「中小企業の会計指針」のことがすらすら理解できる講座
   
作成日:05/23/2007
提供元:月刊 経理WOMAN
  


よく耳にするけどもう一つよく分からない
「中小企業の会計指針」のことがすらすら理解できる講座




 最近、「中小企業の会計指針」あるいは「中小企業会計基準」などという言葉を耳にしませんか? 正式には、「中小企業の会計に関する指針」といいますが、じつはこれは、大変画期的な意義を持つものです。ここでは、この指針の概要について、経理担当者のみなさんにできるだけ分かりやすく、お伝えしたいと思います。

●中小企業の会計指針とは?

 この指針は、中小企業の会計の信頼性・透明性を高めるために、今まで独自の基準を作成していた4団体(日本公認会計士協会、日本税理士会連合会等)が、共同で一つの指針としてまとめ上げたものです。当初、平成17年8月3日に公表され、その後、会社法施行に伴なう改正を加えて、平成18年4月25日に現在の指針が公表されております。今まで明確な基準がなかった中小企業の会計にとって、この指針は大きなインパクトを与えるものです。

 今後、金融機関に対する試算表・決算書の提出などは、この指針が一つの基準になりますし、会社法で新たに設けられた会計参与も、この指針を拠り所にして計算書類(決算報告書等)を作成することになります。今まで、どちらかといえば、税法を判断の拠り所にしていた会計処理のやり方が、大きく変わってくる可能性があります。

 それだけに、経理担当者のみなさんは、この指針の内容を理解しておく必要があります。本稿では、誌面に限りがあるため、ポイントしかお伝えすることができませんが、みなさんにはぜひ指針の全文を見ておいて欲しいと思います。指針は当サイトの「中小企業会計指針」のコーナーで閲覧できるようになっています。


●この指針をどのように活用するか?

 では、すべての中小企業がこの指針に従わなければいけないのか、というと決してそういうことではありません。法律ではなく、あくまで「指針」ですから、このやり方をするのが望ましい、ということに過ぎません。

 ただし、統一した指針が公表された以上、金融機関や公的な機関、あるいは第三者が御社の計算書類を見るときは、この指針に照らして見ることになります。この指針に沿った処理がされていなければ、会計に対する信頼性が低い会社として見られても致し方ありません。この指針が一つの「基準」になるということです。

 ただ、私としては外部の目よりも、この指針を活用して自社の内容を良くしていこう、と考えた方が良いと思っています。会計を正しくかつ厳しく行なおうとすれば、その過程を通じて会社は必ず良くなっていきます。もちろん、経理担当者だけではなく、むしろ経営者がそのように考えて、この指針を活用していこうとすることが重要なのではないでしょうか。


●注目される項目はこれだ!

 では、具体的な指針の内、とくに注意しておくべきポイントを挙げていきます。

■金銭債権

 受取手形、売掛金などの営業上の債権について、破産・再生・更生にかかる債権で回収期間が1年超になるものは、投資その他の資産に表示します。

 営業上の債権以外(貸付金等)は、1年以内に現金化できるものは流動資産、それ以外のものは投資その他の資産に表示します。また、関係会社(親子会社・関連会社)に対する金銭債権は、他の金銭債権と区分して表示することになります。

■貸倒損失

 法的に債権が消滅した場合だけでなく、債務者の財政状態や支払能力から見て全額回収できないことが明らかな場合は、貸倒損失を計上しなければなりません。これについては税法も同様ですが、税法よりももっと実質的に、回収できるのか、できないのか、という判断を行なう必要があります。

 したがって、指針により貸倒損失を計上しても、税務上は損金とならない場合も出てくるでしょう。

■貸倒引当金

 指針では、債権を一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権の三つに分け、それぞれ貸倒引当金の算定方法を定めています。ただし、税法の繰入限度額の計算によっても構わないとされています。また、損益計算書の表示については、繰入額・戻入額を両建て表示する洗替方式ではなく、次の方法により行ないます。


1)

貸倒れ時:直接減額
(借方)貸倒引当金 xxx
(貸方)売掛金 xxx

2)

期末:繰入額が多い場合
(借方)貸倒引当金繰入額 xxx
(貸方)貸倒引当金 xxx

3)

期末:繰入額が少ない場合
(借方)貸倒引当金 xxx
(貸方)貸倒引当金戻入額 xxx

■有価証券

 有価証券は、次の四つに分類し、それぞれの評価方法が定められています。

1)売買目的有価証券
2)満期保有目的の債券
3)子会社株式及び関連会社株式
4)その他有価証券

 売買目的有価証券は、時価をもって評価することになります。この場合の評価損益は、営業外損益に表示されます。また、その他有価証券の内、市場価格があるものについては時価評価をし、評価差額は次のように純資産の部に計上されます。

(借方)その他有価証券 xxx
(貸方)その他有価証券評価差額金 xxx

 なお、その他有価証券評価差額金は、税効果を考慮した後の金額(説明は省略)で、純資産の部に計上されます。

 このように、評価差額が損益計算書に計上されず、直接純資産の部に計上される処理方法は、全部純資産直入法と呼ばれています。

■経過勘定等

 前払費用、前受収益、未払費用、未収収益の四つの経過勘定が、あらためて定義され表示区分が示されています。これらの経過勘定に共通している定義は、「継続して役務の提供を受ける場合、あるいは行なう場合」の費用または収益についての、繰延べ・見越し計上であるということです。

 たとえば、利息や家賃、保険料など寸断なく継続している役務についての、期間の経過と費用収益計上の調整を行なう科目なのです。したがって、似たような科目ですが、前払金、前受金、未払金、未収金とは、明確に区別しなければなりません。これらの科目の使い方については、自己流で行なっている会社も多いようなので、改めて見直してみてください。

■固定資産

 固定資産の減価償却は、経営状況により任意に行なうことなく、定率法や定額法等で毎期継続して規則的な償却を行なわなければなりません。したがって、業績によって50%償却とか償却をまったくしない、というようなことは認められません。

 また、償却額については、法人税法の規定による償却限度額を採用できる旨が規定されています。減損会計については、減損会計基準の適用による技術的困難性などを勘案して、より簡易に行なう方法が示されています。

■ゴルフ会員権

 ゴルフ会員権の時価が著しく下落したとき、時価がない場合でその発行会社の財政状態が著しく悪化したときには、減損処理を行なう必要があります。なお、預託保証金方式のゴルフ会員権の減損処理は、次のように行ないます。


1)

帳簿価額のうち、預託保証金を上回る金額については、直接評価損を計上します。
(借方)ゴルフ会員権評価損 xxx
(貸方)ゴルフ会員権 xxx

2)

時価が預託保証金を下回る場合は、貸倒引当金を設定します。
(借方)貸倒引当金繰入額 xxx
(貸方)貸倒引当金 xxx

〈例〉
・帳簿価格 1000万円 
・預託金600万円 
・時価 400万円
→ゴルフ会員権評価損 400万円(1000万円-600万円)
 貸倒引当金繰入額 200万円(600万円-400万円)

■賞与引当金

 翌期に支給する賞与のうち、当期の負担に属する部分の金額は、賞与引当金を計上しなければなりません。

 賞与引当金の計算は、以前の法人税法(平成10年度改正前)で定められていた「支給対象期間基準」により算定した金額が合理的である場合は、この方式を使うことができます。

■役員に対する賞与

 役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理するようになりました。当期の職務に対する賞与として、決算終了後の定時株主総会で決議される役員賞与は、その見込み額を次のように引当金に計上します。

(借方)役員賞与引当金繰入額 xxx
(貸方)役員賞与引当金 xxx

■退職給付債務・退職給付引当金

 退職一時金制度や確定給付企業年金制度を採用している場合は、退職給付引当金を計上する必要があります。退職給付引当金の計算は、複雑な数理計算による方法が原則ですが、簡便的に期末自己都合要支給額をもって、引当金の額とすることができます。

 また、中退共や特退共、確定拠出年金などの外部拠出型の制度のみを利用する場合は、その掛金を費用処理するだけで足ります。

 なお、退職金規定がない場合は、退職給付債務の計上は原則必要ありません。

 ただし、過去に退職金の支給実績があり、将来においても支給する見込みが高い場合は、合理的に見積もった額を引当金に計上する必要があります。

■法人税、住民税及び事業税

 法人税、住民税及び事業税については、発生基準により、当期で負担すべき金額は「税引前当期純利益」の次に「法人税、住民税及び事業税」として計上します。また、期末において未納の税額は、貸借対照表の流動負債に「未払法人税等」として計上します。還付を受ける税額は、貸借対照表の流動資産に「未収還付法人税等」として計上します。

■源泉所得税等

 受取利息や配当の源泉所得税、及び受取利息の利子割(地方税)については、損益計算書上「法人税、住民税及び事業税」に計上します。租税公課で処理していた場合は、期末に振替えることになります。

■消費税(地方消費税も含む)

 消費税については、原則として税抜方式を適用します。期末の未払消費税は、未払金(または未払消費税等)に、還付消費税は未収入金(または未収消費税等)に計上します。

■収益・費用の計上

 企業の経営成績を明らかにするために、あらためて「費用収益対応の原則」が掲げられています。すなわち、損益計算書においては、一会計期間に属するすべての収益とこれに対応するすべての費用を計上する、ということです。

 その上で、原則として収益については実現主義により認識し、費用については発生主義により認識するとされています。当たり前の原則ですが、会社の業績を正しく把握するためには大変重要な原則です。

◇     ◇

 以上、会計指針のポイントを見てきました。この他にもまだ、棚卸資産や繰延資産、税効果会計、純資産、外貨建取引等、個別注記表などの指針が示されております。あらためて会計の勉強をするためにも、指針の全文を読んでいただければと思います。

 また、冒頭で紹介した当サイトの「中小企業会計指針」のコーナーでは、指針とともにチェックリストがダウンロードできるようになっています。これは、あなたの会社の計算書類がどの程度、指針に沿った会計処理がされているのかをチェックするものです。ぜひ、一度チェックしてみることをおすすめします。

 なお、このチェックリストを顧問の税理士さんに作っていただき、信用保証協会に提出すると、借入れ時の保証料が若干優遇されるというメリットもあります。


〔月刊 経理WOMAN〕