「中小企業新事業活動促進法」の上手な使い方講座
   
作成日:11/22/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


信用保証の枠が増えて留保金額が免除される!?
「中小企業新事業活動促進法」の上手な使い方講座




 平成18年度の税制改正によって、同族会社の留保金課税制度の改正が行なわれました。今回の改正では適用対象となる法人の枠が広がった反面、留保控除額が増えましたので、今まで対象外だった法人が対象となったり、もともと対象であった法人の課税が軽減されることが考えられます。財務省はこの改正により、600億円程度の減税効果があると試算しています。それと引き換えに、オーナー会社の役員給与の一部損金不算入制度が創設されたという話を聞いています。

留保金課税見直しの概要

 同族会社の留保金課税制度とは何なのでしょうか。まず対象は、特定同族会社と呼ばれる代表者等の一族だけで発行済み株式総数の50%超を所有する法人です。このような法人は、利益が出ても外部株主の圧力が少ないため利益の配当をせず、利益を社内に留保してしまう傾向があります。ですから、個人所得税の課税を免れていると国は考えているわけです。

 そのため、法人が内部留保している利益の一部に課税を行なおうとするのが留保金課税で、通常の法人税に追加して課税が行なわれます。その概要は表のとおりです。



特別税率
課税留保金額
税 率
年3000万円以下の金額
10%
年3000万円超1億円以下の金額
15%
年1億円を超える金額
20%

留保控除額
項 目
改正前
改正後
1)所得基準額所得等の金額×35%所得等の金額×50%(注)
2)定額基準額年1500万円年2000万円
3)積立金基準額期末資本金×25%―期末利益積立金同左
4)自己資本基準額 自己資本比率30%に満たない場合のその満たない部分の金額(資本金1億円以下の中小法人のみ適用)
1)~4)のいずれか多い額
(注)資本金が1億円超の法人は40%

 この表だけではイメージしにくいかも知れませんが、今回の改正で留保控除額がかなり大きくなっています。一応税金のプロである私が感覚的なことを申し上げて申し訳ないのですが、従来は、税引前当期利益が3000万円を超えると留保金課税の対象となるというのが私のざっくりとした感触でしたが、今回の改正でそれが3500万円くらいに引き上げられたのかなあと思います。ですから読者のみなさんも自社の税引前利益が3500万円を超えそうなら留保金課税の心配をされた方が良いと思います。

 気を付けていただきたいのは、税法上認められている繰越欠損金がある場合でも、留保金額の計算は繰越欠損金を控除する前で行ないますので、繰越欠損金があるからといって安心してはいけないということです。通常の法人税は課税されなくても留保金課税だけが課税されるケースもあります。

 次に今回の改正によって、留保金課税が停止されていた会社の範囲が縮小されました。従来三つあった「不適用要件」から「設立後10年以内の中小企業者」、「自己資本比率(自己資本/総資産)が50%以下の中小法人」の2項目を平成18年3月31日をもって廃止とし、「中小企業新事業活動促進法の経営革新計画の承認を受けた中小企業者で経営革新のための事業を実施している」要件は、平成20年3月31日まで、2年間延長されることとなりました。

 したがって、平成18年4月1日以後に開始される事業年度において留保金課税が停止されるのは「中小企業新事業活動促進法の経営革新計画の承認を受けた中小企業者で経営革新のための事業を実施している」企業だけになりました。


中小企業新事業活動促進法とは?

 それでは「中小企業新事業活動促進法」とは何なのでしょうか?

 従来、中小企業を支援するために「中小創造法」「新事業創出促進法」「経営革新支援法」という三つの法律がありました。平成17年にこれら三つの法律が統合されて新たに制定されたのが「中小企業新事業活動促進法」です。この法律は「創業支援」「経営革新」「異分野連携支援」の三つを目的としています。

 留保金課税の適用停止に関係するのは、そのうち「経営革新」の部分です。従来の経営革新支援法から引き継がれた施策として「経営革新計画の承認」というものがあります。経営革新計画といっても、大学との共同研究や特許を取るなどというものでなくても、中小企業のちょっとした新たな取組みやアイデアでも「経営革新計画の承認」を得ることができる可能性があります。

 じつは、私の税理士事務所も旧法である経営革新支援法の時代に経営革新計画の承認を受けました。インターネットの遠隔サポートシステムを利用して顧問先企業の自計化を支援するという取組みで、自分でいうのも何ですが、そんなに大した計画ではありませんでした。ですから、みなさんの企業でもちょっとしたアイデアとやる気さえあれば承認を受けられる可能性は大いにあります。

 「経営革新計画」とは具体的な数値目標を含む、新たな取組みのビジネスプランのことです。

 新たな取組みとは次の四つに分類されます。


1)

新商品の開発又は生産

2)

新役務の開発又は提供

3)

商品の新たな生産又は販売方式の導入

4)

役務の新たな提供方式の導入、その他の新たな事業活動

 結局、どのような新しい取組みでも対象となりうるということです。

 また、具体的な数値目標は、次のとおりです。


1)

付加価値額アップ 3年で9%、または、5年で15%
(付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費)

2)

経常利益アップ 年率1%

 数値計画も決してハードルの高いものではなく、あくまで目標ですので必ず達成しなければならないというものでもありません。ただし、これらの目標値の根拠となる資料は必要です。

 「経営革新計画」の承認を受けるための新たな取組みのアピールポイントは、新規性と社会性です。

 新規性については、個々の中小企業者にとって「新たなもの」であれば、すでに他社において採用されている技術・方式を活用する場合にも原則として承認対象とされています。ただし、同業あるいは同地域において相当程度普及している技術や方式等については対象外となっています。「経営革新計画」の承認は都道府県単位で行なわれるため、別の県ではすでに導入されていても、自社が所在する県では初めてという場合には対象となる可能性があるということです。

 また、社会性については、その新商品や新技術が社会に対し、どのような好影響を与えるかをアピールすることが重要です。いくら新規性があっても公序良俗に反するようなものは絶対に承認されません。私の事務所の場合、新規性よりも、消費税の免税点の引下げによる会計ソフトのニーズの高まり、新会社法によって経理レベルの低い小規模法人が増大するという社会背景に、ビジネスプランがマッチしたことがアピールポイントとなったようです。

 「経営革新計画」の承認のコツを少し伝授したいと思います。

 通常、経営革新計画の承認は都道府県が行なっています。担当官が申請書の内容を精査して、これはいけそうだということになれば、有識者が行なう審査会に上程されて承認の可否が決まる流れになっています。ここでのポイントは、いかに担当官に計画をきちんと理解してもらい自信を持って審査会に上げてもらえるかにかかっています。担当官も自分が内容をチェックして上程したものが審査会で駄目出しをくらえば立場がなくなってしまいます。

 経営革新計画の申請書のフォーマットは都道府県のホームページでダウンロードできます。わずか数ページの書式です。初回、都道府県の担当者のところへ打ち合わせに行く段階で、最低限でもこの数ページのフォーマットを埋めてから行った方が良いと思います。なぜなら、先ほど説明したように、申請書をチェックし、完成させて審査会に上げるまでが担当官の仕事だからです。つまり、こちらで担当官が審査会に上げやすくしてあげるということがポイントなのです。担当官は、多くの経営革新計画の相談を受けています。もしあなたが担当官だったら、手ぶらで相談に来てヒアリングしながら一から申請書を作っていかなければならない相談者と、ほとんど申請書が完成した状態で来庁してあとは細かい部分の微調整だけという相談者のどちらを優先したくなるでしょうか?

 経営革新計画承認を専門とするコンサルタントは、役所を初回に訪問する段階で、すでに提出できるくらい完成度の高い申請書を持って行くように指導しています。そこまですることが無理なら、申請書のフォーマットに商品パンフレットなど、具体的な商品やサービスの内容が理解できる補足資料程度は添付していただきたいと思います。

 ここで一つ問題となるのは、都道府県によって審査の難易度に大きな差があるということです。


中小企業新事業活動促進法のメリットは?

 しかし、そこまでして経営革新計画の承認を受けるメリットがあるのでしょうか? 税制上の最大のメリットは、前述した「留保金課税の停止」です。留保金課税の対象となるところは承認を受けるだけで大きな節税効果を得ることができます。

 次に、それ以外のメリットについてもみておきましょう。

 資金調達に関しては、以下のような公的支援策があります。


1)

経営革新補助金を受けることができます。

2)

信用保証協会の保証限度額に別枠が設定され限度額が拡大されます。

3)

中小企業金融公庫、国民生活金融公庫、商工中金などの政府系金融機関から新事業活動促進資金として低利融資を受けることができます。

 上記の三つが主な公的な支援策です。ただ、実際に自社で承認を受け、顧問先企業やコンサルティング先企業のお手伝いをした経験から、本音としては、これらの公的支援策には過度の期待をしない方が良いと思っています。


◆経営革新補助金

 支援策のうちもっとも利用の希望が多いのは、経営革新補助金です。補助金や助成金は、返さなくても良い資金ですので、経営者に大変人気があります。都道府県知事から承認を受けた経営革新計画にしたがって実施する経営革新のための市場調査、商品化等の事業の経費を一部補助する制度です。2/3を限度として補助(国1/3、都道府県1/3)を受けることができます。補助金が交付されるのは事業の終了後ですから、会社においていったん全額を負担する必要があります。

 経営革新補助金をもらうための事業期間や申請の時期はあらかじめ決められていますので、経営革新計画の計画書には、その申請タイミングにうまく合わせて新規事業の計画を盛り込む必要があります。

 なお、いわゆる国の三位一体の改革によって、ここ最近補助金の予算が削られている傾向にあります。


◆信用保証協会の別枠融資

 信用保証協会の保証枠を限度いっぱいに使っている企業でも、経営革新計画の承認を受けていれば保証限度額を別枠で拡大してもらえるというありがたい制度です。通常の保証限度額は無担保で8000万円、普通保証を併せて2億8000万円です。

 しかし、常識的に考えれば、この保証限度額を使い切っている企業の財務内容がそんなに良いはずはありません。

 実際には、信用保証協会が保証を付ける場合には、やはり財務内容や経営状態が審査されるため、経営革新計画の承認を受けていれば必ず別枠融資が可能というものではありません。


◆政府系金融機関の低利融資

 各政府系金融機関には、それぞれ経営革新計画承認企業向け低利融資のメニューは用意されていますが、金融機関ごとに力の入れ方に温度差があるようです。

 中小企業新事業活動促進法は中小企業庁が深く関係している法律です。中小企業庁は経済産業省の外局です。政府系金融機関のうち、中小企業金融公庫と商工中金は財務省と経済産業省の管轄ですが、国民生活金融公庫は財務省と厚生労働省の管轄になります。そのため、中小企業にもっともなじみのある国民生活金融公庫が一番この制度に対する取組み度合いが低いようです。

 また、これらの低利融資制度も、補助金と同様、計画書の中に具体的にいつ資金を必要とするのかを記載し、資金調達の方法とその金額を盛り込んでおく必要があります。計画になければ融資を受けることができません。


それでも経営革新計画承認は資金調達に有効

 このように公的支援を額面どおりに受け取ることはできないのですが、それでも経営革新計画承認は資金調達に有効だと思います。承認企業に対して、銀行は積極的に融資を勧める傾向があります。新規事業によって資金需要が見込めるということがその理由でしょう。

 それ以外にも銀行が融資したくなる理由があります。金融庁が銀行向けに融資企業の審査や格付けの方法を記した金融検査マニュアルというものがあります。このマニュアルには中小企業向けの別冊があります。その別冊には中小零細企業を大企業と同様に画一的に査定や格付けしてしまうと不良債権だらけになる恐れがあるため、融資先企業の査定や格付けにあたっては中小企業特有の個別事情を考慮するようにと書かれています。

 たとえば、企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性を検証するようにという項目があります。それを検証するポイントの一つとして経営革新計画の承認を受けていることを勘案すると明記されています。

 つまり、経営革新計画の承認を受けている企業は、銀行からの審査や格付けに際して、技術力、販売力、経営者の資質を踏まえた成長性が見込める企業であるという公的なお墨付きを得ていると考えられるわけです。つまり融資の審査にあたっては、下駄を履かせてもらえる可能性もあるということです。私の知っている範囲でもそのような傾向を認めることができます。

◇     ◇

 この経営革新計画の承認をとって一番メリットがある企業は、留保金課税の適用対象となっている会社だと思います。節税額を考えて、メリットがあれば、専門のコンサルタントに手数料を支払っても承認を受けるべきだと思います。

 その他には金融機関からの資金調達の選択肢を広げ、融資審査を有利にしたいという企業にもおすすめします。

 それ以外の企業についても、承認をとって邪魔になることはありませんので、もし自分自身で承認申請をする、あるいは会計事務所に無償で承認申請を手伝ってもらえるという場合はチャレンジしてもみても良いと思います。

 私自身承認を受けていますが、個人事業者で留保金課税は関係ありませんので目に見える形でのメリットは今までのところほとんどありません。承認申請自体がそれほど高いハードルではありませんでしたので、仕方がないかなとも思っています。しかし、私の場合自分自身で承認申請を行ないましたので、掛かった費用はゼロです。それでも地元の新聞に記事を掲載していただけたこと、銀行の覚えが若干めでたくなったことなど、取らなかったよりは良かったかなと思うのが正直な感想です。


〔月刊 経理WOMAN〕