元調査官が暴露する「脱税調査」のウラ事情
   
作成日:06/23/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


税逃れの手口からその見抜き方まで
元調査官が暴露する「脱税調査」のウラ事情




 税務調査と聞くと、ほとんどの経理担当者は緊張してしまいます。しかし、不正のない経理をしていれば、そんなに心配することはありません。問題なのは、不正経理をしている会社です。

 ここでは、2年前まで10年間、おもに法人税担当として国税局に勤務し、活躍していた元国税調査官が、税金逃れの手口やそれを見抜く方法など、税務調査にまつわる裏話を披露します。

●「税務調査」はなぜ行なわれるのか?

 みなさんは、税務調査を経験したことがあるでしょうか? あるという人も、ないという人も、「税務調査が入るのは、脱税が見つかったからではないか」「悪いことをしたからではないか」と思っているかもしれません。しかし、それは誤解です。

 たしかに、調査に入る際、調査官がある程度の脱税情報を持っていることもありますが、それは稀なことで、ほとんどの場合は、情報らしい情報を持たずに調査に行きます。そもそも、脱税が分かっていれば調査など必要なく、すぐに刑事事件として告発されます。

 では、なぜ税務調査が入るのかというと、日本は“自分の税金は自分で申告して納める”という申告納税制度を取っているからです。自己申告制度のもとでは、税務署は申告漏れがなかったか、脱税などをせずにきちんと申告したかを確認できません。そこで、納税義務が正しく公平に果たされたかどうかを税務調査という形で点検するというわけです。

 それなら、なぜ調査されるところとされないところがあるのかと疑問に思う人もいるかもしれませんが、限られた人数の調査官で調査しなければならないため、現実にはすべての会社を調べることは不可能なのです。

 では、調査対象はどのように選んでいるのかというと、最優先されるのは、ある程度の事業規模があり、毎年黒字を出している会社です。その中でも、なるべく追徴課税の見込める会社を選択しますので、1)勘定科目の中で例年と著しく違うものがある(接待交際費が前年より倍増している、仕入だけが急に増えている等)、2)売上が急に伸びた、という会社は調査対象になりやすいといえます。

 とはいえ、規模や売上の小さい会社でも、法定調書や税務署が独自に集めた資料などを見て、不正申告の疑いがあれば、いつでも調査の手が及びます。

●税務調査の進め方

 税務調査がどのように進められるのかというと、まず世間話から入ることがほとんどです。その中から、探りどころを見つけるのです。

 たとえば、社長の趣味がゴルフで、最近クラブにお金をかけている、ということが分かると、「どんなクラブを持っているのか」「どこで買ったのか」ということをさりげなく聞き出します。そして、クラブを買った店へ行って、値段を調べ、通帳などと照合して脱税していないか調べるといった具合です。

 世間話の次は、聞き取り調査や管理状況の調査を行ないます。現金出納帳と現金残高が合っていなければ、要チェックです。というのも、日頃の現金残高が合っていないのに、年間の申告額が合っているはずがないからです。

 その後は、調査官によって手法は違いますが、私の場合、期間損益を調べていました。少しでも当座の税金を少なくしたいという心理から、その期の収入を翌期に繰り越したり、翌期の経費を当期の経費に組み入れたりするなど、収入を隠したり、経費をでっち上げたりする人が多く、そこを突くというわけです。

 ちなみに、調査官は納税者があらかじめ用意している帳簿や書類などはあまり重視しません。というのも、準備された帳簿は整えられたものであると分かっているからです。では、調査官は何を重視すると思いますか? それは、原始記録と呼ばれる「生」の記録、たとえば、営業担当者のメモや仕事の進行状況を記したノートなど、仕事で使われているものです。これらを重視するのは、取引先などと共謀しない限り偽装することが難しいからです。

 税務調査は、2、3日で終了することがほとんどです。というのも、時間をかけていたら調査件数がこなせないからです。表立ってはいませんが、調査官にはいくつかのノルマがあります。中でももっとも優先的に果たさなければならないのが調査件数です。ノルマを果たせなくても首にはなりませんが、無能呼ばわりされることは事実です。

 税務署レベルの調査官の場合、1週間で1件程度とされますが、1週間のうちに、調査の準備、企業での実地調査、取引先への反面調査(調査対象企業と取引している得意先や支払先、あるいは銀行などに対して行なう調査)、調書の作成まで、すべてをこなさなくてはなりません。私が国税にいた頃、一件あたりにかける調査日数が年々少なくなっていました。年間のノルマが増えていったからです。その傾向は現在も続いているようで、現役調査官は頭を悩ませているようです。また、追徴税額は年度別に集計され、評価の対象となっていました。追徴課税を多く取ってきた人ほど出世しています。


●脱税の手口と見破り方

 税金逃れの手口はいろいろですが、その方法と税務調査官がどう見抜くのか、以下にいくつか例を挙げてお話していくことにしましょう。

1)領収証の改ざん

 脱税で、昔からよくあるパターンは領収証を工作することです。

 領収証は、その取引があったかどうかを判断できる証拠になります。そして、領収証があれば帳簿上はその金額を経費とできるため、偽の領収証を使って脱税する手口が非常に多いのです。

 領収証の工作方法には「改ざん」と「偽造」の2パターンあります。

 改ざんは、白紙の領収証をもらって好きな金額を書き込むか、あるいは、領収証の数字を書き換えて水増しします。たとえば、「1」を「9」、「3」を「8」に書き換えたり、桁数を増やしたりするといった具合です。

 しかし、改ざんしても、領収証をパラパラと見ればおかしいと気付きますし、領収証の発行元に記載内容の確認を行なえば、すぐにばれてしまいます。

 一方、偽造は、単純な手口では市販されている領収証を買ってきて、架空の業者などの領収証を作るといったものがあります。

 悪質なものになると、偽の領収証を闇業者から買う方法があります。この場合、幽霊会社や倒産した会社名義のものなので、税務署が調べかね、黒と判断できないことが多いのは事実です。

 しかし、税務署は、日頃から偽の領収証を販売している業者の検挙に全力をあげています。その業者が捕まれば、業者から領収証を買っていた人は一網打尽となるでしょう。

2)架空人件費を使った脱税

 本当は雇っていない人を雇っているように見せかけたり、架空の人物を仕立て上げて雇っているように見せかけたり、人件費を実際よりも多く払ったように偽装する方法です。

 これも昔から多い手口なのですが、現在では、従業員を雇った場合、従業員の住所、氏名、給与額等を役所に提出しなければなりません。ですから、架空の人物を雇ったようにした場合、税務署がその人物の所在などを確認すれば分かってしまいます。また、人件費の水増しをしても、社会保険の面などから調べれば、簡単に発覚します。

 中には人件費を水増しした額で、社会保険料や源泉徴収料を支払って逃れようと考える人もいますが、お金がかかるだけで、賢い方法とは思えません。

 ただし、調査官が頭を悩ませる手口があります。アルバイトなど、社会保険の加入義務がない人を雇ったように見せかけて脱税する方法です。住所や氏名等を役所に提出する必要がないので、その人物を特定することが難しいのです。家族でやっているような小さな会社では、中高生の自分の子供をアルバイトで雇ったことにして、その分の人件費を偽装する例がよく見られます。本当にその人が働いていたかどうかを確認するには、他の従業員や関係者に聞き取り調査などをするしか手がなく、とくに家族経営の会社の場合、口裏を合わせることが容易なため、脱税の発覚に至らないことが多いのです。

3)仕入も隠す高等な脱税

 個人商店や飲食店など、現金商売をするところでよく見られるのが、売上を「抜く」という脱税行為です。しかし、売上にはそれに対応する仕入があり、仕入先をチェックされれば、簡単にばれてしまいます。

 そこで、知恵のある人は、売上を隠すとともに、抜いた分の売上に対応する「仕入」も隠します。たとえば、洋品店の経営者が、毎日の売上から数十着分の売上を抜いていたら、税務調査で、仕入れた服の数と売上数を付き合わせると、仕入の数の方が多くなります。この仕入の余った分はどこに行ったのか追及されれば、簡単に脱税が見付かってしまうのです。

 ところが、抜いた売上分だけ、仕入れた服の数も減らして帳簿に付けていると、税務署が仕入の数から売上を調べても脱税は発覚しません。

 ただし、このいわゆる「両抜き」は、売上除外で利益を減らせるとともに、仕入除外で経費も減ってしまいます。つまり、脱税できる金額が少なくなってしまうということです。たとえば、服1着が5000円なら、1着の売上を隠せば5000円分の所得を脱税できますが、仕入も隠すとなると、その服の仕入が3000円だとしたら、差引き2000円の所得をごまかせるに過ぎないのです。

 この脱税方法は、調査官が客として商品を買い、その商品がきちんと売上に計上されているかを調べることで見破ります。また、仕入先を調べて、納品数と帳簿上の仕入数を付き合わせることによっても発覚します。

4)通常外の取引を隠す脱税

 通常の取引先以外の取引はばれないだろうと思う人が多いのか、遠隔地や単発の取引を隠す脱税も少なくありません。

 遠隔地での取引を隠す脱税は、とくに日頃近隣での取引しかしていない事業者によく見られます。しかし、国税は全国の取引状況の情報を集めてそれぞれの税務署に流しているため、取引をしたかのように見せかけてもすぐにばれてしまいます。

 また、一度だけの取引といえ、前述したように、税務署は年中あらゆる取引において情報を集めているので、1回でも100回でも見つかる確率は変わりません。

5)在庫を少なく見せかける脱税

 脱税は、売上を隠すか、経費をでっち上げるかがほとんどなのですが、このほか、期末の在庫を少なく見せかけるという方法があります。利益が少なく計上され、その分、かかってくる税金が少なくなるからです。

 その具体的方法としては、期末の卸棚表を書き換えるか、破棄して実際よりも少ない在庫量を帳簿に記載するということが多いのですが、仕入と在庫の関係を丹念にチェックすれば、すぐに不正は発覚してしまいます。

◇     ◇

 いかがでしたか? 結局、どんな手法を使っても、調査官はあの手この手で見抜いてしまうということが分かっていただけたのではないでしょうか。

 経理担当者が一番やってはいけないのは、ごまかしのきかないことをすることです。金額などの数字を書き換えるなど、どんな小さなことでも見つかると不正の対象になり、重加算税が課されます。

 金銭面でリスクを負うだけではありません。会社の信用を失うことにもなりかねませんので、帳簿をつけていてお金がどうしても合わないというときは、経理ウーマン読者のみなさんに限ってはないと思いますが、何かの経費に使ったように細工しようと考えず、現金過不足か雑損で処理するようにしましょう。

 
税務調査の種類

 「税務調査」と呼ばれるものには、次の2つがあります。

1)任意調査
 一般にいう「税務調査」とは、この任意調査を指します。事前(約1週間前)に連絡を入れ、同意を得てから行なうもので、調査官1~2名で、2~3日かけて調査を行ないます。

2)強制調査
 多額の税金を巧妙な手口で隠すといった不正が発覚した場合、国税局の査察部、いわゆるマルサに所属する調査官が、裁判所の令状のもと、調査を行ないます。
 

 
税務調査を行なうのは?

1)国税局(主に大規模法人が対象)
 課税部・調査部・査察部に分かれ、国税庁の指導、監督のもと、原則として資本金1億円以上の法人や外国法人、悪質な脱税の摘発、取締りを行ないます。

2)税務署(小さな会社から大きな会社まで)
・個人課税部門:譲渡を除く個人の申告所得税や消費税等の指導・調査を行ないます。
・法人課税部門:法人税・源泉所得税・法人の消費税等の指導・調査を行ないます。
・資産課税部門:個人の譲渡所得税・相続税・贈与税の指導・調査、財産評価を行ないます。
・管理徴収部門:納税の管理・納税証明書の発行・滞納の整理を行ないます。
 

 
まだまだある「税務調査」ウラ話

その1 調査当日は調査官も緊張している

 税務調査が入るとなると、悪いことをしていなくても緊張することでしょう。でも実は、調査官も緊張しているのです。というのも、自分たちが「招かざる客」ということを肌で感じ、会社全体から見張られているような気がするからです。そのため、中小企業において接待費を認めるか認めないかは調査官の考え方次第なのですが、相手企業の担当者に優しくされると、大目に見てしまうこともあるのです。

その2 出される昼食で分かる納税者の気持ち

 調査先で昼食を用意してくれることもあります。気持ちはありがたいのですが、調査官はランチタイムくらい敵地から離れてリラックスしたいと思っているのが本音です。

 ところで、納税者の気持ちが伺えると思うことがあります。追徴税額が増えていくごとに、初日は近所のお弁当だったのに、2日目は寿司、3日目はうな重というように豪華になっていくのです。

 ちなみに、昼食代は置いていく決まりになっており、ほとんどの調査官が実行しているはずです。どんな豪華な昼食を出してくれたからといって、調査の手を緩めることはありません。念のため。

その3 調査官が苦手な税理士とは?

 ズバリOB税理士、国税を退職して税理士になった人です。ついこの間まで一緒に仕事をしていたような先輩と真剣に渡り合えるはずはありません。しかもOB税理士にご馳走になったことがある調査官がほとんどで、OB税理士もそこに付け込んで便宜を図らせようとするのです。

 OB税理士は、調査官が「不正」を取りたいということを知っています。そこで、税務調査でははっきり不正とはいいがたい曖昧なものが多くある場合、OB税理士は、それを不正と認める代わりに、総額の追徴課税を安くさせるなど、取引を仕掛けてきたりします。

 また、OB税理士の中には、人脈を駆使して税務調査に圧力を加える人もいます。自分の後輩である国税の幹部に調査をやめるよう働きかけるのです。ただ、露骨に「調査をやめろ」とはいえないので、「今、若い調査官が顧問先に来ているが態度が悪い。どういう教育をしているのだ」というように抗議の形を取ります。国税幹部の命令は絶対なものなので、調査官は、泣く泣く調査を縮小するか、打ち切らなければならなくなるのです。
 

〔月刊 経理WOMAN〕