経理で今日からできる「売掛金焦付き」防止策
   
作成日:05/29/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


営業任せにしていては回収できるものもできなくなる!?
経理で今日からできる「売掛金焦付き」防止策




 売掛金の焦付きが企業に与える影響は大きいにもかかわらず、その回収は営業任せという会社が少なくありません。

 ここでは、経理でもできる売掛金焦付きの防止策を紹介します。

 本年5月1日から施行された新会社法によって、株式会社の設立が簡素化されました。しかし、その一方で会社設立の敷居を低くしたため、怪しい会社が増えることが懸念されます。今後は、これまで以上に新規取引の開始や、取引継続する際には、相手を常に把握し、危険を察知する努力が肝要です。

100%の原則

 商品を販売したら100%回収が原則、製造した商品あるいは仕入れた商品を100%正当な価格で売り切るのも原則です。売掛金を回収しないまま放置をすれば貸倒れになる可能性は増加します。営業マンが売掛金を100%回収できるように支援する、仕入れた商品の新鮮さを保つために支援するということは、いずれも経理の任務といえます。
 それでは具体的に、その内容をお話しましょう。

1)取引前の仕事(取引資料の管理)

 新規に取引を開始する前に経理がやるべきこととして、取引予定先を管轄する法務局で商業登記簿謄本(現在履歴事項証明書)を取得し、会社の内容を把握することが挙げられます。もし、その会社が他の地区から移転してきた場合は、移転前の登記簿(閉鎖謄本といいます)を取得してください。

 その会社の現在と過去を知ることが、信用できる会社か否かを判断する基礎となります。なお、現在は登記簿謄本の取得のために相手方の法務局に行く必要がなく地元の法務局で取得できます。

2)取引にあたっての取決め書類の管理

 取引開始にあたり、営業マンが口頭で取引内容を取り決めてしまうのは避けるべきです。トラブルを避けるためにも、文書にしておくことが重要です。内容については、口頭で取り決める程度のものでよいでしょう。以下に、書類を作成する際のポイントを挙げておきます。

・売買の対象となる商品
・商品の引渡し場所
・代金の支払い時期、支払い方法
・商品の暇疵などに関する取決め
・契約解除に関する事項
・管轄裁判所に関する特約

 この中の管轄裁判所に関する特約とは、販売者、購入者間で紛争が起こったときの最初の裁判を、販売者側の裁判所で行なうという取決めです。この取決めにより、万一の際、販売者側の裁判所で裁判を行なうことができます。この書類の管理は個々の売上回収状況、回収遅延状況を把握できる経理が最適です。

3)取引中の調査・日報のチェック

 営業マンには、取引先を訪問した際、事務所、店舗内の状況、従業員、取引先等について、きちんと日報に記載させます。経理担当者は前回の日報と比較し、変化をチェックします。以下にチェックシートがありますので、確認してみてください。

表 営業マンにチェックさせたい項目例

以前に比べて社内が雑然としており、整理整頓がされていない。
社員の様子が活気がなく、どことなく表情が暗い。
最近、社員から経営幹部や社長の愚痴や悪口を聞くようになった。
電話応対や受付の様子にやる気が感じられなくなってきた。
月末になると社長や経理担当者がつかまりにくい。
幹部クラスの社員や経理担当者が突然退職してしまった。
一般社員の退職が目立ち、全体の社員数も減っている。
時期はずれの人事異動が続いているようだ。
社長の顔つきが悪くなり、急に太ったり、やつれたりする。
役員や幹部社員が急に朝早く出社するようになった。
今までに扱ったことのないような商品を急に扱い始めたようだ。
大声で怒鳴る声が会議室などからよく聞こえる。
見知らぬ顔の人(弁護士、銀行、信用調査マンなど)がよく出入りしている。
在庫が過剰になっているような気がする。
不動産の処分や支店の統廃合を行なっているようだ。

 ちょっとした変化でも、なぜ変化をしたのかを確かめることが重要です。万一の場合、販売先、金融機関の確認が債権回収に役立ちます。そのためにも、経理はこの日報に必ず目をとおしてください。

4)販売者側にある回収遅延の原因のチェック

 回収遅延の原因は、販売者側にある例もありますので、そのチェックも重要です。

取引先が遠隔地のため、請求書を発送するだけで放置していませんか
債権額が少額でも、請求書を発送していますか
請求書、納品書の誤記をそのまま放置していませんか
営業マンが上司の承諾なく委託契約をしていることはありませんか
営業マンが上司の承諾なく商品の直送をしてはいませんか
値引き、返品処理、振込の場合の送金手数料の処理はされていますか

 営業マンの中には営業実績を上げるために、回収を度外視して商品を売り込むことがあります。貸倒れを増加させる原因です。

 販売者側にある回収遅延には、経理が回収状況をチェックし、営業担当者に回収状況をはっきり認識させるようにたえず働きかけることが肝要です。

5)回収状況のチェック

 支払い方法の変化に注意し、なぜ変化したかを確認してください。以下にチェックポイントと注意点を挙げてあるので、確認してみましょう。(危険度の段階─★★★は取引停止を検討・★★は取引を検討・★は取引限度を再検討)


支払い手段が現金から、半分現金、残りが手形に変わった★
※全額現金では決済できなくなった理由が取引先が倒産したことが原因かも知れません。なぜ、半分手形になるのか、受け取る時点での確認が必要です。
支払い手段が、現金から手形に変わった★
※現金決済をしなくなった原因に、売上を伸ばすことだけに集中した結果、仕入れの大幅増加という例がありました。
先日付の小切手を支払うようになった★
※小切手は現金と同じです、先日付の小切手を回し、そのときに決済できる残がなければ、預金不足の理由で不渡り返却されます。
取引銀行を変更した★
支払われる手形が取引先が回収してきた廻し手形に変わった★★
※廻し手形は、取引先がどういう取引で受け取ったか確認してください。融通手形など危険な手形が回される可能性があります。
手形の決済期日が、振出後90日から120日へと長くなった★★
手形の依頼返却または決済期日の変更を依頼された★★
※決済日に決済資金がないための依頼であり、危険な状況です。
融通手形を依頼された★★★
※回収できる売掛金もなく、銀行で融資も拒絶された危険な状態です。
※融通手形とは資金繰りのため裏付けなくお互いに手形を交換しあう危険な手形です。
第1回目の不渡りを出した★★★

6)経理が行なう支払い遅延の督促

 2ヵ月回収が遅延したら、営業ではなく経理から通知書を発送します。通知書は、ハガキで相手方の感情を害さないように丁寧な文書とします。振込先の金融機関も記載しておきます。この方法は、少額の請求に効果があります。

 通知書を発送しても、回収が遅延する場合は督促状を普通郵便で発送します。文頭に「督促状」と書き、通知書よりも強い内容の文書をあらかじめ作成しておき、一定期間遅延した場合、上司や営業担当者の承諾を得ずに発送するというシステムも一法です。

 私自身、督促状を発送したら、古い取引先が怒鳴り込んできたという経験があります。そのときは、一定期間回収できない取引先に対しては、上司の了解なく機械的に発送していますと話し、納得してもらいました。ちなみに怒鳴り込んできた取引先は、この方法が効果的であることに気が付き、自社でも取引先に対し同じような督促をするようになったと聞いています。

7)経理ができる債権回収手段

 営業担当者の日報から、相手方の販売する、あるいは製造する商品などを調べ、それを購入し、売掛金と同額で相殺するのも一法です。相殺通知書は内容証明郵便で行ないます。

8)簡易裁判所による訴訟手続き

 覚書等で管轄合意裁判所を簡易裁判所と定めている場合、裁判所の許可を得て、社員が社長の代理人として簡易裁判所で争うことも可能です。

9)簡易裁判所による督促手続き(支払督促の申立て)

 管轄合意のない取引の場合、金額が多額でも、相手方の簡易裁判所に申立てる支払督促手続きがあります。これは申立ての時点では裁判ではありません。申立人は社長でも、経理の方でもかまいません。裁判所の窓口に行き、申立てを行なうことができます。

 簡易裁判所では、一般の人に丁寧に教えなさいという通達が出ています。相手方が地方の場合、地元の簡易裁判所で申立書をチェックしてもらい、相手方の簡易裁判所に送れば受理し、相手方に「支払えという督促」を出します。先方は、その督促に異議のあるときは2週間以内に裁判所に異議を出すことになります。

 異議が出されて初めて裁判になりますが、異議の出る確率は低く、相手から連絡があり、問題が解決するか何の連絡もない例が多いようです。何の連絡もない場合は2週間後に「仮執行宣言付き支払督促」を申し立て、さらに2週間待ちます。その2週間後にも連絡がない場合、裁判所で仮執行宣言付き支払督促が相手に送達されたという送達証明を受け取ります。この仮執行宣言付き支払督促と送達証明は、裁判の判決と同じで、相手方の商品、売掛金、銀行預金など強制執行(差押え)ができるようになります。

 ただし、相手に資産がなければ回収は不可能です。そのために取引の始めから、相手の信用状況を把握し、取引限度を設定、日報、回収状況等を繰り返しチェックし、ちょっとした変化にも「なぜ?」という疑問を抱き、その原因を突き止めておくことが肝心です。

 経理は帳簿を記帳するだけが仕事ではありません。企業を繁栄に導く基礎は、企業を知り尽くす経理の仕事にあるのです。


〔月刊 経理WOMAN〕