改正育児・介護休業法の内容と対応
   
作成日:11/20/2009
提供元:月刊 経理WOMAN
  


短時間勤務制度の導入から残業免除まで
「改正育児・介護休業法」の内容と対応策教えます




 子育てしながら働き続けられる環境を整備するための育児・介護休業法が改正されます。3歳未満の子どもがいる従業員を対象に、短時間勤務制度の整備や、残業免除の希望に応じることなどが、企業に義務付けられます。また、男性の育児休業の取得促進策なども盛り込まれています。

 ここでは「改正育児・介護休業法」の内容とあわせて、企業の対応策をアドバイスします。

 改正育児・介護休業法(以下、「改正法」)が、今年7月1日に公布されました。一部はすでに9月30日より施行され、その他についても1年以内に施行されることになっています。

 今回の改正は、男女ともに子育てをしながら働き続けることができる雇用環境を整備する目的で行なわれました。今後企業にどのような影響が出るのか、改正のポイントを交えながらお伝えします。


◆改正の概要

 まず、改正の概要についてお伝えすると、次の通りに大別できます。


1)

子育て期間中の働き方の見直し

2)

父親も子育てができる働き方の実現

3)

仕事と介護の両立支援

4)

実効性の確保

 これらを達成するために、改正は次の3段階に分けて行なわれます。各段階について、改正の内容とポイントをご紹介しましょう。

■第1次施行 平成21年9月30日施行

 「育休切り」という言葉を耳にする機会が増えましたが、これまで育児・介護休業法において、違反があったとしても制裁措置は設けられていませんでした。それが今回、目玉となる改正に先駆けて、実効性を確保するために、次の改正が最初に行なわれました。


1)

事業主による苦情の自主的解決、及び都道府県労働局長による紛争解決の援助制度の創設

2)

法違反に対する勧告に従わない企業名を公表する制度の創設

3)

事業主に勧告して報告を求めたのに報告なし、または虚偽の報告をした場合の過料の創設(20万円以下)

■第2次施行 平成22年4月1日施行予定

 労働者と事業主の間において、育児休業、介護休業に関する紛争が起き、当事者から調停の申請があった場合、早期の解決を目指して、紛争に関する調停制度が創設されます。

■第3次施行 公布日である平成21年7月1日から1年以内に予定

 今回の改正で、企業の実務に一番影響を与える目玉の内容です。次に、詳しく見ていきましょう。

●短時間勤務制度の義務化(注)

 3歳未満の子を養育する労働者について、短時間勤務制度を設けることが義務付けられます(1日の所定労働時間が短い〈6時間以下〉労働者は除く)。ただし労使協定で、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は、適用除外することが可能です。


 これまでも、3歳未満の子を養育する労働者については、1)短時間勤務制度のほかに、2)フレックスタイム制度、3)始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、4)所定外労働をさせない制度、5)託児施設の設置運営その他これに準じる便宜の供与、の中からいずれかの措置を一つ以上講じることが義務付けられていましたが、改正法では短時間勤務制度が措置義務となります。



 短時間勤務制度の義務化は、企業に与える影響が大きい改正といえますので、早めに準備をしておくとよいでしょう。

 なお、常時100人以下の労働者を雇用する事業主については、公布日から3年以内の政令で定める日が施行日となります。

●所定外労働の免除制度化(注)

 事業主は、3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合、所定外労働を免除しなければなりません。ただし労使協定で、引き続き雇用された期間が1年未満の労働者は、適用除外することが可能です。

 働きながらの子育てが難しいといわれる原因の一つに、残業の負担が大きい、という声があります。現行法では、「小学校就学前の子を養育する労働者が請求したときは、1ヵ月について24時間、1年について150時間を超えて時間外労働をさせてはならない」としていますが、改正法ではさらに厳しく、3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはならない、と規定されています。

 なお、3歳以上小学校就学前の子を養育する労働者について所定外労働免除の請求があった場合、1ヵ月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはならない、という義務を負いますが、所定外労働を一切免除するということではありません。子供の年齢によって扱いが異なりますので、ご注意ください。

 この改正は、常時100人以下の労働者を雇用する事業主について、公布日から3年以内の政令で定める日が施行日となります。

●子の看護休暇の拡充

 子の看護休暇制度が拡充され、小学校就学前の子が2人以上の場合には、付与日数が「年10労働日」となります。10労働日については、あくまでも最低基準となるため、これを下回ることはできません。

 半日、または時間単位で付与することは義務付けられていませんが、使い勝手を考えると、そうした対応も検討する余地があるでしょう。




 現行法では子供の人数にかかわらず、一律「年5労働日」とされていますので、大幅な拡充となります。この改正について、中小企業に対する暫定措置はありませんので、就業規則の変更が必要となります。

●パパ・ママ育休プラス

 今後、父親も積極的に育児にかかわれるよう、父親と母親がともに育児休業を取得する場合、育児休業取得可能期間が、子が1歳から1歳2ヵ月まで延長されます。この制度を「パパ・ママ育休プラス」といいます。

 なお、父母が1人ずつ取得できる休業期間(母親の産後休業期間を含む)の上限は、現行法と同じ1年間です。この改正について、中小企業に対する暫定措置はありませんので、就業規則の変更が必要となります。

 図表1に具体例を示しましたので、参考にしてください。

 
図表1 パパ・ママ育休プラスの取得例


●父親の再度育児休業取得が可能に

 改正法では、父親の育児休業取得率を上げるために、妻の出産後8週間以内に育児休業を取得した場合に限って、父親については特例を認めて、特別な事情がない場合でも再度育児休業の取得が可能となります(図表2参照)。

 この改正について、中小企業に対する暫定措置はありませんので、就業規則の変更が必要となります。

 
図表2 再度育児休業の取得例



●専業主婦(夫)の除外規定を廃止

 現行法では、労使協定により配偶者が専業主婦(夫)である場合等について、育児休業の取得を拒むことができると規定されていますが、改正法では、この規定が廃止されます。父親も積極的に育児にかかわれるよう、育児休業を取得しやすくする、ということです。

 この改正について、中小企業に対する暫定措置はありませんので、就業規則と労使協定の見直しが必要となります。

●介護休暇制度の創設(注)


 要介護状態にある対象家族の介護、その他の定める世話を行なう労働者が事業主に申し出ることにより、要介護状態の対象家族が1人であれば年5労働日、2人以上であれば年10労働日の介護休暇制度が創設されます。



 雇用期間が6ヵ月未満の労働者等については、労使協定により休暇の申し出を拒むことができますので、一定範囲の労働者を適用除外とする場合には、労使協定の準備も必要になるでしょう。

 現行法では、同一の対象家族について、一要介護状態ごとに1回の介護休業を通して93日を超えない範囲の期間、介護休業を取ることができますが、今回の改正はこれとは別に規定された、短期の介護休暇となります。

 ただし、常時100人以下の労働者を雇用する事業主については、公布日から3年以内の政令で定める日となります。


◆育児休業給付と出産一時金の改正も必見!

 育児・介護休業法の改正に伴い、平成22年4月1日以降に育児休業に入る場合について、雇用保険法の一部が改正されます。

 現在、育児休業中に「育児休業基本給付金」が休業開始時賃金の30%、職場復帰後6ヵ月経過したときに「育児休業者職場復帰金」が休業開始時賃金の10%(平成22年3月31日までは暫定的20%)支給されていますが、平成22年4月1日から育児休業期間中に休業開始時賃金の50%が支給されることになります。

 育児休業基本給付金と育児休業者職場復帰金が一本化される、という形で、職場復帰6ヵ月後に支給されていた職場復帰金は廃止されますので、ご注意ください。

 なお今回の改正により、夫婦ともに育児休業を取得することになった場合、育児休業期間が1年から1年2ヵ月に延長されますので、このケースに該当する場合は2ヵ月分給付額が増えることになります。

 また、育児休業に関連するトピックスとして、出産する際に健康保険から給付される「出産育児一時金」が平成21年10月1日より42万円へ改正されることになりました。大きく変わった点は、その支給方法にあります。

 これまで、被保険者である従業員が事業主を経由して協会けんぽ(または健康保険組合)へ請求していましたが、被保険者と出産する医療機関等で合意書を交わし、医療機関等から支払機関を通じて協会けんぽへ請求する方法へ変わりました。これにより、出産育児一時金は医療機関等に支払われることになり(「直接支払制度」という)、被保険者にとっては、42万円まで出産費用を支払う必要がなくなるため、負担が軽減されるといえます。

 ただし医療機関等によっては、この直接支払制度に対応していない場合もあるので、その際は、従来どおりに被保険者から協会けんぽへ請求することになります。

 また、直接支払制度に対応している医療機関等であっても、出産費用が42万円に満たない場合には、出産後に被保険者である従業員が出産育児一時金を協会けんぽへ請求すれば、その差額が支払われます。この点は、もらい忘れのないように、注意を促してあげるとよいでしょう。

◇     ◇

 改正のポイントについて説明してきましたが、今回の施行にあたり、就業規則や育児介護休業規程、労使協定の見直しや新設が必要となりますので、早期に準備しておくことをお勧めします。

 とくに、子の看護休暇や介護休暇などの休日に関する規定は、有給扱いとするか無給となるかで、給与計算実務にも影響を与えるところです。

 なお注マークのある改正については、常時100人以下の労働者を雇用する事業主の場合、公布日から3年以内の政令で定める日となります。


〔月刊 経理WOMAN〕