新しく始まる社会保険の「総報酬制」とはこんな内容です
   
作成日:01/27/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


2003年4月から保険料ががらりと変わる!
新しく始まる社会保険の「総報酬制」とはこんな内容です

 現在、健康保険や厚生年金保険の毎月の社会保険料は報酬月額をもとに算定し、賞与については特別保険料として賞与額の一定割合を納付しています。しかし平成15年4月から、月給と賞与に同一の保険料率を用いる「総報酬制」が導入されることになりました。今までと何がどう変わるのか、新制度の内容と合わせて実務上の注意点をアドバイスしていきます。

※ここでは、政府管掌健康保険の料率についてご説明します。健康保険組合の料率は、各組合へお問い合わせください。



 「総報酬制」とは、ひと言で説明すると、月々負担する保険料の保険料率と賞与に対する保険料率が同じになる仕組みです。

 保険料率(本人負担と会社負担を合わせたもの)は、総報酬制の導入により図表1のように改定されます。



 図表1を見ると分かるように、総報酬制導入後は、健康保険料、厚生年金保険料ともに、毎月の給与と賞与の料率が同じになります。今までは、年収が同じなら、賞与の割合が多いほど保険料の負担が軽くなっていました。

 また、働きながら在職老齢年金をもらっている人については、年金額と給与の金額によって年金の支給停止額が決まっていたため、同じ年収でも賞与の割合が多ければ多く年金を受け取れるという不公平感がありました。

 このような問題を解消するために、「総報酬制」が導入されることになったわけです。



 では、総報酬制の内容を詳しく見ていきましょう。

●給与に対する保険料はこうなる

 総報酬制が導入されると、給与も賞与も同じ保険料率で保険料を計算するという説明をしてきました。

 ここで注意したいのは、給与から控除する保険料の決め方は基本的に変わらないという点です。標準報酬月額に改定後の保険料率を掛けて保険料を算出し、被保険者と事業主が折半で負担します。変わるのは、標準報酬月額を見直す「定時決定」の時期です。

 今までは、毎年8月1日現在の被保険者について、その年の5、6、7月に支払った給与総支給額の月平均額を「標準報酬月額」という給与を等級分けした表にあてはめ「算定基礎届」に記載し届け出てきました。この届け出により決定した標準報酬月額は、その年の10月から翌年9月まで有効で、被保険者の保険料も毎月一定金額となっています。

 総報酬制が導入されても、定時決定の基本的な仕組みは変わりませんが、算定対象月が、4、5、6月となり、7月1日現在の被保険者が対象となります。また定時決定により決定した標準報酬月額は、その年の9月から翌年の8月が有効期限となります。

 なお、40歳以上65歳未満の被保険者は、今までどおり介護保険料も負担します。

●賞与に対する保険料はこうなる

 今まで賞与にかかっていた特別保険料は、総報酬制導入により廃止されます。平成15年4月以降に支払われる賞与にかかる保険料については、新たに介護保険料(介護保険料の徴収者)も加わり、被保険者と会社が折半で負担することになります。保険料の求め方は次のとおりです。

【健康保険料】

標準賞与額×82/1000

※40歳以上65歳未満
標準賞与額×(82/1000+介護保険料率)

【厚生年金保険料】

標準賞与額×135・8/1000

 標準賞与額とは、賞与支払額の1000円未満を切り捨てた額で、支払ごとに上限があります。健康保険の上限額は200万円、厚生年金保険の上限額は150万円です。

 なお、今まで賞与にかからなかった児童手当拠出金(全額会社負担)も、標準賞与額に拠出率を掛けた金額が新たに発生することになります。

●保険給付はこうなる

 健康保険は標準報酬月額に基づいて給付額を決定する傷病手当金や出産手当金の金額は今までと同様に決定します。つまり、賞与から徴収した保険料は、個人への給付にはとくに反映しないわけです。

 一方、厚生年金保険は、賞与から徴収した保険料を年金額へ反映させる仕組みになります。現在は、標準報酬月額から年金額を計算していますが、総報酬制導入後の期間の年金額は、標準報酬月額と標準賞与額から平均標準報酬額を算出して年金額を計算することになります。



 平成15年4月以降、給与計算や届け出が次のように変わります。

1)平成15年3月改定予定の介護保険料
 平成15年3月分の保険料は、4月に支払う給与から控除します。このとき、健康保険料は総報酬制導入前の保険料を控除しますので、介護保険料のみ変更します。

2)平成15年4月分の保険料
 平成15年4月分の保険料から総報酬制導入後の保険料率を適用しますので、その時点の標準報酬月額をもとに改定後の保険料率を掛けた保険料を5月支給の給与から控除します。

3)平成15年4月以降の賞与
 介護保険被保険者の保険料は、改定後の健康保険料率に平成15年3月に改定(予定)した介護保険料率を加えた率で算出します。また、賞与に関する届け出は、今まで支給総額や支給人数、保険料の総額を届け出してきましたが、総報酬制導入後は被保険者ごとに標準賞与額等を届け出ることになります。



 総報酬制は企業にどんな影響があるでしょうか。

 まず、なんといっても費用の負担が変わります。個人にとってもいえることですが、月々負担する保険料率が下がりますので、当然保険料も下がります。

 しかし、賞与に対する保険料は、今までとまったく異なります。たとえば、42歳の被保険者に50万円の賞与を支給する場合を考えてみましょう(図表2参照)。



 図表2から、会社負担の合計額は5万7675円となり、今までの特別保険料の会社負担5000円と比べると大きな負担となります。

 また、被保険者負担の合計額についても、5万7125円(2万3175+3万3950)とやはり負担が大きくなります。前もって従業員へ知らせておいた方がよいでしょう。

 なおこの保険料は、賞与を支払ったときの届け出に基づいて、毎月納付する保険料に加算されて請求されます。

 これまで述べてきたとおり、個人に対する影響は、保険料の負担だけでなく給付の面にも現われます。

 個人の年金額については社会保険事務所にご相談いただきたいと思いますが、総報酬制導入1年後の平成16年度から、60歳以降の在職老齢年金の金額が変わる点は要注意です。というのは、今まで毎月の給与金額をいくらにするかによって在職老齢年金がいくらになるか計算できましたが、平成16年4月からは、過去1年間の賞与の金額が影響してくるからです。

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 最近、社会保険制度に関する法改正が多く行なわれています。社会保険事務所や健康保険組合から送付されるパンフレット等に目を通したり、改正に関する講習会などに参加して、改正内容を把握するようにしましょう。

〔月刊 経理WOMAN〕