「役員給与の損金不算入」のことが分かるQ&A
   
作成日:08/29/2007
提供元:月刊 経理WOMAN
  


もう一度仕組みと影響をおさらいしておこう
「役員給与の損金不算入」のことが分かるQ&A




 平成18年度税制改正で「同族会社の役員報酬の一部損金不算入」の制度が取り入れられました。その内容は、「同族関係者が90%以上の株式を所有」し、「常務に従事する役員の過半数が同族」の場合に、その業務を主宰する役員報酬(社長報酬)の「給与所得控除相当額」が損金にならないというものです。ここではこの「役員給与の損金不算入」についてQ&A形式で分かりやすく解説していくことにしましょう。

 平成18年4月1日以降に開始する事業年度から、会社が社長に支払う給料の一部について、会社の損金(=経費)として認められないことになりました。

 この制度を「役員給与の損金不算入」制度といいます。対象になるのは、いくつかの条件に該当する会社です。

 損金として認められない金額は、社長の年収により異なりますが、年収の15%~30%程度です。

 「社長の給料なんて、私たちには関係ないじゃない」なんて声も聞こえそうですが、損金にならないと会社が払う税金が多くなります。となると、会社の資金繰りが悪くなり、みなさんのお給料の昇給原資なども少なくなってしまいます。

 多くの場合、税金計算は顧問税理士がやることになりますが、経理担当者としても最低限のことを知っていただきたいと思います。

 ややこしい制度ですので、まず制度の概要を大づかみに理解していただき、みなさんの会社が該当するかどうかを、ぜひチェックしてください。



「役員給与の損金不算入」とはどういう制度ですか?


 まずは制度の概要から説明しておきましょう。

 この制度は、会社が社長に支払う給料のうち「給与所得控除」に相当する金額は、会社の損金(=経費)として認めない、というものです。損金にならない部分は、法人税等の課税対象になります。

 図表1は、この制度の概要を示したものです。図表中の「給与所得控除」とは、個人の税金を計算する際に給料から差し引ける、みなし経費のことです。

図表1


 給料をもらっている人なら、役員、社員、パート、アルバイト、だれでも認められており、年収により差し引ける金額は異なります。年収に応じた給与所得控除は、たとえば図表2のようになります。

図表2



この制度が取り入れられた背景には何があるのですか?


 平成18年5月より施行された「会社法」により、資本金の規制がなくなり、資本金1円でも会社ができるようになりました。資本金とは、会社を設立するときに最初に株主が会社に出資するお金のことですが、その規制がなくなり、手持ち資金があまりない人でも手軽に会社がつくれるようになったわけです。

 ちなみに、それまでは、原則として株式会社の資本金は1000万円以上、有限会社の資本金は300万円以上でした(会社法により、有限会社の設立が新たにできなくなりました)。

 一方、個人事業で仕事をやっている人が、会社をつくって会社から自分(=社長)に給料を支払うと、「給与所得控除」がとれるため大きな節税になります。

 資本金1円でも会社ができるようになり、これからは、「団塊の世代」の定年後の起業、若い世代の起業など、「ひとまず会社をつくってみよう」という人たちが増えてくることが予想されます。

 国の側から見ると、会社ばかり増えると、これから税収が減ってしまう恐れがあります。そこで、節税目当ての会社設立をシャットアウトするという目的で、「役員給与の損金不算入」の制度が新たにできました。

 といっても、起業して当初の儲からないうちは、この制度の適用を受けることはまずありません。やっと儲かって社長の給料を引き上げた頃にこの増税となると、起業した人たちのモチベーションが下がってしまわないか少し心配になります。



対象となる会社にとってどんな影響がありますか?


 法人税等の税金は、会社の課税所得(=儲け)に対して約40%かかります。

 社長の年収に応じた増税額は、図表3の通りです。年収900万円で84万円増税、10年間では840万円の増税になりますので、対象になる会社は大きな影響を受けることになります。

図表3



対象になる会社はどんな会社ですか?


 この「役員給与の損金不算入」制度は、すべての会社に適用があるわけではありません。図表4のフローチャートをご覧ください。

図表4


 矢印がすべて下に流れると、適用対象になります。

 所得金額は毎年変動しますので、同じ会社でも、ある年度は適用があっても、翌年度では適用がない、ということがあります。

 また、株式の移動や役員変更により、適用の有無が変動することもあります。

 念のため、図表4で使われている用語の説明をしておきましょう。


●議決権株式

 会社の株主総会で、議決権がある株式のことです。

 議決権とは、役員の選出、役員報酬の決定、重要な会社の資産の処分、配当の支払い、などについて、YESかNOかを決める投票権のことです。

 会社によっては、まれに「配当優先株」といって、配当を多めにもらえる権利がある代わりに議決権がない株式もありますが、通常は、1株について1個の議決権を有するケースがほとんどです。

 したがって、通常の会社では、「議決権株式を90%以上保有」とは、「株式を90%以上保有」となります。


●常務に従事する役員

 この制度で、はじめて「常務に従事する役員」という言葉が定められました。これは、常勤役員という意味合いに近いものです。

 名前だけを借りて実際はほとんど出社しないような役員は、「常務に従事する」とはいえません。また監査役は、そもそも会社の運営に関する業務を行なう役員ではないので、「常務に従事する」とはなりません。

 その他、「使用人兼務役員」といって、取締役営業部長や取締役工場長など、使用人(=社員)と役員を兼ねた役員は、経営に関する業務を常に行なっている場合に限り、「常務に従事する」ことになります。


●過半数

 半数を超えることをいいます。

 3人のうち2人なら半数を超えるので、過半数となりますが、4人のうち2人はちょうど半数なので、過半数とはなりません。

 フローチャートの上から三つめの、「社長及び同族関係者が常務に従事する役員の過半数を占有」するとは、取締役が3人なら、そのうち2人ないし3人が、社長一族で占められている状況をいいます。


●前3年基準の所得金額

 これは、前期以前3年間の「社長の給料」と「会社の課税所得」の合計の平均額のことです。

 課税所得とは、決算書の「当期純利益」に税務調整を加えた後の金額のことで、法人税申告書の「別表四」の「総額」に記載があります。法人税申告書を見ることができる人は、実際に確認してみてください。

 当初はこの金額が、800万円基準とハードルが低く、対象となる会社がたくさん出てしまったのですが、その後は1600万円基準になり、要件が緩和されました。



増税を避ける方法はありますか?

 この制度が適用されると、会社が余計に税金を納めることになりますので、できれば避けたいところです。

 図表4のフローチャートで、右側の「適用なし」になればいいのですが、現状で適用となる会社が、将来、適用除外となるためにはどうしたら良いのか考えてみましょう。


1)持株基準

 会社の株式にすべて議決権があることが前提となりますが、株式のうち10%を超えて「社長及び同族関係者」以外の他人が保有すれば、フローチャートの右側になり、永遠にこの制度の適用は受けないことになります。

 同族関係者とは、社長の親族などになります。親族は「六親等内の血族と三親等内の姻族」となりますが、一般的な親戚はすべて含まれます。したがって、他人や他の会社に10%を超えて株式を持ってもらえばよいことになります。

 ただし、株式を保有するとは、株主になることで、会社に対して発言権を持つことになります。

 保有してもらう相手はだれでも良いというわけにはいきません。たとえば、会社の社員に保有してもらい、配当を毎期定期的に支払うことが一つの手です。「社員持ち株会」をつくって、将来の会社退職時には、当初購入の額面で買い戻すなどと決めておくことがよいでしょう。

 さらに、取引関係が密接な、取引先に保有してもらうことも考えられます。 ただし、これら株式を保有してもらうことを課税逃れで行なうことは、認められないことになっています。

 保有者の移動の理由や名義株式ではないことを、説明できるようにしておくことが大切です。


2)役員基準

 また、「常務に従事する役員」のうち半数を社長一族以外の他人になってもらうことも、結果的に増税を避けることになります。

 取締役の人数は、以前の商法では3名以上必要でしたが、会社法の制定により、1名でも可能となりました。したがって、取締役が2名の会社の場合、2名のうち1名他人が取締役になれば、適用にならないことになります。

 といっても、役員になればその人の会社経営への発言力は増しますので、増税を逃れるために、他人を取締役にした結果、会社経営に支障をきたすようでは本末転倒となってしまいます。

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 みなさんはこの複雑な制度の概要をまず理解して、さらに、法人税申告書を見ることができる立場であれば、自社が該当するかどうかをチェックしてみてください。


〔月刊 経理WOMAN〕