このページはインラインフレーム対応のブラウザでご覧下さい。
毎月の「試算表」─ここをチェックすれば現状が見えてくる
作成日:
11/20/2007
提供元:
月刊 経理WOMAN
毎月の「試算表」
─ここをチェックすれば現状が見えてくる
試算表の作成は、経理担当者にとって欠かせない業務です。しかし、試算表を単に仕事として、義務的に作っているのではおもしろくありません。せっかく作るのですから、これを活用し、会社の現状や問題点を分析してみてはどうでしょう。こうした視点を持てば、毎月の試算表作りが楽しくなるはずです。
◆試算表って何?
そもそも試算表とは、毎日の記帳(伝票あるいは仕訳帳)から、総勘定元帳への転記を検証するために作成されるものです。各勘定残高を一覧にし、借方・貸方の不一致がないか確認するために用いるため、経理処理の過程上、必要不可欠な作業になるわけです。
現在は、ほとんどの会社で会計ソフトを利用されていると思いますので、転記の検証としての側面は薄れているのかも知れませんが、だからといって試算表の作成意義がないわけではありません。
それは、試算表が「会社の経済活動を一定のルールにもとづき数値化した集計表」である点にあります。毎月作成される月次試算表は、速やかに会社の実体を数字で把握することのできる有効な資料なのです。
そこで、ここでは月次試算表を上手に活用し、かつ作るのが楽しくなる試算表の「作り方・見方」について紹介していきたいと思います。
※「試算表」については、一般に多く使用されている「合計残高試算表」を前提とさせていただきます。
◆試算表から何が見えるのか
試算表はみなさんも頻繁に目にしていると思いますが、どのような視点で見ているでしょうか。
たとえば請求書等から売上の仕訳を入力している場合に、請求書等の合計と試算表の売上高科目の合計を突合する、あるいは通帳の預金残高と普通預金科目の残高を突合するといったチェックとしての視点があります(=既存情報との整合)。
毎月の仕訳が問題なく一致しているのは、経理担当者にとってうれしいものです。このような場合には、もととなる資料と試算表の数値とを照らし合わせ、整合していれば「済」、「○合」などとチェックしていくと良いのではないでしょうか。
また別の視点としては、会社にとって必要な数値(情報)を抽出し、会社の経営状態の把握、そこから派生して経営判断へ活用していく視点が考えられます(有益情報への転化)。
会社にとって有益な情報として活用したいと考えれば、試算表からどのような情報を引き出せるのか、どのように見ることができるのか、という点に留意しなければなりません。
そこで、一般的な試算表からどのような数値が出ているのかを確認しましょう。
一般的な会計ソフトを用いて試算表を作成する場合、図表のような形で試算表を出力(あるいは表示)することができます。
図表 合計残高試算表
通常、科目が一覧で並び、それぞれ「前月残高」欄、「借方」欄、「貸方」欄、「残高」欄に各数値が表示されます。
「前月残高」は前月末における各科目の残高が、「借方」および「貸方」には各科目の期中(当月)仕訳の合計額が、そして「残高」には当月における残高が表示される仕組みです。
したがって、期中の取引により各科目がどのように変動しているか、その結果としての残高はどの程度あるのかを、まずは確認するようにしましょう。
各科目の数値を確認したら、有益な情報として活用するために、次のポイントに注目します。
1)ポイントとなる数値のチェック
2)比率(構成比)のチェック
◆ポイントとなる数値のチェック
試算表をチェックする際に、会社の情報として「必ず見るべき数値=チェックポイント」をあらかじめ決めておきましょう。
試算表のすべての数値について細かいチェックを行なうのであれば、膨大な時間が必要ですが、会社の状況を大まかに把握できれば良い場合であれば、ポイントとなる箇所に絞って見た方が状況をコンパクトに整理することができます。
チェックポイントは業種・業態などによって異なりますが、一般的なものでは、貸借対照表項目、損益計算書項目それぞれ次のような点になります。
●貸借対照表項目
一般的には、売掛金、買掛金、手形の各科目や現預金科目などが通常チェックすべき科目になります。これらは、資金繰りの観点から、あるいは債権・債務管理の観点から、常に注意したい数値です。また、借入金が多い会社の場合には借入金科目のチェックは欠かせません。従業員が多く、源泉税・社会保険などの預り金が多額になる会社であれば預り金もチェックポイントとして重要です。
基本的には、総資産に占める割合の高い科目(金額の大きい科目)についてはチェックポイントとして考えてみましょう。
チェックする際には、月末の残高が正常であるかだけでなく、当月中の推移、つまり借方合計額、貸方合計額を見る必要があります。
このような視点で見ることにより、たとえば、売掛金の残高だけでなく、月中にどれだけ発生したか(借方)、どれだけ回収したか(貸方)を把握することが可能になります。これが借入金の場合であれば、予定通り返済されているか(借方)、借入額は適正であるか(貸方)の判断に繋がることで、有益な情報として活用できるわけです。
チェックしたい項目
1)現預金科目
2)売掛金・買掛金科目
3)受取手形・支払手形科目
4)借入金科目(付随する支払利息)
5)その他金額の大きい科目
●損益計算書項目
損益計算書項目としては、まず売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益をチェックすることが重要です。利益が出ているか、また目標となる利益を上げているかという確認は必ず行なう必要があります。
次に、売上高は目標を達成しているか、仕入などの原価科目は売上高に対して適正かをチェックしましょう。
また、経費のうちに人件費の占める割合の多い会社であれば、給与・賃金科目を見ることが欠かせません。あるいは外注の多い会社であれば、外注費科目のチェックは当然欠かせなくなります。
基本的にこれらをチェックするポイントとしては、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益の各利益額を構成する収益・費用について、各利益額に大きく影響を与えるものを中心に見ていきます。
売上から原価を差引いたものが売上総利益であり、そこから給料などの販売費及び一般管理費を差し引いた結果が営業利益となります。したがって、販売費及び一般管理費のうち、金額の大きい科目があれば、それは営業利益に影響を与える注目したいポイントとなるわけです。
また、支払利息や有価証券の取引損益などが大きい場合には、経常利益に影響を及ぼしますので、これもチェックポイントとなるでしょう。
その他、貸借対照表項目と同様に、売上高に占める割合の高い科目(金額の大きい科目)についてはチェック項目とした方が良いでしょう。
チェックしたい項目
1)売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益
2)売上高、仕入等の原価科目
3)その他金額の大きい科目
前述しましたが、どの科目が試算表に大きな影響を及ぼすものかは会社によって異なります。
その会社にとって、どの数値をチェックするべきなのか、まずはそのルールを決める必要があります。
◆比率のチェック
試算表には、金額以外の情報も含まれています。それが各科目の比率です。
比率というと難しい印象もありますが、会計ソフトを使用している場合、試算表を見るだけで簡単に分かるものもあります。また、会計ソフトを使用していなくても、簡単に計算できるものが多いですので、併せて紹介しておきましょう。
ではまず、上記の図表を見てください。ここでは、科目、金額の他に「比率」が出ているのが分かります。これは、貸借対照表科目であれば総資産に対する割合が、損益計算書であれば売上高に対する割合が表示されているのが一般的です。
したがって、貸借対照表項目であれば、現預金の残高が総資産の何%であるのか、損益計算書であれば、経常利益が何%であるのかなど一目で判明するわけです。
その中で、実務において比較的多く用いる比率は次のとおりとなります。
1)自己資本比率…「自己資本(純資産)÷総資産」
総資産に占める純資産額の割合です。自己資本比率が高ければ、会社の内部留保が充実していることを示しています。試算表の純資産合計額の比率がそれにあたります。
2)流動比率…「流動資産÷流動負債」
流動資産と流動負債の関係比率です。短期的な支払い(流動負債)を短期に現金化する資産(流動資産)でどれだけカバーできているかを見ることができます。試算表では流動資産合計額の比率と、流動負債合計額の比率をくらべることにより、ある程度判断できます。
3)固定比率…「固定資産÷自己資本(純資産)」
固定資産はすぐに売却(現金化)しないものですので、返済の必要ない自己資本によってどれだけ調達しているか見ることができます。
4)売上総利益率…「売上総利益÷売上高」
粗利がどれだけあるのか端的に示す指標です。試算表の売上総利益の比率がそれを表わしています。売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いたものですので、「100%-売上総利益率」は原価率となります。
5)営業利益率…「営業利益÷売上高」
売上高から原価と販売費及び一般管理費を控除した利益(営業利益)の売上高に占める割合であり、営業活動によってどれだけの利益を上げているかを示しています。試算表の営業利益の比率です。
6)経常利益率…「経常利益÷売上高」
会社の通常の経営活動による利益(経常利益)の売上高に占める割合を表わしています。試算表の経常利益の比率です。
7)ROA…「当期純利益÷総資産」
会社のすべての資産からどれだけの利益を上げたかを示しています。比率が高ければ効率的に利益を計上していることになります。試算表から判明する当期純利益及び総資産の金額で確認しましょう。
8)ROE…「当期純利益÷自己資本(純資産)」
会社の自己資本からどれだけの利益を上げているか示します。ROAと似ていますが自己資本をどれだけ効率的に稼いでいるかという指標です。
9)人件費率…「人件費÷売上高」
売上に対して、どれだけ人件費が発生しているかを示します。試算表の給与等(賞与や法定福利費、福利厚生費を含む)の比率になりますが、売上原価の中にも人件費が含まれている場合には、その部分も考慮しましょう。
これらの比率を、毎月の月次試算表作成時に確認していくことにより、会社の状況が速やかに把握できることになります。
会社の状況を把握することにより、たとえば、年間の計画を達成できるペースなのか、どの経費を削減すべきなのかなど、経営上の諸問題について、早めの対処が可能となるわけです。
このように月次試算表は、会社にとって魅力ある資料です。それを効果的に活用するため、どの数値が、またはどの比率が、その会社にとって有益であるのか選定しておくことをおすすめします。
また、数値、比率の目標値をあらかじめ設定し、その目標値を達成しているかどうか、常にチェックするようにしましょう。
会社でチェックポイントとなる数値、比率をルール化、目標化するとともに、チェックリストなどを用いてチェックした項目を記録していくことも効果的ですので、ぜひご活用ください。
◇ ◇
経理は、毎年同じことを繰り返して行なう業務です。そのため、何年も続けているとどうしても惰性で仕事をしてしまいがちです。
しかし、ポイントを抑えて仕事を楽しくすることができれば、常に新鮮なよろこびを持って業務に携わることができるのではないでしょうか。
〔月刊 経理WOMAN〕