般に経営の健全性が高いといわれる大手銀行や地方銀行、郵便貯金への資金シフト

 たとえば、比較的安全視されている東京三菱銀行の個人預金残高は、2001年9月には20兆8500億円でしたが、翌年9月には24兆3800億円と、1年間で約3兆5000億円も増えました。また、大手銀行の支店がない地方では、地元の大きい地方銀行に預金が集まりました。規模の大きな金融機関に預金が集まる動きが起こったわけです。

 しかし、この動きが必ずしも正しくないことは、2003年に経営破綻した足利銀行の例でも分かるでしょう。足利銀行は栃木県内では規模の大きい金融機関として信頼されていたのですから、もはや「大きいから潰れない」ということではないのです。


◆預金を守るセーフティネット

 ペイオフ解禁の二度の延期は、経営に不安のある金融機関が市場から退場していないことに問題がありました。それでは今、生き残っている金融機関の経営はすべて磐石といえるのでしょうか? 残念ながら、答えは「ノー」です。

 ただし、預金を守るためのセーフティネットは整備されてきました。

1)金融機能強化法

 2004年8月に成立した「金融機能強化法」は、経営が危ない金融機関に予防的に公的資金を注入し、他の健全な金融機関との合併を促すことで、破綻そのものを回避しようというものです。ペイオフは金融機関の経営が破綻しなければ発動されません。つまり、経営破綻さえ起きなければ、預金はずっと保護されるのです。

 2004年に合併などにより経営統合された金融機関は、地方銀行4件、信用金庫12件、信用組合3件でした。2005年には地方銀行3件、信用金庫3件、信用組合3件の合併予定が発表されています。今後も、このような合併は続くでしょう。

 ちなみに最近は、持株会社による経営統合が多く見られます。金融機関が一つになる合併の場合は預金が合算されてしまいますが、持株会社に傘下の金融機関が複数ある場合には、預金はそれぞれ別々に保護されます。

2)決済用預金の導入

 政府は、資金決済にかかわるお金については、今後も引き続き全額保護する方針です。「決済用預金」とは、個人などが資金決済に使う、無利息・引出し自由の預金口座のことです。

 金融機関によって多少商品性が異なりますが、今までの普通預金との大きな違いは「無利息」であること。つまり、利息を付けない代わりに預金は保護しようというものです。

 しかし、決済用預金を用意しない金融機関の経営が危ないというわけではありません。前述のとおり、経営が破綻しない限りペイオフは発動されないのですから、自行の経営に自信があれば、本来決済用預金は不要なのです。


◆ペイオフが金融機関に与える影響

 ペイオフは預金者側にばかりリスクがあるように感じられますが、金融機関にも多大な影響を及ぼします。

 そもそも金融機関は、多くの個人や法人からお金を預かり、それを企業等に貸した利ざやで収益を上げています。金融機関にとって、もっともリスクの少ない融資方法は、貸出金と同じ金額、同じ期間で預金を集めること。たとえば、1000万円を20年で貸し出す場合、資金源となる預金も1000万円で20年間預かれればよいということです。

 しかし、ペイオフが全面解禁されると、預金はより短期にシフトすると考えられます。つまり、普通預金など流動性の高い預金に預け替える人が増えるわけです。銀行にとって安定感のある資金である定期預金が減れば、企業等への長期貸出しのリスクは大きくなります。

 さらに、預金の流動性が高まれば、金融機関は預金者の払戻し請求にすぐ応じられるよう、手元にその分の資金を準備しておかなければならなくなります。そういった資金が増えれば、貸出し資金が不足してきますから、結果的に金融機関の収益を圧迫することにつながります。

 預金保険料の問題もあります。預金保険制度はペイオフの支払い原資で、金融機関は、その預金量に応じた保険料を納めています。現在の保険料率は、預金が保護される「決済用預金」が0・09%で、保護対象外の「一般預金等」は0・08%です。つまり、決済用預金に利息を付けなくても、保険料率の高い預金保険料を支払わなければならないため、金融機関にとってはかえって負担が大きいのです。


◆預金を守るための対策はこれだ!

 決済用預金の創設や公的資金の予防的注入が可能になったことで、引き続き一定のセーフティネットの効果は期待できそうです。ただ、会社としても万一に備えた対策は講じておくべきでしょう。

 今の時点でできるペイオフ対策は、次の四つに集約されます。

1)預金を分散する
2)相殺規定を利用する
3)決済用預金に預け替える
4)安全な銀行に預け替える

 それぞれについて簡単に説明しておきましょう。

1)預金を分散する

 預金を分散して元本1000万円以内で預け分ければ、万一金融機関が経営破綻しても、預金とその利息は全額保護されることになります。

 たとえば、6000万円の預金残高があれば、1000万円ずつ、六つの銀行へ分散して預けます。通帳の管理や預け替える手間はかかりますが、ペイオフ対策としては有効です。

2)相殺規定を利用する

 相殺規定とは、金融機関の経営が破綻した際に、預金と借入金(住宅ローンなどを含む)を相殺できるという規定です。この相殺規定を利用すれば、「1000万円プラス借入金」の預金が保護されることになります。

 たとえば預金残高が6000万円あった場合、ペイオフ全面解禁後は約5000万円がカットされるリスクがあります。しかし、もしその金融機関から4000万円の借入れをしていれば、金融機関が破綻した場合のリスクは1000万円になるわけです。

 なお、預金者が相殺規定を利用する場合には、預金取引約款に相殺規定が盛り込まれているかどうかを確認し、自ら手続きを申し出なければなりません。

3)決済用預金に預け替える

 決済用預金とは先に述べたように、無利息・引出し自由の預金口座で、4月のペイオフ全面解禁後も全額が保護されます。この決済用預金については、全国の銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫の96・5%が導入または導入を検討しています。

4)安全な銀行に預け替える

 取引している金融機関が安全かどうかは、「ディスクロージャー誌」を使って確認できます。ディスクロージャー誌とは、経営内容を開示するために作られる冊子で、どの金融機関でも支店に置いておくことが義務付けられていますから、入手は簡単です。ここには財務内容の他にも、経営方針、決算状況、リスク管理や法令遵守に対する取組みなどが記載されています。

 中でもチェックしたいのが「流動性預金」の動きです。ディスクロージャー誌には、流動性預金と定期性預金の残高が記載されています。それぞれ、どの程度のウエイトがあるのかチェックしましょう。 

 たとえば、預金に占める貸出金の割合(預貸率)が80%で、普通預金などの流動性預金の割合が預金全体の40%の金融機関があるとします。前述のとおり、金融機関は融資をすることによって収益を上げていますから、預貸率80%のこの金融機関は、収益面からいえば優秀といえるでしょう。

 ところが、一方の流動性預金の割合は40%を占めています。これが、払戻しに応じるために手元に置いておかなくてはならない資金です。金融機関の資金繰りは長期と短期を織りまぜた預入期間の預金で構成されていますが、短期資金ばかりだと資産運用に支障を来すのは前述のとおりです。ですから万一、この金融機関で激しい預金の流出が起こった場合、貸出金を急いで回収しなければ、資金ショートに陥ってしまうことになるのです。

 このように、流動性預金の比重があまりに高過ぎる金融機関の経営は、健全とはいえません(流動性預金は全体の2割程度が適正)。また、企業等の資金需要が旺盛ではない現在、預貸率が急激に上昇している金融機関は、預金の流出がその原因になっていることが考えられるので、これもよくない兆候といえるでしょう。

◇     ◇

 現在、金融システムは2002年4月の定期預金のペイオフ解禁時より、かなり安定しています。ペイオフが全面的に解禁されても、何も慌てることはありません。預金を手に右往左往するのではなく、普段の取引の中で、自分の目で確かめた健全な金融機関を選ぶことが第一なのです。

〔月刊 経理WOMAN〕