消費税の総額表示
   
作成日:05/23/2003
提供元:月刊 経理WOMAN
  


契約書の金額表示はどうなる?
領収書はどうする?
「消費税の総額表示」
にまつわるあなたの疑問に答えます




 平成15年度税制改正により、平成16年4月1日以降、商品の販売やサービスの提供にあたって、その価格を「消費税を含めた総額」で表示することが義務付けられます。

 この表示の注意点として、「事業者間で取引する際の価格や、取引後に交わされる請求書や領収書は総額表示義務の対象にはならない(現在のままでOK)」などがあげられますが、このことを把握していないために“すべての金額を総額表示にしなければならない”と誤解している人が意外と多いようです。

 ここでは、今回の改正点を踏まえた消費税の総額表示に関するポイントや注意点をアドバイスします。




 たとえば、本体価格(いわゆる“税抜き価格”)が1万円のワンピースは、今回の改正によってどのように表示すればよいのでしょうか?
 この「表示方法の例」で、考えられる表示方法を検証してみましょう(表示方法が多いことに驚きましたか?)。

表示方法の例

(1)

10,500円(本体価格:10,000円、消費税等:500円)

(2)

10,500円(うち消費税等:500円)

(3)

10,500円(本体価格:10,000円)

(4)

10,500円(税込み)

(5)

10,500円

(6)

10,000円(税込み:10,500円)

(7)

本体価格10,000円+消費税等500円

 果たして、これらの表示方法はすべて認められるのでしょうか?
 答えは、今回の改正された消費税法の条文から確認していくことにしましょう。



 ここでご紹介するのは、「消費税法第63条の2(価格の表示)」です。
 消費税法に限らず、法律の条文というのはなぜかカッコ書きが多くて、慣れないと大変読みづらいものです。
 今回は、意味が変わらない程度に条文を省略して紹介することにしましょう。がんばって一読してみてください。

 事業者(消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合(専ら他の事業者に課税資産の譲渡等を行う場合を除く。)において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産または役務の価格を表示するときは、当該資産または役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。

 カッコ書きを一部省略して読みやすくしたのですが、理解できたでしょうか? 分かりづらい場合は、太字部分のみを読んでみてください。意味は十分に通じるはずです。

 不特定多数の者にあらかじめ価格を表示するときは、消費税額を含めた価格を表示しなければならない。

 そこで、前述の「表示方法の例」を見直してみましょう。正しくないものが一つだけ混じっています。

 みなさんはすでにお気付きですね? (7)だけが、消費税額を含めた価格を表示していません。
 つまり、平成16年4月1日からは、(7)のような表示方法は認められないので注意が必要だということです。



 総額表示の種類が分かったところで、今度は「どのような場合に総額表示しなければならないのか?」を考えていくことにしましょう。

 総額表示が必要かどうかは、次の四つのポイントを判断基準にしてください。四つのポイントすべてに該当する場合のみ、消費税の総額表示の対象となります。

(1)自社が課税事業者

 基準期間の課税売上高が3000万円(改正により、平成16年4月1日以降は1000万円となります)を超える会社のことを指します。

(2)不特定多数の者に対して価格を明示するもの

 価格を明示する相手が、あらかじめ特定されていないことを指します。

(3)取引を行なう前から、あらかじめ価格を明示するもの

 相手がいてもいなくても、取引を行なう前から価格を表示しておくことを指します。

(4)事業者間取引ではない

 一般消費者を相手にする商売のことを指します。

 それでは、次のものが総額表示の対象になるかどうか、検討してみることにしましょう。

(A)見積書、請求書、領収書

 これらは、特定の者からの依頼により作成する書類ですから、前述(2)に該当しません。よって、総額表示の対象にはなりません。

(B)パンフレット、カタログ、チラシ

 これらの書類は、一般消費者向けのものか、事業者向けのものかで取扱いが変わってきます。
 一般消費者向けの場合は、前述(2)~(4)のすべてに該当するため、自社が課税事業者であれば総額表示の対象となります。
 一方、事業者向けの場合は、前述(2)および(4)に該当しないため、総額表示の対象とはなりません。

(C)ホームページ

 (B)同様に、一般消費者向けのものか、事業者向けのものかで判断します。

(D)メニュー

 飲食店におけるメニューは、前述(2)~(4)のすべてに該当するため、自社が課税事業者であれば総額表示の対象となります。
 ちなみに、ホテルや高級レストラン、クラブなどでは「サービス料」なるものがかかる場合があります。一般的にこの「サービス料」は、本体価格に対して徴収され、その合計額に消費税がかかるしくみになっています。
 今回の改正後、サービス料の表示については、たとえばメニューの欄外に「このほかに別途サービス料がかかります」などと明示しておけば問題ないようです。



 最後に、経理担当者として今から準備しておくことをアドバイスしましょう。

●経理責任者やシステム担当者に今回の改正点を説明する

 まずは、経理の責任者に(中小企業の場合は、できれば社長にも)今回の改正点をよく説明しておきましょう。同時に、価格表示に関わるシステムの担当者にも改正点を説明しておく必要があります。
 理由は、レジスターをはじめとした汎用品や自社開発したオリジナルシステム、それらに応じた書類の変更が必要となる場合があるためです。

●新しい規則やルールを作成する

 各種システムや書類を変更する場合には、見積書・請求書・領収書のフォームや、会計伝票・商品価格での「標準の表示方法」を決める(前述「表示方法の例」(1)~(6)のうち、どの表示方法を採用するか)など、新しい規則やルールを作成しておくとよいでしょう。

その他の改正点

 今回の消費税法改正では、総額表示の義務付け以外に、次の改正がありました。

◎免税点の引下げ

 今まで基準期間における課税売上高が3000万円以下だった会社は、「免税事業者」といい、消費税を納める必要がありませんでした。
 今回の改正で、そのラインが1000万円以下に引き下げられます。つまり、2年前(基準期間)の課税売上高が1000万円を超えていると消費税を納めなくてはならなくなりました。ラインを超えている場合は、所定の時期までに消費税の届出書(「課税事業者の届出書」等)の提出を忘れないようにしましょう。

◎簡易課税制度の適用上限の引下げ

 今までは、基準期間における課税売上高が2億円以下の会社は「簡易課税」という制度を選択することができました。
 今回の改正で、そのラインが5000万円以下に引き下げられます。2年前(基準期間)の課税売上高が5000万円を超えていると、届出書を提出していなくても自動的に「原則課税」に切り替わりますので注意が必要です。

注意:これらの改正時期は、平成16年4月1日以後に開始される課税期間からです。

〔月刊 経理WOMAN〕