資金繰りを楽にするための「自己資本比率追求経営
   
作成日:09/24/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


財務健全化の“王道”を社長に提案してみよう!
資金繰りを楽にするための「自己資本比率追求経営」のススメ




 数ある経営指標の中でも最も重要なのは、自己資本比率です。この自己資本比率の目標を定め、それを達成することで、会社の財務内容は格段に良くなっていきます。ここでは、自己資本比率の意味や重要性、自己資本比率向上のための方法などをわかりやすく解説していきます。

 自社を強い会社にするためにも、ぜひ経理担当の皆さんから、社長に働きかけてみてください。

◆まずは自己資本比率の意味を復習しておこう

 「自己資本比率」といえば、経理担当者の皆様なら聞いたことはあると思いますし、多くの方はその計算方法もわかっていると思います。あらためてその計算式を示せば、以下のとおりとなります。


 見てのとおり簡単な計算式です。言葉で表せば、「自己資本比率とは、総資本に占める自己資本の割合」ということになります。では、自己資本、総資本はどの部分をいうのでしょうか? これについては上記の貸借対照表の概要を見ていただければ、わかりやすいかと思います。

 貸借対照表の資産の部(左側)の合計が総資産であり、負債および純資産の部(右側)の合計である総資本とイコールになります。いわゆるバランスシートですから、左右の合計は必ず一致しています。右側は資金をいかに調達したかを表しており、左側はその資金をいかに運用しているのかを表しているのです。

 この総資本の内、会社の自己資金である純資産の部が自己資本ということになります。これに対して負債の部は、他人の資金を借りているものですから、他人資本とも呼ばれています。


◆自己資本比率が大切なワケとは?

 さて、自己資本比率の計算方法はおわかりいただいたと思いますが、なぜこの比率がそれ程重要なのでしょうか? それは、自己資本と他人資本の基本的な性格を考えていただければ、よくわかると思います。

 他人資本は、他者から借りているお金、預っているお金ですから、いずれは返さなければならないお金です。それに比べ自己資本は、基本的には永遠に返さなくてもいいお金なのです。

 どれほど大きな会社であっても、資産には絶対的に限りがあります。その限られた資産の中で、返さなくていいお金の割合が増えれば増えるほど、資金繰りは楽になっていくはずですね。

 お金の使い方について会社の裁量権が増えれば増えるほど、余裕を持って自由に資金を活用することができます。自己資本比率が増加するということは、資金繰りが良くなると同時に、余裕を持って経営をすることができる、ということなのです。そして、そのような状況になれば、余程のことがない限り潰れない強い会社である、ということが言えるでしょう。

 自己資本比率を高めることで、会社の存続にとって最も重要な「資金力」をつけることができると同時に、会社の最大の目的である「継続企業」に近づくことができます。このような状況を目指すための指標が、自己資本比率と言えるのではないでしょうか。


◆自己資本比率を上げるためには─自己資本額を増やす

 自己資本比率の重要性は、十分わかっていただけたかと思います。もちろん、自己資本比率を結果として高くすることが大事なのですが、私がここでとくに強調したいのは、自己資本比率を向上させていくプロセスが重要、ということなのです。

 ここで、自己資本比率の計算式を、もう一度よく見てください。単純な分数式ですが、この比率を高めるにはどうしたら良いでしょうか? 小学校の算数の要領で考えていただければ、わかると思います。そうですね。分子(自己資本)を大きくするか、分母(総資本)を小さくするか、その両方をやるか、ですね。

 ではまず、分子を大きくするには、どのようにしたら良いでしょうか? それには、分子の構成を見てみる必要があります。貸借対照表の純資産の部を見てください。純資産の部(=自己資本)は、資本金、資本剰余金そして利益剰余金で構成されています。これらは二つのグループに分けることができます。一つは、資本金と資本剰余金のグループ、もう一つは利益剰余金です。

 資本金と資本剰余金は、株主が払い込んだ資本であり、これを分けているに過ぎませんから、元は株主のお金ということです。そして利益剰余金の方は、毎期毎期の利益の積重ねです。すなわち、毎期の利益の内、内部留保をしたものです。その積重ねが利益剰余金です。同じ自己資本といっても、株主が元々出したお金なのか、事業の成果として蓄積されたものなのか、という違いがあるわけです。

 この自己資本の額を増やしていくには、第1のグループ(資本金と資本剰余金)については、「増資をする」しかありません。増資をすれば単純に自己資本は増えていきます。しかし、未公開企業にあってはそう何度も増資できるわけではないですね。限りがあります。

 一方、利益剰余金を増やしていくには、これもひと言で言えば「利益を上げる」しかありません。利益を上げるためには、もちろんいろいろな要素があるでしょうが、ここではとても語り尽くせません。いずれにしても、自己資本の額を増やすには、増資をするか、利益を上げるか、基本的にはこの二つしかないのです。


◆自己資本比率を上げるためには─総資産を減らす

 さて、自己資本比率を上げるもう一つの方法、分母(総資産)を小さくする方法について考えてみましょう。

 総資産を小さくするには、当然ですが、資産を減らすことです。ただし、バランスシートは当然、左右(貸借)バランスするわけですから、資産が減るということは、右側の負債または純資産も減るということになります。

 たとえば、遊休固定資産を簿価で売却して現金化した場合、単純に売っただけでは固定資産が現金に変わっただけで総資産も変わりませんし、自己資本比率も変わりません。しかし、遊休固定資産を売った資金で、借入金など負債を返済すれば、総資産が減り、かつ負債が減りますので、自己資本比率はアップすることになります。いわゆる財務リストラです。

 会社のバランスシートを見直し、不要な資産を整理売却したり回収をしたりして現金化し、負債を減らしていく。このような財務リストラをすることにより、会社の財務内容を良くして自己資本比率を上げていくこともできるのです。バブル崩壊後、大企業などはこぞってこのような財務リストラに励んできたわけですね。


◆目安とすべき自己資本比率は?

 以上のように、自己資本比率を上げるには、分子の増と分母の減二つの側面があります。自己資本比率は、この二つの側面から会社を良くしていくプロセスを映し出す指標なのです。

 この二つのプロセスは、分子の側面は増資を別とすれば「利益を上げる」こと、すなわち損益計算書を良くすることです。そして分母の側面は「財務リストラをする」ことによって、貸借対照表を良くすることなのです。

 損益計算書と貸借対照表、この主要な二つの財務諸表を根本的に良くした結果が、自己資本比率に表されるということです。だからこそ、自己資本比率は数ある指標の中でも、最も重要な指標だと私は思っています。

 さて、この自己資本比率、どのくらいを目指せば良いのでしょうか? 一般的に、自己資本比率は30%が及第点と言われています。銀行などの評価でもこの30%という数字はよく聞きます。

 根拠としては、資金調達の三分法などと言われたりすることもあります。すなわち、短期資金で1/3、長期資金で1/3、自己資金で1/3を調達するのが、企業としてバランスが取れている、という意味です。しかしこの三分法、明確な根拠があるとは思えません。むしろ、自己資本比率については、実際に経営をしている経営者の実感の方が説得力があります。

 以前に、経営の目標を自己資本比率の向上一本に絞ってきた経営者から、直接お話を聞いたことがあります。その経営者は二代目として会社を引き継いだのですが、引き継いだ時には自己資本比率が8%弱しかありませんでした。そのため毎日資金繰りのことばかりを考え、奔走していたそうです。そこで自己資本比率をとにかく上げようと、必死の努力をしてきたわけですが、「自己資本比率が40%を超えた頃に、何か少し資金的に楽になったような気がし、60%を超えると急に資金繰りが楽になり、何の心配もすることがなくなった」とおっしゃっています。

 このことから私は、最低でも40%、できれば60%以上の自己資本比率を目指しましょう、といつも言っています。


◆自己資本比率を高めるために乗り越えるべき壁がある

 さて、自己資本比率の重要性、自己資本比率を上げる方法、そしてどの程度を目標にしたらよいかは、おわかりになっていただけたと思います。これを経理ウーマンの皆さんと経営者で協力して目指して欲しいのですが、そのためには乗り越えるべき壁があります。それは、税金の問題、資金繰りの問題です。

 自己資本比率を上げるためには、利益を上げ、それを内部留保として積み立てていく、というお話をしました。この場合の利益は言うまでもなく「税引後当期純利益」のことを指しています。税金を払った残りの利益、さらに配当などがあれば、それも支払った後の利益、これが利益剰余金として内部留保されるのです。

 すなわち、税金を払わなければ内部留保は貯まらない、自己資本比率は高まらない、ということです。これが中小企業にとっては、まずは乗り越えるべき壁です。

 税金を払うマインドがなければ、自己資本比率を高めることはできません。「税金は払いたくない。何としてでも節税する」という考えのもとでは、自己資本比率を高めることは無理です。その結果、企業の規模はいつまで経っても小さいまま、弱い体質のままということになってしまいます。

 さらに、「わかった。税金は払おう」と思っても、資金繰りという壁が立ちはだかります。利益が出たからといって、税金を払うお金がないことも多いのです。儲けたお金は、まだ未回収の売掛金であったり、在庫に眠っていたり、将来の売上のための投資に回っていたりします。企業というのは常に拡大再生産をしていくものですから、お金はなかなか留まっていてはくれないのです。

 この納税のための資金繰りをいかに乗り越えていくか、これも自己資本比率を上げていく際の大きな壁です。

 このような資金繰りの問題を乗り越えて、税金を払い内部留保をしていく、この努力が大変重要であり、企業の成長にとって貴重なのです。これらの壁をいったん乗り越えられるようになると、徐々に資金繰りもうまく楽に回転していくようになります。何しろ、税金を払っても60%の資金は理論的には会社に残るはずなのですから。

 以上のようなことから自己資本比率を上げること、そのための努力をすること、これは本当に企業にとって重要な目標だと思います。ぜひ社長にもこの記事を読んでいただき、強い会社・いい会社にしていって欲しいと心から願っております。


〔月刊 経理WOMAN〕