税金の分割払い
   
作成日:07/30/2004
提供元:月刊 経理WOMAN
  


ない袖は振れない…そんな会社はこうしてみては?
「税金の分割払い」
を税務署に交渉するときのテクニック




 決算を終えて納税しようと思ったら手元に資金がない。税務調査で修正申告したけれど、現金がなくて払えそうにない。そんなときは、税務署と交渉して税金を分割・延納するという方法があります。

 そこでここでは、「税金の分割払い」の基礎知識とテクニツクについて分かりやすく解説します。

税金の滞納は意外と多い!?

 みなさんご存知のとおり、「納税」は国民の義務であり、申告納税方式をとっている法人税や所得税、及び相続税などは、申告期限=納税期限です。したがって、この納税期限を守らなければ、ペナルティとして「延滞税」や「加算税」などを余分に納付しなくてはならなくなります。しかし、いざ納税する段になったら納税資金がないというケースは意外とよくあるようです。

 国税庁がまとめた平成14年度の滞納状況を見ると、源泉所得税が5878億円、所得税が8633億円、消費税が1兆1525億円など、各税目にわたって結構な金額が滞納されていることが分かります。とくに、消費税の滞納金額が大きく、消費税は利益と無関係に取引の際に発生し、会社の運転資金の中に組み込まれてしまうことが少なくないため、納税分の資金をあらかじめ予想して管理しておかないと、納税できないという事態に陥ってしまいがちです。

 また、経理上で利益が出ていても、実際の資金がないというのもよくあることです。いうまでもありませんが、実務では会社の利益(所得)=資金にはならないからです。

 たとえば、現実の経理は発生主義で行なわれているため、売り上げて未回収となっている資金があっても利益となってしまいます。また、商品を仕入れてその代金を支払ったとしても、決算期末にその商品が在庫となっている場合には、在庫分だけ売上原価が小さくなりますから、利益の額は変わってきてしまいます。

 このような実務の世界で、どうしても資金がなくて納税できなくなってしまった場合に検討したいのが、税金を分割払いするという方法です。


各税金の納期限と附帯税

 まず、各税金の納期限と附帯税について確認しておきましょう。

 附帯税とは、納税者が申告期限までに申告書を提出していなかったり、納期限までに納税していない、または納税額が足りなかったりしたときに、本来納めるべき税金の他に課せられるものをいいます。


延滞税

納期限までに完納しなかった場合、滞納税額について年14.6%(ただし、納期限の翌日から2ヵ月を経過する日までは年7.3%、または特例基準割合)

利子税

延納の適用を受けたとき、延納税額について年7.3%、または特例基準割合

過少申告加算税

期限内に申告書の提出があった場合で、その申告が過少のとき、増差税額について原則として10%

無申告加算税

期限内に申告書の提出がなかった場合、増差税額について原則として15%

不納付加算税

源泉徴収等による国税が期限内に完納されなかった場合、不納付税額について原則として10%

重加算税

隠蔽や仮装に基づき、申告しない、または過少に申告した場合、増差税額について追徴額の35%~40%

●国税

 会社に関連する国税には、法人税や消費税、給与や報酬、または配当などにかかる源泉所得税があります。

1)法人税

 法人税の申告・納期限は、決算期末の翌日から2ヵ月以内となっています。この期限を過ぎると「延滞」となり、「延滞税」が発生します。

 延滞税の利率は、納期限から2ヵ月以内は7・3%ですが、3ヵ月目からは14・6%とかなりの高率です。

 また、この延滞税の利率は、本税に対して7・3%ですが、次の算式で算出した基準金利が7・3%を下回る場合には、その率とする特例があります。

基準金利=公定歩合+4%

 現在の公定歩合は、平成13年9月19日以来0・1%となっていますので、現在の2ヵ月以内の基準金利は4・1%となっています。

 ただし、定款の規定で株主総会の開催が3ヵ月以内となっている会社は、申告・納期限を1ヵ月延長することができます。ただし、この場合でも納税期限は2ヵ月以内ですので、延長した期間について「利子税(利息に相当します)」が発生します。

 この利子税の利率は、本税に対して7・3%ですが、延滞税と同様に基準金利の特例があり、現在は4・1%です。

2)消費税

 消費税は、取引に応じて取引先から預かったり、または支払ったりします。そのため、最終的に決算をして預かった消費税から支払った消費税を差し引いて税額を確定させます。なお、簡易課税方式を採用している場合には、預かった消費税の一定割合を納税します。

 消費税の納期限は、法人の場合、事業年度終了の日から2ヵ月以内です。延滞税は、法人税と同様に扱われます。

3)源泉所得税

 源泉所得税は、会社が社員から強制的に徴収することになっている税金のため、これを滞納すると延滞税のほかに「不納付加算税」が発生します。

 具体的には、法定納期限(通常は源泉徴収月の翌月10日)までに完納しなかった場合に、その税額の10%の不納付加算税が徴収されます(納付しなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、徴収されません)。

 ただし、税務署からの納税告知を予知しないで自主的に納付した場合は、5%となります。逆に、税務調査が入って納付漏れが判明した場合、税務署が納付額を決定する前に自主的に納付したとしても後の祭りで、5%には軽減されず10%となります。いずれにしろ、たった1日納税が遅れただけで、5%の不納付加算税を支払わなくてはなりません。

 法人税、消費税について予定納税義務がある場合にも、期限内に予定納税額を納付しなければ通常の決算と同様に、本税以外に延滞税が課されることになりますから、十分注意しましょう。


●地方税

 会社に関係する地方税には、法人住民税・法人事業税(これらは決算の際に発生します)のほかに、固定資産税、自動車税、事業所税などがあります。国税と同様に、納期限までに納めなければ「延滞金」が発生しますので注意しましょう。

 なお、国税の場合は「延滞税」、地方税の場合は、「延滞金」と用語を使い分けています。延滞利率はほぼ国税と同じです。

1)法人住民税・法人事業税

 法人住民税、法人事業税の申告・納期限は、法人税と同じく決算期末の翌日から2ヵ月以内となっています。

2)固定資産税

 固定資産税については、納税通知書によって市町村から納税者に対し税額が通知され、市町村の条例で定められた納期(通常は年4回)に分けて納税します。

3)自動車税

 自動車税の納期限は、基本的に5月中で、道府県の条例で定められた日までとなっています。

4)事業所税

 事業所税の納期限は、法人の場合は事業年度終了の日から2ヵ月以内、個人の場合は事業を行なった年の翌年3月15日までとなります。


附帯税に関する注意点

 通常の申告・納付時以外に、税務調査で問題を指摘された場合にも附帯税が発生します。本来の納税額より少なく申告していた場合は「過少申告加算税」、悪質な脱税行為については「重加算税」が課されます。

 また、本来の納税額より少なく申告したわけですから、その差額の納税分については延滞しているという結果となり、延滞税も課せられます。

 さらに、附帯税は、利子税を除いては損金に算入されません。したがって、納税したとしても経費とはならず、納税した年度の所得がその分だけ利益に加算される結果となってしまいます。

 ですから、なるべく延滞は避けるべきでしょう。延滞は最後の手段で、納税資金についてはなるべく金融機関と交渉した方がよいということです。金融機関への支払利息は経費になりますし、延滞税率に比べたら格段に利率が低いのです。


税金を分割払いにしてもらうための手続き

 次に、実際に税金を支払えなくなってしまった場合、会社としてどう対応したらよいか、お話していきましょう。その前に、簡単に税務署の組織について触れておきます。

 税務署は、総務課(総合窓口)、調査部門(法人税部門、所得税部門、資産税部門)、管理部門(納税状況の管理)、徴収部門(滞納整理)という組織形態になっています。

 納税者から申告がされると、管理部門で申告額と納税額をチェックし、期限が過ぎても納税がないと督促状を納税者に対して通知します。督促状が発行されると、その後の管理は徴収部門が扱うことになり、したがって、税金を延納する場合、会社は徴収部門の担当官と実際の折衝を行なうことになります。

 現在では、一般的にどのような税金でも会社の事情を考慮して分割払いに応じてもらえます。なお、「延納」という用語は、ここでいう分割払いの納税とは異なります。延納制度は、相続税・贈与税について制度として認められているもので、ほかの税金については延納制度はありません。結果的に分割払いするという意味では同じであっても、制度的に可能な相続税とは異なり、「お願い」の世界で分割払いに応じてもらうということになります。

 どうしても資金調達ができなくなってしまった場合には、まず、税務署の徴収部門を訪ねてください。その場合、申告書と本来の納税額を記載した納付書を持参するのが早いでしょう。ここで、担当官と納税計画について打ち合わせをすることになります。

 基本的には、1年以内の分割が原則となっているようです。これを超える場合には、何らかの物的担保や人的担保(保証人)が必要となり、国税局での相談という形になるようです。

 また、延滞税を含めて滞納税額が1000万円を超えると所轄税務署から国税局に管理が移り、処分の対象にもなりかねません。つまり、差し押さえという問題も出てきてしまいます。

 いずれにしても、滞納する場合には、絶対にそのまま放置せず、こちらから所轄税務署に対してアクションを起こすことが必要です。最後に、その際のポイントをあげておきましょう。

【ポイント1】
税務署の受付印のある申告書の控えを持って、徴収部門の担当官に面談を申し入れる

 このとき、事前に面会を求める電話を入れる必要はありません。徴収部門には常に担当者が在室していますので、一般の会社のようにアポイントメントを取らなくても対応してもらえます。

【ポイント2】
面談する場合には、ある程度の資金計画を立てておく

 いうまでもないことですが、お願いごとをするために面談に行くわけですから、徴収部門の担当者にきちんと説明できるように、今後の資金計画を提示できるようにしておくことが大切です。

【ポイント3】
税務署に行く場合には、1人ではなく複数で行く

 記憶違いや担当者とのいったいわないというトラブルを避けるためです。また、多勢に無勢で気持ちを強く持って交渉することもできるはずです。

【ポイント4】
分割納付案が決定した後に資金繰りがつかなくなった場合、事前に税務署担当者に連絡する

 分割納付案がまとまったら、それに基づいて納付していくことになりますが、それでも資金繰りがつかなくなった場合には、必ず事前に税務署担当者に連絡をしてください。
 とくに分割納付分について手形を切っている場合には、期日に預金口座にそれだけの資金がないと不渡りになってしまいます。不渡りになってしまうと、銀行の信用度がなくなり、経営にも多大な影響を及ぼすことになりますから、事前に申し出て折衝する努力が必要です。

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 税務署の担当官も人の子ですので、こちらの誠意を見せることによって、対応も変わってくると思います。繰り返しますが、いざというときは、放置せず、必ず税務署と交渉するようにしましょう。

〔月刊 経理WOMAN〕