やむにやまれぬ「社員の解雇」
   
作成日:01/24/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


やむにやまれぬ「社員の解雇」
-事前にこれだけはやっておこう!




 本人の能力に問題がある、経営がおもわしくないなど、社員を解雇せざるを得ない場合があります。しかし、問答無用で解雇するようなことをしては、大きなトラブルに発展しかねません。ここではやむにやまれず社員を解雇しなければならないときの心得をアドバイスします。


 「企業は人なり」という言葉があるように、会社にとって何より大切なものは、人、つまり人材です。素晴らしい人材は、会社の宝物です。まさに、人財そのものと言っていいでしょう。

 しかし、会社は生き物です。予測不能な事態が発生して業績が急激に悪化し、社員を解雇しなければ、会社の存続が危ぶまれる状況に追い込まれることもあります。また、勤務成績がとても悪く、周囲に迷惑ばかりかけ、いくら指導しても改善の見込みがない社員に対し、解雇を検討せざるを得ない場合もあるでしょう。

 一方、解雇される社員にとって、解雇はまさに一大事。今までの生活の糧であった給料が貰えなくなるのですから、会社側にきちんとした対応や説明を求めるのは当然です。

 しかし現実には、解雇される社員にとって解雇理由がとても納得出来ないものであったり、解雇をするまでの方法に問題があったため、トラブルになるケースが後を絶ちません。

 このようなトラブルを避けるため、(完全には難しいにしても)納得して解雇に応じてもらうためには、どのように対処すれば良いのでしょうか。


◆解雇の種類を知っておこう

 ひと言で「解雇」といっても、その理由により3種類に分かれています。まず、これら解雇の種類について知つておきましょう。

1)普通解雇

 勤務成績が著しく悪く、指導しても改善の見込みがない、あるいは、著しく協調性に欠けるために業務に支障をきたし、改善の見込みがない場合等。

2)整理解雇

 会社の経営悪化により、やむを得ず人員整理が必要となる場合。

3)懲戒解雇

 社員が極めて悪質な規律違反や非行を行なったときに、懲戒処分として行なう場合。

 これらの解雇に対して、会社として取るべき対処方法は、それぞれ異なります。これについては、後ほど詳しくご説明します。


◆解雇をするときの条件とは

 解雇は社員に与える影響が極めて大きいものです。このため、不当な解雇から社員を守ることを目的に、労働基準法をはじめとするさまざまな法律で、多様な規定が設けられています。

1)解雇が禁止されている期間と解雇理由

 次のような場合には、解雇が禁止されていますので、注意が必要です。



仕事中のけがや病気によって仕事を休んでいる期間及びその後の30日間の解雇


産前産後の休業期間及びその後の30日間の解雇


国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇、社員が労働基準監督署に申告したこと、労働組合の組合員であることを理由とする解雇


女性であること、女性が婚姻、妊娠、出産したこと等を理由にした解雇


育児・介護休業の申出をしたり、育児・介護休業をしたことを理由とした解雇

2)解雇予告及び解雇予告手当の支払い

 社員を解雇しようとする場合、30日前までに解雇予告が必要です。

 解雇予告は口頭でも有効ですが、後々のトラブル防止のためにも、解雇する日付と、解雇の具体的な理由を明記した「解雇通知書」を作成した方が良いでしょう。

 また、解雇予告などせずに、1日も早く社員を解雇したいというケースもあると思います。この場合には、解雇と同時に平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。

 ここで注意しなければならないのは、以上のような解雇予告をしたり、解雇予告手当を支払うというのは、解雇をするために、最低限しなければならない手続きだということです。これらを実行したからといって、解雇が必ずしも有効になるわけではありません。

 なお「社員が会社のお金を使い込んでしまった」など、解雇の原因が社員にあり、その責任が非常に重い場合や、大地震で会社の建物や施設が壊れてしまい、事業再開が不可能な場合等であれば、解雇する前に労働基準監督署長の認定を受ければ、解雇予告や解雇予告手当の支払いをせずに、即時に解雇することが可能です。

3)解雇事由を明示する必要性

 解雇するには、原則として就業規則や労働契約書(雇入通知書)に、どんな場合に解雇されるのか、その事由についてあらかじめ示しておかなければなりません。

 しかし、就業規則や労働契約書に解雇理由が明示されていても、その解雇理由が会社側に一方的に有利なものであったり、世間一般の常識からかけ離れていると判断された場合、解雇の権利を濫用したものとして、解雇自体が無効となる場合があります。

 就業規則等に記載する解雇理由は、誰もが納得出来る、常識的なものにしなければならないのです。


解雇するときに注意しなければならないこと

 以上のように、解雇には数々の制約があります。解雇の方法を誤ると、解雇自体が無効になったり、社員との間で裁判沙汰になるようなトラブルになつたりすることも珍しくありません。

 それでは、どのように対応すれば解雇についてのトラブルを回避できるのでしょうか。3種類の解雇について、ケース別に述べていきましょう。

1)普通解雇の場合

 この場合には、会社が解雇を避ける努力をどれだけしたのかがポイントになります。

 事例として、勤務成績が非常に悪く、いくら指導しても改善の見込みがない社員を解雇したい場合を考えてみましょう。

 まず会社として、その社員に勤務成績を改善させるための努力をしましょう。具体的には、数カ月間の期間を設け、適切な指導や助言を、一度だけではなく、何度も行ないます。口頭だけでなく、内容を文書にし、その社員に渡すことも忘れないようにしましょう。

 その一方で、いつ、どこで、どういう指導・助言をしたのか細かく記録しておきます。万が一その社員と解雇を巡って訴訟になった場合、会社は解雇を避けるためにどのような指導をどの程度したのかを示す文書や記録が、重要な証拠となるからです。

 さて、このような指導・助言をしても、勤務成績が向上しない場合、次に配置転換を検討してみます。現在の業務には適性がなくても、他の業務であれば可能性があるかもしれません。しかし配置転換し、同様に指導してもやはり同じ結果なら、解雇を検討せざるを得ないということになります。

 なお、単に成績が悪いとか、勤務態度が良くない等の理由だけでは解雇できませんので、注意してください。

2)整理解雇の場合

 会社の経営悪化等により人員整理を行なう整理解雇は、あくまで会社の都合により、何の落ち度もない社員の生活基盤を奪ってしまうものですから、より慎重な対応が求められます。「このように整理解雇すれば良い」という法律はありませんが、過去の裁判例等が積み重なって成立した、整理解雇するために会社はこれだけはしなさいという、次のような「整理解雇の4要件」というものがあります。


a.

会社の経営悪化等、整理解雇をする必要があること

b.

社員を解雇しないようにするため、会社として最大限の努力をしたこと

c.

解雇の対象となる社員の人選の基準、運用が合理的であること

d.

会社と社員との間で、十分に協議を行なうこと

 まずaですが、単に売上げが減少したとか、赤字決算になってしまったというだけでは整理解雇は困難です。たとえば、何年も赤字決算が続き、業績改善の見通しもなく、人員整理をしないと会社の経営が危ぶまれるといった状況に置かれていることが条件です。

 次にbですが、会社がなすべき具体的な方法として、役員報酬の減額や不支給、経費節減、残業規制、新規採用の中止、子会社への出向、希望退職の募集等があります。これらの中から会社として実行が可能な方法を実行し、何とか解雇を回避する努力をすることが必要です。とくに役員報酬のカットや希望退職の募集はどの会社にも求められるといっても過言ではありません。

 続いてc。経営者の好き嫌いで解雇する者を決めたり、結婚している女性をまず解雇の対象とする等、人選に合理的な理由がなかったり、差別的なものであったりすることは許されません。

 反対に、認められやすい人選としては、勤務成績が下位の者、病気がちで欠勤が多い者、高齢者等が挙げられるでしょう。

 最後にd。労働組合があれば労働組合と、なければ解雇の対象となっている社員に対し、解雇の必要性、人選の経過、解雇の具体的な手続き等について、誠意をもって説明し、理解を得られるように努力することが大切です。

3)懲戒解雇の場合

 おもな事例として、「社員が会社のお金を使い込んでしまった」、「社外で暴力事件を起こし、それが新聞に掲載されて会社の社会的評価を著しく低下させた」等が挙げられます。

 「悪い事をしたんだから、会社をクビになって当然だよ」と思われる方もいらっしやるでしょうが、ちょっと待ってください。

 普通解雇や整理解雇では、その理由が就業規則等に記載されていることが条件に挙げられますが、記載されてない場合でも認められる場合はあります。一方、懲戒解雇は、就業規則等に記載されていない理由で解雇することはできません。ですから、就業規則や労働契約書の整備が非常に重要になります。

 しかし、懲戒解雇が想定されるすべてのケースを記載することは不可能です。懲戒解雇理由の最後に、「その他前各号に準ずる程度の不都合な行為のあったとき」等と必ず記載しましょう。

 また、懲戒解雇の場合、退職金が減額されたり不支給になるケースが大半です。しかし「懲戒解雇の場合、退職金は支給しない」等の記載が退職金規程等になければ、通常の退職時と同じ退職金を支給しなければなりませんので、注意が必要です。

 トラブル回避の具体的な方法は以上のようなものです。とはいえ、いずれにしても社員が受けるダメージは非常に大きいので、一つ対応を誤るとトラブルになります。そこで人事労務担当者としては、日頃から次のような点に注意するようにしたいものです。


1)

就業規則、賃金規程、退職金規程、労働契約書等を整備し、法改正に迅速に対応し、見直し、変更を行なう(とくに解雇事由については重点を置きましょう)。

2)

社内の風通しが良くなるように努め、社員間のトラブルや問題社員の情報等が、素早くキャッチ出来るような体制を整える。また、情報をキャッチしたら迅速に対応し、トラブルを未然に防止する。

3)

社員を公平に評価できるシステム作りをする。たとえば、評価する上司などに客観的に部下を評価できるように、人事考課時のマニュアルを用意したり、研修を行なうなどする(不公平な評価が横行すると、社員の士気に影響するだけでなく、整理解雇の人選時にトラブルが発生しやすくなります)。

 これらのことができていれば、解雇を巡るトラブルを回避する、またはダメージを抑えることができるでしょう。

〔月刊 経理WOMAN〕