「社員持株会」の上手なつくり方・運用の仕方教えます
   
作成日:02/26/2008
提供元:月刊 経理WOMAN
  


社員の士気が上がる
「社員持株会」の上手なつくり方・運用の仕方教えます

◆そもそも社員持株会とは何?
 
 社員持株制度とは、社員の財産形成、会社に対する関心の向上、経営参加意識の高揚を目的として、会社が社員に「自分の勤めている会社の株式(つまり自社株式)」を提供する制度です。この持株制度は、社員に一定の特典を与えることで福利厚生の役割も担っており、その代表的な特典には「株式購入奨励金制度」があります。持株制度は上場会社の多くで既に導入されていますが、最近では未上場の会社でもさまざまな利点から積極的に導入を進めています。

 社員持株会とは、社員が自社株式を取得するために社員同士で作る(出資する)民法上の組合(団体)です。前述の社員持株制度を採用する場合は、社員持株会を設置することにより、社員株主の管理事務が省力化されます。また、未上場会社の多くは定款で自社株の譲渡に制限を設けていますが、持株会を通じて間接的に自社株を所有することで、購入時や売却時ごとに取締役会等の承認を受ける必要がなく、運営上とても便利です。

 さらに未上場会社の場合、持株会規約で「退社時には自社株式の持ち分を持株会に返還(強制換金)しなければならない」ことをあらかじめ定めることで、株式の分散を防ぐことができます。

 この社員持株会はどうしても必要というわけではなく、個別社員ごとに売買することも可能なのですが、その場合、個別社員の人数分だけ事務コストが増大することになるため、持株会を採用するケースが多くなっています。


◆社員持株会のメリットは?

 社員持株会のメリット・デメリットは上場会社(または上場を目指している会社)と未上場会社における“株式の市場性の有無”と、会社と社員株主の立場による違いがあります。

 未上場会社の場合について、簡単に説明を加えておきましょう。

 未上場会社の会社側のメリットとしては、オーナー経営者の相続税対策になる点が大きなメリットとして上げられます。法人税の面では役員報酬の損金不算入対策としても有効です。また、社員のモチベーションが上がることで、生産性の向上も期待できます。

 一方、社員株主側のメリットとしては、配当金を受け取れることが上げられます。社員にとって、配当金は待ち遠しいものです。

 デメリットとしては中小企業では、倒産の可能性が上場企業に比べて高いので、株式が紙切れになる可能性があるところです。


◆小さな会社でも実行可能なの?

 社員持株会の一般的なイメージは、社員が何百人もいる大きな会社ではないでしょうか。しかし、持株会が会社の資本政策や人的資源管理、オーナーの税金対策等の観点から有効であれば会社の規模は関係ありません。一つの例としては、ITベンチャーなどの中小企業が設立当初、株式や新株予約権付社債を与えることで優秀な人材を確保するケースがあります。

 運営上注意すべき点は、少人数だからといって各種書類管理や手続きをおろそかにしてはいけないこと、決算の内容はできる限り明確に開示することです。また、配当金が会社経営を圧迫することのないよう、社員との間で、配当の基準などを事前にしっかり決めておくことが必要です。

 社員持株会の株式供給方法としては次の三つが上げられます。

1)定時積立方式(月掛方式)
2)臨時積立方式
3)併用方式

 定時積立方式は、会員が定期継続的に毎月の給料や賞与から一定額を積み立て、株式を購入する方式です。

 臨時積立方式は、大株主からの特別分譲や第三者割当増資により、一時的に相当数の株式を取得するものです。この場合は多額の資金をまとめて積み立てなければなりません。三つめの併用方式は二つの方式を併用する方法です。

 なお、一般社員(同族関係者を除く)が取得する株式の価額は、配当還元方式により決定されていれば、課税上弊害がない限り贈与税がかかることはありません。配当還元方式より低い価格で個人から取得した場合は、売買価額と配当還元価額との差額に贈与税がかかることもあります。

 また、第三者割当増資を低額で実施した場合には、給与として所得税がかかる場合があります。

 さらに、株式の発行は有価証券の売出しに該当しますので、売出し価格と勧誘対象者の数に応じて、有価証券届出書または有価証券通知書を提出する義務が生じてくることもあります。


◆トラブル防止のポイントは?

 社員持株会の管理運営をしていく中でトラブルを生じないために、持株会規約が重要となります。社員持株会の規約は会社ごとに内容が異なります。また、株式の上場公開予定会社の場合は上場会社の規約に準じた様式で作成することになります。

 社員持株会で問題となるのは、退職した社員からいくらで自社株式を買い取るかということです。上場会社の場合は株式の名義書換をすれば済みますが、未上場会社の場合は、買取り価額の計算方法を規約に定めることでトラブルを避けることができます。

 一般的には社員が当初購入した価額(額面価額や配当還元価額など)で持株会が買い取ることが多いようです。

 ここでは詳しくは述べませんが、自社株式を買い取る際のポイントは以下のようなこととなります。

1)規約に買取り価額を明記する。
2)適正な配当を行なうことで投下資本の回収ができるようにする(不当に損をさせないようにする)。
3)社員が購入した価額より、不当に著しく低額で買い取ることのないようにする。


◆支払調書と所得税の確定申告

 参考までに、支払調書と所得税の確定申告についても触れておきます。

1)配当金の流れと申告の流れ

 社員持株会を民法上の組合(ほとんどの持株会がこれに該当します)として設立した場合の配当金の流れは、配当金をいったん会社が社員持株会の理事長宛に支払います。支払われた配当金は社員持株会を通じて、各会員に配分されるという流れになります。

2)支払調書

 会社が配当金を支払う場合には支払調書の作成が必要になります。支払調書の宛先は社員持株会ということになります。

3)社員持株会側の事務処理(信託計算書の作成)

 社員持株会から株主に対して配当金を支払った場合には、社員持株会は信託計算書を作成しなければなりません。信託計算書は社員持株会が提出する支払調書と考えてください。なお、この信託計算書の税務署への提出は、受取配当金が年間3万円を超える会員について行ない、1年間に支払う配当金が3万円以下の会員については省略できることになっています。

4)確定申告の留意点

 基本的に社員が社員持株会から配当金を受け取った場合は配当所得となります。非上場会社の場合は配当金の20%が所得税として源泉徴収されます。

 通常給与所得以外の所得が20万円以下の場合は、確定申告は原則として不要となり、これで課税関係は完結します。確定申告をする場合でも1年間に受け取る配当金が10万円以下の場合は申告不要ですので他の所得と合算する必要はありません。

 しかし、所得金額によっては申告することにより配当控除の適用を受け、所得税が還付されることもあります。

 なお、配当控除を受ける場合は社員持株会が民法上の組合として設立されていることが前提とされます。社員持株会が人格のない社団である場合は配当控除の適用はなく、配当は雑所得となります。

◇     ◇

 駆け足で社員持株会についてお話ししてきました。ここでご紹介した内容はあくまでも一般論を述べたものです。実際の適用にあたっては税理士等の専門家にご相談されることをお勧めします。なお、ご紹介した内容は平成19年12月現在の法令によります。


[参考文献]


「従業員持株会導入の手引」大森正嘉著/三菱UFJリサーチ&コンサルティング


「論点解説 新・会社法」相澤哲、葉玉匡美、郡谷大輔著/商事法務


「Q&A会社法対応 事業承継対策100のポイント」ASG税理士法人編集/新日本法規出版


「金庫株の税・会計・法律の実務Q&A」税理士法人山田&パートナーズ、優成監査法人編著/中央経済社


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