「e-文書法」はこんな内容です
   
作成日:03/22/2005
提供元:月刊 経理WOMAN
  


悩みのタネだった「書類の保存スペース」が半減される?
「e-文書法」はこんな内容です




 いわゆるe-文書法が4月1日より施行されます。この法案は、税務関係等の書類の電磁的記録による保存を認めるもので、簡単にいえば、書類をスキャナーでイメージ化し、MOなどに保存してよいということです。日本経団連の試算では、今回の施行により税務上の書類だけで年間約3000億円のコスト削減になるといいます。

 そこでここでは、e-文書法の概要と経理の仕事への影響について解説します。

■「e-文書法」って何?

 みなさんご存知のとおり、昨年11月に「電子文書法(以下、e-文書法とします)」が参院本会議で可決・成立し、今年4月より施行されることになりました。この法律は、民間に紙での保存を義務付けていた文書について原則すべて電子保存を容認することで、保存等に要するさまざまな負担を軽減し、国民の利便性の向上、さらには国民生活の向上、国民経済の健全な発展に寄与しようという目的で作られたものです。

 少し細かい話になりますが、e-文書法は「通則法」と「整備法」の二つの法律によって構成されています。というのも、電子保存に関係する法令は約250本もあり、一つずつ改定していては施行に間に合いません。そこで、通則法で共通事項の原則を定め、それだけでは完全でない場合に整備法で規定を整備していく仕組みになっているのです。

 ただし、どのように電子保存するかといった具体的要件については、書面の内容や性格によっても事情が異なるため、各法令の所管府省の主務省令(通達のようなもの)で、施行前までに定められていくようです(現在はまだ調整中です)。

 対象となる法律や文書の詳細については、最新のものではありませんが、内閣官房IT担当室の資料「e-文書イニシアティブ対象法令リスト一覧」で確認できますので、一度覗いてみると全体のイメージが掴めるでしょう。

 また、みなさんの中には「帳簿は今までも電子保存しているんだけど…」と腑に落ちない人もいるかもしれません。実は、今から8年前の平成9年に「電子帳簿保存法」が制定されたことで、「自己が一貫して電子計算機を使用して作成する場合」に限って、所轄の税務署長の承認を受けた国税関係書類については電子保存することができるようになっていました。

 しかし、このとき電子保存が認められたのは、あくまで最初からコンピュータで作成した帳簿書類のみで、「紙で受け取る書類」など原本が紙のものは電子保存できなかったのです。書類の改ざんの跡を検知するのが難しいというのがこのときの大きな理由といわれています。

 とはいえ、見積書や請求書、領収証などの多くが紙でやりとりされていて現状に見合っているとはいえなくなってきたということと、改ざん検知の技術も発達してきたことなどの理由から、この領域の電子化まで容認していこうとしたのが、今回のe-文書法というわけです。


■書類の保存方法の流れ

 次に、e-文書法によって経理の書類の保存がどのように行なわれるようになるのかお話していきましょう(対象となる国税関係書類は表参照)。

 表 イメージ化対象の国税関係書類


 たとえば、請求書や領収証の原本をまとめたファイルがあるとします。企業はスキャナやサーバーなどのシステムを導入し、それらの書類を1枚ずつ(機種によっては一括して)スキャンして、後述する電子署名とタイムスタンプを付与した上でサーバーなどに保存します。保存の仕方は企業によりますが、このように電子保存することで検索性が高まり、決算書の数字とその根拠となる書類のイメージをひも付けて確認できたりするようになるわけです。

 電子保存において大きなカギとなる「電子署名」と「タイムスタンプ」についてもう少し詳しく触れておきます。

【電子署名】
 本人証明と完全性証明を担保する技術です。スキャナ等で書類をイメージ化する都度、イメージ文書単位にイメージ化行為者の電子署名(印鑑のようなもの)を付与することで、事後それらの文書の検証を行なうことができます。

【タイムスタンプ】
 時刻保証と完全性証明を担保する技術です。信頼のおける時刻と文書などのデジタル情報に対し、変更、改ざんがあったかどうか検知する情報を付与します。

 この電子証明とタイムスタンプは、あらかじめそれぞれのサービスを提供する会社と契約して、その都度購入することになります。これにより、スキャンした書類は、第三者認証局により原本であることが証明されるというわけです。


■e-文書法によってもたらされるメリットと留意点

 e-文書法の施行によって、一定期間保存しなければならなかった財務や税務の関連書類など、多くのデータが電子保存できるようになり、文書の保管に要していた企業の人件費、倉庫代などのコストが60%~70%(産業界全体で年間約3000億円)削減されると一般的にはいわれています。

 もっと細かくいえば、



紙文書の倉庫保管を廃止することによる倉庫代の削減


事務所の保管スペース削減によるオフィスフロアの有効活用


保管や配送のための紙文書の仕分けやファイリング作業の廃止


検索作業の効率化


取引先への紙文書の郵送コストの削減

などのメリットが考えられるでしょう。

 ただし、先述したように電子保存するためにはかなりの金額の初期投資が必要ですし、タイムスタンプなど継続的にかかる費用も発生してきます。

 また、電子保存された書類は裁判証拠として認められた実績がまだありません。つまり、今のところ証拠として保証されるかどうかは分からないということです。政府が電子保存を認めても、電子文書を証拠として認めるかどうかは各裁判所の判断によるのです。

 そういったことを考えると、結局お金をかけて電子保存したとしても、当分の間はいざというときのために紙での保存も行なっておいた方が無難ということになります。みなさんの中には、「それではあまりメリットが感じられない」「そこまでしてわざわざ電子保存する必要はない」と思われる人もいることでしょう。

 確かに、電子保存を“目的”と考えてしまうと、e-文書法はそれほど重要ではない法律ということになってしまうかもしれません。


■e-文書法は“手段”として活用する

 しかし、勘違いしていただきたくないのは、e-文書法は“目的”ではなく、あくまで“手段”として使われるべき法律であるということです。

 今年1月、東京証券取引所は上場企業約2200社の代表者に対して、今年3月期分をめどに有価証券報告書の記載内容が正確であるという確認書の提出を義務付ける方針を示し、正式決定しました。この確認書を提出したにもかかわらず、虚偽の記載があった企業は上場廃止の対象となります。

 また、今年4月からは個人情報保護法も施行され、5000件を超える個人データを取り扱う事業者はさまざまな義務が課せられることになります。

 こういった社会の動きが何を意味しているか、みなさんはお分かりになりますか? 要するに、企業は“常に自ら偽りがないことを証明しなくてはならない”時代に来ているということなのです。

 ここで、改めてe-文書法を振り返ってみましょう。さまざまな資料が電子保存されていれば、データの正誤確認が容易になり、リスク回避に役立ちます。また、何かあった場合にも迅速にその経緯を証明することができます。

 これから企業が取り組んでいかなければならない経営課題は、業務を効率化し、いつでも説明責任を果たせるように準備しておくこと。e-文書法は、それらを後押しする“手段”の一つである法律といえるでしょう。


■中小企業の経理担当者に考えて欲しいこと

 これまでお話してきたとおり、e-文書法は中小企業に今すぐ大きな影響を与えるような法律ではないかもしれません。

 しかし、だからといってまったく関係がないと思うのは危険です。なぜなら最近、次々と企業の不祥事が発覚し、企業のあり方自体が問われてきているからです。中小企業であっても、情報を整備し、正当性をどこまで証明できるかというくらいの姿勢で書類の管理に取り組んでいくことが必要ではないでしょうか。また、上場企業と取引している会社には、今後電子保存することが要求されるケースも出てくるかもしれません。

 そして、いざ電子保存することになったときに、重要な役割を果たすことになるのが経理ウーマンのみなさんです。どんな書類がどんな理由で作成されているのか、そしてその書類は電子保存できるものなのかといった現状把握が電子保存のスタートだからです。

 だからこそ、この機会に普段何気なく作成したり、ファイリングしている書類がどのように使われているのか理解しておきましょう。そして、日頃から経理ウーマンのみなさんには、率先して整理しておくことを心掛けて欲しいものです。

〔月刊 経理WOMAN〕